3
「アマさん!」
夜湾と彩羽、引っ張られるように鵲もやって来た。俺は背の低い木が植えられた植え込みの煉瓦から腰を上げた。
「美音ちゃん、おらんようになったって?」
「あぁ、目を離した隙に」
「誰か見た人は?」
「キャッチに声をかけられて、逃げたみたいなんだよ。くそっ、留守番させときゃよかったな」
「とりあえず、捜しましょ」
夜湾は首から提げていたクリスタルのついたダウジングロッドをだらりと垂らした。鵲はとりあえず買ったらしいマリトッツォを彩羽に手渡すと、すぅと大きく息を吸い込み、通りをチラッと見た。
「はっ、はぁっ!」
鵲はビクビクと体を波打たせている。頭の中には空間の記憶がまるでストロボみたいにバシバシと明滅しているのだろう。
「アマさん、こっち!」
鵲はちまちまと歩き出した。彩羽から受け取ったマリトッツォをまるで貪るように齧りながら。
「アマさん、しっかりしましょうよ」
「ほんまっすよ。わいらが見つければいいだけの話や。あ、こっちみたいやな」
夜湾と彩羽は精一杯俺を慰めてくれている。夜湾のダウジングロッドに反応があるという事は……この音路町にいるはずだ。俺は祈るように夜湾と鵲のあとに付いていく。
「あれっ?」
「どうした夜湾」
「こっちや、せやけどここ……」
目の前には運河が広がる。向こう側にある風変わりな置物が飾られているアトリエ……
「天峰のアトリエ?」
「ハリさんの家やないか?」
彩羽は陶芸家のタマゴ、天峰のアトリエの前に立つと、引き戸をこんこんと叩いて訊いた。
「ハリさん、おれです。いたらいるよって返事してください。いなかったらし~んって返事してください」
「……」
「ハリさん、いなかったらし~んって……」
「…………」
「いなかったらし~んって」
「リアルにおらへんのやないかい!珍しいこともあるもんやなぁ……」
俺はスマホを抜くと、天峰の番号を呼び出し、通話をタップした。
「……」
【…】
「………」
【…】
風の音と何かの話し声のようなものが聞こえる。通話がつながったようだ。俺は訊いた。
「天峰、俺だ。今どこなんだ?」
【アマさん?】
「あぁそうだ、今……」
【ちょっと困ったことになってるんです】
「どういう事なんだ?天峰」
【訳あって今、アトリエにはいないんです】
「今お前のアトリエだ。どこに居るんだ?天峰」
【…あ、今……】
通話が切れた。俺はもう一度天峰にかけた。繋がらない。電池が切れたのか、それとも本当に……
「鵲、いいか?」
「えぇ、大丈夫っす」
鵲はまた呼吸を整え、天峰のアトリエをチラリと横目で見た。鵲のオブジェクト・チャネリング能力が発動し、鵲はまた膝から崩れた。
「無理すんなって」
「やっぱ、アマさんの今川焼きが一番回復するんすよ……」
マリトッツォをまた齧りながら、鵲はふらりと立ち上がる。指を差した先に俺達は走り出した。くそっ、早いうちに美音のスマホの番号を訊いておけばよかった……
「アマさん、これ……」
夜湾のダウジングロッドがぐるぐると円を描いている。この近くに間違いなく、美音がいるはず。
「あっ!ハリさん!」
「ぬぅ……」
「んなもんはいいから早く行くで!」
「ちょ、ちょちょちょちょ!」
地面に倒れていた天峰はすっくと立ち上がり、俺達のほうに近付いてきた。
「お前ら冷たくない?」
「あ、いたんすね」
「……何があったか訊かないのか?」
「とりあえず、何あったんすか?ハリさん」
天峰は頭を擦りながら言った。
「何かに足払いをかけられたんだ」
「それより、お前女の子を連れていなかったか?」
「連れてた」
「金髪に緑のパーカー」
「なんで知ってんですか?」
「どこに行った?」
「……さぁ」
「さぁじゃねぇって!もといなんでお前が美音を連れてた?」
天峰は口を開く。鵲のコンビニでプッチンプリンをレジ袋一杯に詰め込んで帰る時に、いきなり走ってきた女の子とぶつかったらしい。
「おっ、どうした……」
「きゃっ!へっ、変質者!」
「待てよ随分だなおい、オレはなぁ……」
「連れてかないで!」
「いやいや、とりあえずちょ、話聞こうか。オレのアトリエがそこにあるから」
天峰は家に戻るとプリンを冷蔵庫に仕舞い、外に出て来た。
「あっ、ちょ待てよ!」
美音はいきなり走り出した。追いかけている最中、俺から着信があったようだ。いきなり通話が切れた時に足払いを食らった……?
「ハリさん、これ?まさか」
「そう、コイツだ!」
「バナナの皮やないかい!こんなんで滑るの、マリカーしかあらへん!ハリさん頼みますわぁホンマ……」
「それより、美音は……」
「アマさん、ここやないすかね?」
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