第3夜「ライメイ」

3-1

 Sleapスリープ

 四半世紀前に開発されたアプリと、その世界の名称。



 特筆すべき最大の特徴は、『sleep』『leap』を冠する通り、「睡眠中限定で、別世界へと飛び立てる」こと

 丁度、過去や未来に飛ぶ「タイムリープ」のように。



 仕事や学業、コミュニケーションに追われ趣味、プライベートを満喫出来ず精神的に疲弊している現代人のために作られた。



 このアプリをインストール、起動してさえいれば、VRゴーグルなどがくても、睡眠時に自由に活動できる。

 また、信頼、認識している相手とは、『Sleapスリープ』内でも会える。

 それ以外の、知らない、興味もない、嫌いな相手、その他全ての事象は、全てシャット・アウトされ、好きな物のみで構成される。

 さっきみたいに、メイからレイに切り替わった瞬間、色気付いた連中が安灯あんどう 明歌黎あかり(ついでに俺)を見失ったのは、そういうトリックである。



 なお、使用者の意識によって世界が構築される。

 故に、鮮明な記憶とイメージが残っていれば、より的確な再現が可能となる。

 逆に、記憶が朧気おぼろげであれば、それ相応の再現度となる。

 具体的に言えば、「回らない寿司屋を再現しようとしても、行った直後と数年前とでは、まるで味が変わる(使い手の記憶力にもよる)」。

 また、それを逆手に取り、「記憶、強い思い込み、イメージ」などによって、クリエイティブが無くてもアレンジが可能。

 つまり、「自分の切望するキャラをスマブ◯に参戦させる」、「楽器の心得がくてもノリで演奏出来できる」などといった力技も通せる。

 


 この世界での創作、出来事などは、現実には反映されない。

 安灯あんどう 明歌黎あかりが言った、『どうせ現実世界では、なにも変わらないんだから』という言葉。

 その意味は、そういう、「関係性や記憶が現実には引き継がれない」ということだ。

 ただし、『Sleapスリープ』内には残るので、身バレを防いで活動するには効果、効率的。



 ストレス発散を目的としている側面もあるため、ともすれば他者にドン引きされ兼ねない機能もある。

 例えば、ひそかに同年代の異性と落ち合ったり(レイ参照)したり、器用に歌ってチヤホヤされたり(メイ参照)などなど。

 だが、余りに悪意に満ち満ちている(嫌いな人間達を殺戮するなど)は不可能。

 精々、もぐら叩きやワニワニパニッ◯する程度である。

 


 具現化したイメージを味わうだけなので、基本的に費用は掛からない。

 ゆえに、ダイエット中のチート・デイとしても有効。



 使用者の体調などを考慮し、最適かつ快適な睡眠を提供してくれるなど、名前負けしてない機能も備えている。



 とまぁ、長々とした説明は、このくらいにして。

 ようは、『睡眠時間を自由な活動、趣味時間に充てられるようになった』、というわけだ。



 もっとも。

 それが普通になった減退においても、流石さすがに知らなかったし、驚いたけど。

 意図的にも無意識にも切り替えられる、アバターの複数持ちというのは、



 この事実を踏まえて、思う。

 多人数向けのメイはさておき。

 一体、どうして僕は、ああもすんなり、レイを見付けること出来できたのだろう、と。



 レイについてはなんの知識もい、共通点さえ薄かったはずなのに。

 姿だって似てないし、髪型や雰囲気や衣装や声も違うのに。

 


 いや……そうでもないか。

 レイメイの生まれた、あの日。

 カラオケで見た、安灯あんどう 明歌黎あかり

 彼女は、普段と正反対な様子ようすだった。

 丁度、レイとメイばりに異なっていた。

 


 その印象が強ぎて、再現しようとした?

 あるいは、あのモードこそが、素の安灯あんどう 明歌黎あかりだとでも?

 


 ……分からない。

 断定するには証拠、材料が足らない。

 やはり、もっと検証しなくては。

 そのためにも。



「っ!?」



 考えに耽る俺に、日付の変更を知らせるアラーム。

 落ち着きを取り戻した俺は、背凭れに身を預け、伸びをした。



 ……明日も学校だ。

 億劫でしかないけど。

 そろそろ、眠らないと。



 そう決め、椅子いすから降り、床に就く。

 トケータイで『Sleapスリープ』を起動するのを、忘れずに。

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