5
馴染みの居酒屋の2階の座敷席に集まった【捜し屋】全員と、もえむと我相。注文してすぐに我相は大ジョッキのビールを空にして、つまみのなんこつの唐揚げを瞬く間に半分片付けた。
「ホント、ありゃ頭おかしいんですって!」
「何回それ言うねんって!」
「かれこれもう18回近く言ってる!」
「数えてたんかいな鵲!頼みますわホンマ」
我相はもう既に目が据わってきている。それを客観的に何も言わずにじっと見つめる俺、天峰、充の年長組……
「それで?その呪いの言葉って?」
「ホント、頭おかしいんですって!」
「そりゃもうわかったっちゅうねん!」
「19回近く言ってる!」
「お前、その時点で【近く】いらなくね?」
もえむが我相にビンタをする。こっちも結構、顔が赤くなっている。
「……え?」
「おいタコ助が!訊いてんじゃねェか!頭おかしい頭おかしいってナンタラの一つ覚えみてぇによォ!」
「…………はい」
「…あぁ、なんだか眠くなってきちゃったン」
もえむが美音に寄りかかるように肩に頭を乗せた。我に返った我相は口を開く。
「あの教団にとって、【かす】って言葉は呪いを意味する【curse】に響きが似てるからって、タブーとされてるんです。特に呪われた言葉が【わぁ、イカすぅ!】だそうで……」
「なんやそれ。けったいな話やな。そんなんであんさんら、幽閉されとったんか?」
「まぁ……」
「因みに、我相さんは何て言ったんです?」
美音は寄りかかってくるもえむを寝かせて言った。
「確か、【胃下垂】って……」
「……大変だな、お前らも」
「でしょ?毎日言葉を選ばないと、異端審問官に連れて行かれて矯正されまして……」
「そいつは許せねぇな」
「あ、あと……」
我相は本気の顔になった。
「今度は音路町に、一斉に教団幹部を差し向けて、暴動を起こすとか何とか……呪いに満ちあふれた世の中を粛正しようって……」
「そりゃ、マジか……」
「だ、そうです」
「これ凄い情報ですよ!アマさん、これを証言として御夕覚刑事に……」
「いや、待て」
――沈黙と、すぅぴぃというもえむの寝息の中、カタリとグラスをテーブルに置いて口を開いたのは天峰だった。
「ハリさん、これはもう重要証言として有効じゃないすか?もう勝ったみたいなもんですよ?」
「甘いな、このサクランボみたいに……」
グラスに残ったサクランボをパクリと銜えて、冷ややかな目つきで天峰は言った。
「あっさり終わらせちゃ、面白くないだろ」
「……え?」
「なんつか、ヒリヒリしないよな?」
「……」
「まぁ、任せろ」
にやりと邪悪な笑いを浮かべた天峰は、低くてざらついた声で言った。
「この天才、針生天峰様の恐ろしさをじっくりじ~っくり…味わわせてやらなきゃ……」
美音が俺に呟いた。
「ハリさん、やっぱヤバい奴じゃん」
「……だな」
「よし、そうと決まれば作戦だ」
こうなってしまった天峰は正直、俺にも止められない。くわばらくわばら……俺は早々に会計を済ませ、店をあとにした。
――その後にいなくなったのは、天峰と鵲だった。俺は心の中で鵲に合掌した。
すまない、この恩はいつか返す。
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