第46話

「いった!」

 僕は絶叫を上げる。

 穴に飛び込んだ僕のちょうど足元に尖った石が置いてあって、それが僕に刺さったのだ。

 普通に痛い。

 僕は回復魔法を使い、痛みを消した。

「あー、痛い」

「ははは、災難だね」

 笑い事じゃないんだけど?

 之くらい日常茶飯事だけど。

「それで?ここは?」

「さぁ?でも、普通じゃないことは確かだね」

「そうだね」

 正行の言う通りここは明らかに普通ではない。

 魔王城よりも濃い魔力濃度だ。

「とりあえず散策しようか」

「うん」

 僕達は奥へと続く道を進んでいった。

 

 すぐに辿り着く。

 一分も経っていないんじゃないだろうか。

 奥へと続く道を少し歩くとすぐに道が途切れた。

 下を見下ろすと、

 魔物。魔物。魔物。

 僕達の下に広がる広場には魔物がずらりと並んでいた。

 果ては見えない。

「これは……」

 さすがの量に僕も絶句する。

「酷いね」

 正行の額に冷や汗が流れるのを確認できる。

「流石に無理そうだね。帰ろうか」

「いや、僕は勇者だ。逃げるわけにはいかない」

 僕の至極当然の提案を正行は突っぱねる。

「……正気?」

 僕は胡乱げな視線を正行に向ける。

 どれだけの魔物がいるのか見えていないのだろうか?

 とんでもない量の魔物がいるぞ。

 こんな魔物の大群、僕も初めて見るぞ。

「勇気と無謀は違うよ?」

「あぁ。わかっているさ。悪いんだけど、一人で戻ってくれ。僕は勇者なんだ。僕は彼女に託された。託されたんだ。たとえどんな絶望的な状況でも逃げるわけには行かない。僕は自分に課せられた思いを、呪いに報いるため、蛮勇をふるおう」

 はっきりとした言葉で正行は断言する。

 そう覚悟を決めた表情で告げるその姿は僕と……。

 はぁー。

「あっそ」

「申し訳ないな。せっかく来てもらったのに、一人で帰らせてしまって」

「何を言っているの?」

「ん?」

「二人で帰るに決まっているじゃん。『英雄たちの軌跡を』」

 数多の英雄たちの武器が姿を現し、放出される。

 幾数千、数万の武器の数々が魔物たちを襲いかかる。

 過去の英雄の軌跡が今、再現される。

 山を一刀両断した斬撃が、星を穿つ弓矢が、大地を叩き割る斧が、数々の英雄たちの軌跡が表現されていく。

 魔物の絶叫が奏でられる。

 だが、魔物たちも何もしないわけではない。

 飛べるやつは飛んで、飛べないやつは壁をよじ登り、他の魔物を足場として僕らの方へと向かってくる。

 魔物の数は膨大。

 あまりにも膨大。

 一秒で数万の魔物を殺しても、なお減らない。減っているように見えやしない。

「さぁ、行こうか」

 僕は自身の愛刀である神刀を手に持ち、そして地を蹴って魔物が溢れる広場へと飛び込んだ。

「ははは、頼もしいね!」

 嬉しそうに告げる正行も僕の後に続いた。

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