第36話
はぁー。
僕は心のなかでため息を一つつく。
決して表ではため息なんか漏らすわけには行かないから、あくまで心のなかで。
その原因は僕の前で深々と高そうな椅子に腰をかける二人の老人。
一人は現在日本の首相を務めている官義豪。
もう一人は新設された日本ダンジョン対策大臣である大泉進太郎。
「という、わけだね」
「はぁ」
僕はそんな日本のトップとも言える二人から現状の説明を聞いていた。
官総理の重圧が僕を襲う。
というか何が無能だ。
とんでもないたぬきじゃないか。
全てを見透かさんばかりの視線に静かな重圧。
その心の奥底では冷静かつ冷徹に計算しているだろう。自身の利益のために。
一貫性がないとか、熱量がないとか。
そんなの嘘っぱちじゃないか。
魑魅魍魎の貴族世界に生きる貴族たちを超えるぞ。
まったく世論なんて一ミクロンも信用できねぇな。
だから僕は民主主義が好きじゃないんだ。
餅は餅屋。
政治という高度な世界に素人の意見を反映すべきであるというこの思想がうまくいくはずがない。
異世界の優秀な王を持つ国の政治のほうがよっぽどよかったぞ。
「現状。ダンジョンから得られる利益は地球を変える。一切の汚染物質を出さない魔石をいう新エネルギーは地球温暖化を食い止め、ダンジョンという広大な地形は食糧問題を解決できる。これらは今までの駄目な日本を変えられるとも思います。だからこそ日本を変えられると思います」
こいつは何だ?
無能なのか?有能なのか?
イマイチよくわからない。
「……君たちの抜刀隊。彼らの居場所には苦労するだろう。なんて言ったて一年も姿をくらませていたのだから。だが安心してくれたまえ。彼ら、彼女らは私達が責任持って面倒を見よう。なんて言ったて日本の、世界の救世主である君の弟子なのだから」
……。
まぁつまり脅しだ。
君が日本の言うとおりに動いてくれよ?という。
僕が戦えば、世界は救われる。
僕が言うとおりに動けば抜刀隊たちの面々の面倒をしっかりと見てくれるというのだ。
しかし、背いたら、どうなるか?
わかっているな。
ということだ。
まぁよくある脅しであり、一番厄介だ。
彼らに迷惑をかけるわけにはいかない。
受けるしかないだろうね。
これは力だけで解決できるようなものではない。
「それに確か、君だけではないのだろう?強い二人の女子もいるとか。彼女らも快く引き受けてくれるだろう」
………。
はぁー。
駄目だ。
それは駄目だ。
僕だけなら良い。もう慣れている。
だが、明日香と桜を巻き込むのは違う。
それは違うのだ。
彼女たちは自由であるべきだ。子供のように。年相応に。
ドゴン!
すごい音が響く。
僕は僕と二人の間に置かれていた机を、境界線を蹴り上げる。
木くずが舞い、高かかったであろう見事な装飾がされた机は無惨な姿で落ちる。
「あまり舐めるなよ?」
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