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「にしても、『レイメイ』か」



 着席し直し今一度、食事を堪能している途中で、唐突に口にする。

 レイは、口に含んでいたチーズバーガーをコーラで流し込み、僕に尋ねる。



なに

 なにか、意味でもるのかしら?」



 ……なんく思っていたけど、やはり偶然か。

 きっと『レイ』って名前も、『冷』から取ったにぎないんだろうなぁ。

 間違っても自分の名前からではないんだろうなぁ。

 などと考えていた俺は、失礼ながら、彼女は成績までは優れていなかったのを思い出した(だからこそ余計、親しみやすかったのだろうけど)。



「『黎明』って言葉がるんだ。

 ちなみに、『明け方』『夜明け』のこと

「ふーん。

 つまり、『あたしとケートで、長きに渡り繰り広げて来た、レイメイ決定戦に終止符を打つ』。

 さしずめ、そんな感じかしらね?

 なんだか、ロマンチックね。素的だわ」

「だと、いけどね」 

「意地でも、そうするのよ。

 あたしとメイと、ケートでね」

「……お手柔らかに」



 にしても、と思う。

 メイでもレイでも、そんなに印象、本質は違わないんだなぁと。

 フィクションだと、こういう手合いは決まって、もっと偉そうだったり、ドSだったり、暴力的だったりするものなのに。



 まぁ、実際に、そんなふうだったら困るのは俺だし、そもそも同盟にも参加しないんだけどさ。



 もしかしたら、単に子供っぽいだけなのかもしれない。

 デフォな仏頂面も、実は反抗期めいたものなのかもしれない。

 そう考えたら、そういう態度まで途端に可愛く思えてならない。



「あ、ごめんなさい、ケート。

 ちょっと待っていて頂戴ちょうだい



 俺になにやら断りを入れ、前髪の分け目を逆にするレイ。

 すると、それまでのアンニュイ、クールなオーラが消え去り。

 く見知った、明るくフレンドリーな明歌黎あかり、メイが現れる。



「あははっ。

 驚かせちゃって、ごめんね?

 えと……『ケートくん』。

 で、いかな?

 レイだけじゃなく、私とも仲良くしてくれるとうれしいなぁ」



 両手を合わせ、ウインクし、赤くなった頬をうれし恥ずかしそうに掻き、上目遣い。

 そんな、あざとい仕草のオンパレードを、違和感いわかんなど微塵もないまま、遺憾いかんく披露するメイ。

 


 突然、惜しい無自覚アピールをお見舞いされた俺は、気遅れがちに襟を正し、背筋を伸ばし、軽く会釈する。



 驚いた……。

 記憶は、リアルタイムで共有、更新してるのか……。



 余談だが、意外とスキンシップは少ない辺り、世渡り上手じょうずというか、ちゃっかりしてるというか、逆にそそられるというか。



「なーに変なこと考えてるのよ」



 などと思っているうちに、レイがニヤつきやがらツッコみ、デコピンをして来る。



 ……メイと話せなかった。

 折角せっかくの、千載一遇のチャンスだったのに。

 あーでも、したらしたで、悶々とした夜を過ごすだろうし、これでかったかもしれない。

 そう思うことにしよう。



「……なんで、切り替えられたの?」

「聞きたい?

 ふーん。

 そんなにあたしに、興味がるのかしら?

 あるいは、メイに?

 もしくは、両方とか?

 ケートってば、見かけによらず、情熱的、大胆なのねぇ。

 好きよ? そういうの。

 うふふ」

「そういう揶揄からかいするなら、もういよ」

「もぉ。

 ノリの悪い人ねぇ。

 可愛かわいいから、嫌いじゃないけども」



 胸に手を当て妖艶な仕草を意図的に振る舞ってから、レイは答える。



「簡単よ。

 ケートと鉢合わせる前まで、記憶をリセットしたの。

 で、単なる一クラスメートに逆戻りしたあなたに対して、あたしのキャラ変スキルがシームレスに発動したってこと

「……地味にでもなんでもく、ひどくない?」

「細かいことは、言いっこし。

 あと、それ以外に、我慢出来できなくなったメイが飛び出して来ることるから、覚えておいて頂戴ちょうだい

 それより、仕切り直しましょう。

 今日の、二人の出会いを祝して」



 ……この子、やっぱり器用だ。

 そのくせ、マイペースで強かだ。

 そしてなにより……憎めない。

 一番いちばん、手に余る人種だ。



 でも、まぁ……なんだってい。



 俺が、彼女に求められたという事実(理由はどうあれ)。

 そして俺が、彼女と親しくなれたという現状(経緯はどうあれ)。

 それだけで、俺は満足だ。

 少なくとも、今の内は。



「ケート?」



 すでにスタンバイ済みのレイが、不安そうに俺をいぶかしんだ。

 


 なるほど。

 大なり小なり、振り回してる自覚はるのか。



 本当ほんとうに……根っからの善人だなぁ。

 益々、興味が湧いて来た。



「ごめん。

 はい」



 誤りつつ、俺もグラスを持つ。

 ちなみに中身は、俺がジンジャーエールで、レイが葡萄ジュース。

 それっぽい色と雰囲気だが、至って健全である。

 なんて言うと、言い訳めいてる所為せいか、藪蛇っぽい気がするが念の為、補足しておく。

 CEROセロ万歳。



「乾杯」

「乾杯」



 互いのグラスを合わせ、奏でる二人。

 そして俺達は、それぞれの好物を好きなだけ食べ始める。

 もっとも、そういう風には見られてないとはいえ、異性が相手な以上、多少は食べ方やマナーに注意したけど。



「あー!

 二人だけ、ズルーい!

 私も、食べるー、乾杯するー!

 はい、ケートくんっ。ウィーッス!」



 と思いきや、なんの前触れもくメイが出て来て、俺にグラスを伸ばしてきた。

 


 ……ところで、乾杯の挨拶って、そんな感じだったっけ?



「う……ウイーッス」



 真偽の程は定かではないが、えず乗っておこう。

 そう思い、真似マネてみるが、どうやらメイはご不満だったらしく、柳眉りゅうびを逆立てる。



「元気が足りないっ!

 もっと、アゲてこっ!

 ほら、もっかい!

 ウィーッス!」

「……ウイーッス!」

「『ウイ』じゃなくて、『ウィー』!

 さぁ、もっかい!

 ウィーッス!!」

「……っ!!

 ウィーッス!!」

「まだまだ行っくよー♪

 ウィー、スーゥッ!」

「ウィー、スーゥッ!」

「ウィッスッスー!」

「ウィッスッスー!」

「ウィスウィスウィスー!」

「ウィスウィスウィスー!

 って、そろそろくない?」

「あははっ♪

 やっぱりケートくん、面白〜い♪

 てか、思ってたよりノリ〜♪」

「……」



 もしかして……。

 本当ほんとうに、もしかしてだけど……。



 実は、メイの方が厄介だったり、する……?



 そんな疑惑を抱いていたからか。

 その後もしばらく妙なコールを要求され、乾杯は中々に遠のいたのだった。



 こうして、レイメイとの最初の夜は、どうにか終わり。

 二人とのいくつかの夜が、始まりをげた。

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