「いらっしゃいませ~」


 美音が元気よく声を掛けたのは、3人組の男女。一人は柔和な目の細い男。生活安全課の刑事である御夕覚悠。そして小柄で中学生にしか見えない刑事、雨尾星花。もう一人は……見たことがないが、星花より若干背が高いくらいの身長の浅黒い男。サングラスをかけている。


「お、来たな」

「悪いな。折角声をかけてくれたのに。ってか、お前いつの間にこんな可愛い娘を雇ったんだ?」

「妹だよ」

「へ?妹?冗談はよしこちゃんだぜ?天河」

「センパイ、寒すぎます」

「センパイ!どこのよしこさんでありますか?」


 俺は御夕覚に訊いた。


「そこの雨尾ちゃんなら知ってるんだけど、そこのあぶ刑事みたいなサングラスは知らないぞ?」

「新人だよ。煌小手那吒こうこでなた

「押忍!今川焼き屋さんの噂はかねがね聞いておりました!」

「とりあえず、3個貰おうか?」


 御夕覚と那吒は黒。星花はずんだを注文した。


「どうなんだ?調子はよ?」

「どうもこうも、堂本光一っすよ旦那」

「センパイ、全くもって意味が分かりません」

「センパイ!犯人は堂本光一なんでありますか!?」


 いつものようにさらりと流す。突っ込みは星花に任せよう。それにしてもこのあぶ刑事は真面目なのかよく判らない。


「不調なんだな?」

「あぁ、全然糸口が掴めないんだよな」

「センパイ、突っ込むつもりだったんですが、たまにちゃんと喋るんですね?」

「センパイ!糸が止まらないのは、端っこを玉結びにしていないからであります!」

「何の話をしてるんだお前は!」


 御夕覚はなんだか苦々しい顔をしながら俺の焼いた今川焼きを齧る。


「なら、今まで失踪した人達の共通点はないんだな?」

「あぁ、今んとこはね」

「主婦、会社員、学生……全く共通点がありませんから……」

「押忍……」


 俺は思い切って御夕覚に訊いてみた。


「なぁ、お前あの我相の家には行ったのか?」

「いや、まだだけど」

「礼状は?」

「これから向かおうとしていたところですから……」

「お前、捜査前にここに寄ったってことは…… 

「察しがいいな、天河」


 御夕覚はにやりと笑った。


「ここは【捜し屋】の力を借りたい」

「えぇ、上には勿論内緒で」

「勿論、上とは上層部であります」

「……そりゃ、分かるよ」



 俺は【甘納豆】と鵲に召集をかけた。もし家から誰かに連れ去られたとなると、間違いなく家の空間はその状況を記憶している。そうなると、鵲のオブジェクト・チャネリング能力が抜群に使える。俺はてんこ盛りの今川焼きを携え、我相の家に向かう。


「学生のクセに、生意気な家に住みやがって……」

「センパイ、この人の方が私達より稼いでいますから」

「押忍……!」


 自動で開く門扉だ。主がいない為うんともすんとも言わない。俺は裏口から塀を乗り越える。後に夜湾、彩羽、那吒、星花、御夕覚、鵲、もえむ、美音が続く。


「もえむちゃん、ここには来たことある?」

「はい、何度か……」

「ほんまか、なら少しはわかるんやな?」

「はい」

「なぁ鵲、頼む」

「……えぇ、いきます」


 鵲が玄関あたりをチラ見した。びくりと顔を後ろに仰け反らせると、顔色を悪くして息を荒げている。


「ここからどこかに連れ去られた訳じゃなさそうです……ですけど……」

「どうしたんですか?」

「なんだか、様子がおかしかった」


 今川焼きに貪るように齧り付いた鵲が言う。


「鵲さん、例えば?」

「なんていうか……なんか被ってたような……」

「へ?何被るねん?」

「なんか……お面みたいな……」

「何じゃそりゃ?もえむちゃん、知ってる?」


 首を傾げるもえむ。俺達は玄関を開けて中に入る。家の中は小綺麗に片付けられている。片付けられているというよりも、もともとあまり物がないようだ。

 そこから階段を上がり、我相の部屋に入る。やはりボカロPらしく、部屋にはパソコン、ギター、ピアノ、ベースといった作曲ツール。そして……


「あ!」

「鵲?どした?」

「これ、あ、あの、お面……」


 机の脇に捨てるように落ちていたのは、何やら厚紙を切って作ったような面。黄色に頭の部分が茶色。口を半月型に開き、にっこりと笑った顔を模している。


「何だこれ。もえむちゃんわかる?」

「いや……」

「誰か、わかるか?」

「こ、これは……」


 星花はしゃがみ込んで言った。


「新興宗教の面です。確か、名前は……円笑教……」

「えんしょうきょう……聞いたことないなぁ……」

「センパイ、密かに上がマークしている教団ですよ。何で知らないんですか?」

「どんな教団なんです?星花さん」

「アタシには、よくわからないけど」

「知らんのかいな……」


 夜湾は控え目に突っ込んだ。俺はその名前を頭に叩き込むように覚えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る