木枯らしが木の葉をヤバいくらいに舞わせていたその日、俺は今川焼きを売り終わり、【甘納豆】を訪ねた。動画撮影を終えたばかりの二人はこちらに向けて歩いてきた。


「アマさん、毎度。その顔は間違いなく、【捜し屋】の仕事絡みですよね?」

「察しがいいな、彩羽。まさしくそうだよ」

「これから鵲連れて飲み行こかと思ってたとこなんすわ。あ、来た来た」


 鵲がやって来た。こちらに頭を下げると、小走りになった。緑色のナイロンパーカーに、ジーパンを履いている。


「アマさん、御無沙汰してます」

「飲み行くのか?」

「の、つもりだったんですけど、なんかありそうですね?」

「そう。ちょっと作戦会議といこうか。折角だからゲストも呼びたいし」

「え?女の子やったらええなぁ」

「そうだよ。可愛らしい女の子だ」

「うひょ、合ってた!」

「漏れなく天峰も呼ぼうかと」

「ハリさんも?」

「あぁ、ひょっとしたら、あいつのピッキングを使わせてもらうかもしれない」


 神業のような手先の器用さをもつ天峰。ピッキングの腕前も一流だ。問題は……


「ハリさん、来るかなぁ」

「どうかな。充は仕事だしな」

「ま、おらんかったらおらんかったで、どうにかしましょ」



 美音、夜湾、彩羽、鵲。そして偶然にも捕まった(というより、晩飯で釣った)天峰に、もえむ。7人はいつもの居酒屋に集まった。あまり酒を酌み交わしながら会合はしないが、今回はまぁ、いいとしよう。


「お兄ちゃん、皆来たよ」

「珍しいっすね。ハリさんが来るなんて」

「なんだか面白そうだと思ったからな」

「アホな、腹減ってたからやないんですか?」

「まぁな。今日の昼はたこ焼きを20舟しか食べてないからな」

「ようけ食ってるやないすか!」


 もえむはやや異様な風体の天峰を見て少し目を泳がせた。美音は言う。


「ハリさん、悪いひとじゃないからね?」

「はっ、はぁ……」

「にしても、こないな可愛い娘。何捜してんの?」

「彼を……」

「ンだ、コブつきかよ。まぁいいか」

「残念がるなよ彩羽。詳しく話してくれないか」


 もえむは我相がいなくなってしまった事、我相がボカロPの【ワーイ】である事、一軒家を借りて住んでいる事を伝えた。


「バリバリ有名人やないかい……」

「にしても、あの有名人がこんな、その……坊主っくりだとは……」

「しかもこんな可愛い彼女さん。世間って不平等だよなぁ。ねぇハリさん」

「お、オレはそんなのは興味ない」


 俺はビールジョッキを半分片付け、本題に入った。


「夜湾、ダウジングできそうか?」

「ん~、ちょっと難しいかもしれへん。何しろ、ぼやけまくってようわからへんのですわ」

「なら、やっぱり忍び込むしかないか」

「お、オレの出番かな」

「……でもALSOKとは入ってたら、通報されちゃいますよ」

「……あ」

「お兄ちゃん、ツメが甘いって!」


 俺はビールを空にした。アルコールでやや頭を冷やそう。いや、熱くなってしまうか。


「い、いや、アマさん。他にありますよ?」

「どうした?鵲。他に?」

「あの、け、刑事さん」

「あ~!あの目開いてない!」

「駄洒落ばっか言ってる!」

「御夕覚か!」

「お兄ちゃん、刑事さんに知り合いが?」


 御夕覚。生活安全課の刑事で、俺の昔からの友人。多分飲みに誘えばすぐにやって来るであろう逸材だ。


「ちょっと連絡してみたらええやないすか?」

「だな。ちょっと待ってろ」


 俺はほろ酔いの頭のまま、御夕覚に電話をかけた。1コールもしないうちに電話を取った御夕覚から余裕の欠片は一つも感じられなかった。


「お、御夕覚。俺だよ俺」

【天河か。どうした?】

「飲みに行かないか?」

【すまない、飲みたいのはヤマヤマなんだが、俺様はちょっと最近忙しくてな】

「どうした?まさか失踪?」

【……お前、なんか知ってるのか?】

「ボカロPが失踪したって奴か?」

【……そんだけじゃないんだなぁ】

「え?」

【今、この音路町は神隠しかってくらい失踪する人が多くてな】

「何だって?」

【すまないが、今日は勘弁してくれ。日を改めて話そう。なんだか、お前ら一枚噛んでそうだからな】


 俺は通話を切った。楽しそうに飲んでいる【捜し屋】のメンバーを見て、今日はやめておこうと思う。当のもえむも、軽く気持ちよさそうに酔ってそうだから。

――とりあえず、次の一手は明日以降に考えることにしよう。

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