さて、ここからは後日談からの展開。ある程度の脚色はしているが、ほぼそのまんまの事実を述べている。

 天峰作の白いローブを纏い、3人は円笑教の総本部に乗り込んだ。本部の玄関にはでかでかとあのお面と同じ口を開けて笑うたこ焼きみたいなシンボルが掲げられている。


「何方かな?」

「円笑教の広報の方はいらっしゃいますかな?」


 天峰の横に立っている那吒(!)が言った。ややローブが似合っていない。その脇にいるのは鵲である。


「広報は私ですが」

「お名前を伺いたい」

「田中です」

「なるほど、我々はこの音路町で新しく宗教法人を立ち上げる、【光輪教】の広報であります。そしてこの方がその教祖であらせられる」

「針生だ」

「針生です」


 天峰はぼそりと呟くと、広報の田中に一礼をした。田中はくせ毛の年齢不詳の色白の男。肌艶がいいので多分若いのかもしれない。


「その光輪教の教祖様が、如何なる御用で……」

「この場所には、やや邪な力が感ぜられる」

「なんと……?」

「早々に退かれるがよろしかろうと……」

「何を仰られるかと思えば……」


 鵲はぶるりと震え、懐から今川焼きを取り出してがつがつと齧り始めた。


「如何なされた?」

「向こうに、教祖様が?」

「何故、それを?」

「黒い邪な影が、彼を包むのが見えました」


 鵲は備わった特殊能力で空間の記憶を読み取った。何人かの教団員がそこに強制連行される画もしっかり鵲は見た。


(ハリさん、向こうに拉致された人達が……)

(あぁ、だろうな)


 天峰は教祖の間に向かった。あのシンボルを象った扉を開くと、教祖の後ろに水晶玉のような御神体(もちろん、あの黄色い笑った顔)。その前にローブを羽織った無駄な髪の毛が1本もないつるりと禿げた肥えた男。


「なんだね君達は」

「我々は【光輪教】。この場所から早々に立ち退く事を薦めに来た」

「何故だ?」

「黒い邪な影が、貴方をいつか覆い隠し、未曾有の禍をもたらすでしょう」

「下らぬ」


 教祖はひらひらと手を振って言った。


「かような事を言いに来たのか?」

「それと、胡乱なことは考えない事だ」

「不愉快だ。立ち去れ」

「無礼な。天罰が下るぞ!」


 3人は円笑教の本部からつまみ出された。きょとんとした顔をして那吒は言う。


「あの御神体の後ろの棚に隠し扉があって、そこに拉致された人達が?」

「は、はい。間違いないです」

「なるほどな」


 天峰がローブから静かに何かを取り出した。


「それ……」

「これは、本物だ」

「えっ?だってあそこに御神体が……」

「あれはオレが作った」


 天峰は寸分違わぬ贋作を作る天才だ。昨晩のうちに本物とすり替えたのだ。


「警察が踏みこむ前に、面白いことになってるはずだ。むふっ、ぬふぬふぬふ……」



 その翌日、教祖をはじめとした教団幹部に逮捕状が出たらしい。踏みこむ前に【捜し屋】の全員、そしてもえむと我相、御夕覚、星花、那吒は集結し、【円笑教】の本部の前に集まった。一人にやにやが止まらないのは天峰だ。時計を見ながらにやついている。


「あ~、早く踏みこみたいな」

「どうしたんだ?天峰」

「オレの盛大なプレゼントを、あの教団にくれてやるんだよ。そろそろだな」


 御夕覚は苦笑いをして天峰を見ている。


「何が起こるっていうんだ?」

「ほら、そろそろだ」


 天峰が言ったその刹那。本部の中から破裂音が聞こえ、中から悲鳴が続いて聞こえてきた。


「おほっ!やった!」

「踏み込む…ぞ?」

「行こう行こう!」


 天峰を先頭にして、俺達は悲鳴が聞こえる本部の中にわらわらと流れ込むように踏み込んだ。


 

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