3-4

「決まったよ。

 来場客も招いての、校内イベントが。

 それも、来週の日曜」



 お昼休憩の際に、1年生のクラスに来て、嬉々としてげる安灯あんどう 明歌黎あかり

 俺は、思わず絶句した。



 早い。

 あまりにも、早ぎる。

 しかも、『決まるのが』でも、『伝えに来るのが』でもない。



 開催されるまでのスパンが。

 短いにも、ほどる。


 

 だって、『来週の日曜』ったら、明後日あさって

 たったの、2日後だぞ?


 

 さては……。



「……どんだけ前から、準備してた?」

だなぁ。

 そんなに時間も予算も掛けてないって。

 ゲーム用に、ちょっとしたVRアプリが必要だったんだけどさ。

 知り合いの知り合いに頼んだら、無償で引き受けてくれてさ。」

「どんな知り合い……?」

「『金亀』。

 田坂たざかくん、知ってる?」

「超知ってる……。

 復刻版のノベゲーとか、めっちゃプレイしてる……」



 マジで、何者だ?

 この人は。



 あの『金亀』とコネがるなんて、おかしいだろ?

 高2で『Sleapスリープ』に内定してるって時点で、バリバリに妙だったんだけどさ。



明歌黎あかりっち、『金亀』ともつながってるのっ!?」

「ちょっとぉ。

 人を、ヤクザみたいに言わないでよぉ。

 本当ホント、単なる偶然なんだって。

 私も最初、知らなかったし。

 軽い気持ちで相談したら、口利きしてくれただけだって」

「マジ、半端はんぱいっ!!」



 今日も今日とて、両手に華な安灯あんどう 明歌黎あかり

 見るに見兼ねた俺は、助け舟を出そうと試みる。



「それで、安灯あんどうさん。

 どうして、それを僕に?」



 質問という体で、注意を引く。

 こっちにタゲり、彼女は答える。



「君に、いの一番いちばんに教えたかったの。

 土曜あしたを挟む前に。

 今度、フェスでやるゲーム。

 そのヒントを教えてくれたのが、他でもない。

 君だよ、田坂たざかくん」

「……僕?」

「そう。

 言わば君は、このプロジェクトの企画者にして立役者。

 つまり、私の大恩人なのです」



 胸に手を当て、目を閉じ。

 かと思えば、こちらに微笑ほほえみかける安灯あんどう 明歌黎あかり



「やっぱり、君はすごい。

 また、助けられちゃったね。

 流石さすが、私のお墨付き」

「多分、偶然だよ。

 別に、狙って出来できわけじゃない」

「そうだよ。

 だから、すごいんじゃん」

「買い被りだよ。

 そもそもぼくは、まだ明かされてない。

 その『ヒント』、『ゲーム』についての、詳細を」

「うーん。

 それは、まだ秘密かなぁ。

 当日までの、お楽しみってことで。

 っても君は、すでにシードみたいな扱いだけどね。

 なんせ、この私に勝った猛者もさだし」

安灯あんどうさんに、勝った?

 このぼくが?」



 冗談はしてくれ。

 逆立ちしても、敵いっこないだろ。

 そんなこと、今まで、一度たりとも……。



「……あ」



 った。

 確かに、彼女を負かしたことが。

 それも、二回も。



「思い出した?

 それが、正解。

 そして、ヒントだよ」



 ……おい。

 まさか、その『ゲーム』って……。

 しかも、『文化祭の穴埋め、代替案』ってことは……?



「あははっ。

 ちょっと、フラグ撒きぎたかな。

 でも君には、感謝の意を表したい。

 だから、最後に……もう一つだけ、特別サービス。

 君にだけ、フライングで聞いてもらうよ。

 このゲームの、懸賞を」



 俺の横に周り、顔を近付け。

 ほのかにシトラスの香りを漂わせながら。

 安灯あんどう 明歌黎あかりは、耳打ちして来た。



「……『ナコード』だよ。

 この、私の」



 世界が、思考が止まった。

 止まりかけた心臓が、張り裂けそうになった。



 超絶至近距離で、彼女の声を聞いたからじゃない。

 無論むろん、自分が好待遇されてることへの優越感でもない。



 彼女が指定した、優勝賞品。

 その内容に、衝撃を受けたのだ。

 まるで、雷に打たれたでもしたかのように。



 そう。

 ピカピカと輝き、感電させ。

 先程の彼女は、雷そのもの。



 そんな彼女から発せられた言葉は。

 さしずめ、『雷鳴ライメイ』。



 そんな俺のさまを見て、愉悦に浸り。

 安灯あんどう 明歌黎あかりは、得意気、満足気な顔をし。

 パンッと手を合わせ、いつもの愛想笑いで誤魔化ごまかした。



「そんなわけで。

 みんなのご参加、奮って待ってまーす。

 当日は、あくまでも文化的に、騒ごうねぇ」



 要件だけを告げ、舞台裏にけるような声援を受けながら、クラスをあとにした。

 なおも固まっている、俺を残して。



 本日の天気は、晴れのち曇り。

 所により……雷。

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