第18話
現地点、一階保健室付近———
「何処だっけなぁ、保険室って」
俺はレオンに言われた通り一階の保健室に来たと思ったのだが……ここにあるのは魔力研究室しかないし、この様子は完璧迷ったようだ。
「時間が無いから早くしないと」
「どうしました?」
「いやちょっと、保険室がどこにあるのかわからなくって……おわ⁉ ビックリした!」
いつの間にか俺の隣に見知らぬ女教師が立っていた。
その教師は髪が腰まで伸ばし、眼鏡を掛け、少し大きめの白衣を着ていて、一目でこの学園で保健室を任されている先生だという事がすぐわかる。
「保険室はすぐそこですよ、それに保健室は私の教室ですので私に付いてきてください、案内しますよ。」
「あ、ありがとうございます」
一事はどうなるかと思ったがこれで一安心。
「ここですよ」
着いた場所は魔力研究室と書かれた看板が吊るされている教室。
「魔力研究室? 教室間違えていませんか?」
「そうですね、昔確は魔力研究室でしたね、でもこれで……はい!」
白衣の先生はペンを取り出し、看板に何か書き始めた。
「ここが保健室でーす」
「そ、そんなのでいいんですか先生⁉」
魔力研究室と書かれた看板にペンで大きく×印を書きその下に保健室と書いた。
「はい、ここへ来て暫くなりますが、看板を変える作業はいつも忘れてしまうので、 これを機に変えることが出来てよかったです」
「ああ、まあいいか……」
そんな大事な事を毎回毎回忘れるとは、在校生達はどうやって保健室の場所を探し当てているのか気になるが……この部屋はこの先生の物だ。俺が後から何やら言う資格はない。
「さあ、どうぞ入ってください」
「あ、はい!」
俺は気を取り直して、魔力研究室改め保健室の中に入る。
そこにあるのは俺の居た世界の保健室と同じくガラス戸の棚や救急箱の他にケガ人用のベッド五台綺麗に並んでいた。
「イザナ、待ってたぞ」
ベッドの隣に配置された教師用の椅子にレオンが座り、傍にサクラが立っていた。
「相変わらずお前は遅いな……」
「うるせえよ、一言余計なんだよ、クソ天使!」
「あ、来ていたのですか? レオン先生」
「ああ、邪魔してるぜ。今日はあの件でこの二人を紹介するためにここに来た」
「あの件……学園長と飲みに行く話でしたっけ?」
「ちっがうわッ! 急遽入った転送者の件だ!」
「転送者……ああ、思い出しました!」
この先生は少しおっとり要素が強いなぁ、悪い虫が付かないか心配だ。
「先程、学園長から改めて聞きましたよ、それじゃあこの二人が?」
「ああ、そうだ。お前ら自己紹介しとけよ、お前達二人がこれから長い間お世話になるかもしれないレウスと俺に続いて、転送者について知っている三人目の教師だ。」
確かに学園長が俺とサクラについて知っている教師があと一人いるって聞いてはいたけど……。
俺は少し不安を感じながらも自己紹介をした。
「どうも、二年三組の加龍威沙那です」
「同じく、二年三組のサクラ・アールボットです。ちなみに私は転送者ではなく天使です」
「転送者のイザナ君とサクラちゃんですね、私はこの保健室を住み込みで管理をしています。エルマ・エルダールですよろしくお願いします」
同じくエルマ先生は自己紹介をし、にこやかな笑みで俺達に一礼し、自己紹介をした。
……考えてみたら、この感じは漫画やアニメの世界では性格は定かではないがエルマ先生みたいな若い女の先生が保健室の先生だというのが鉄板中の鉄板だ。ここ最近の俺は悪魔天使のサクラに振り回されて身も心もボロボロだ。あの感じ、エルマ先生は見た目も中身も物凄く優しい感じだ、この人は俺の傷付いた心と体を癒してくれる学園のオアシスだ、絶対にそうだ!
俺は暇なときはこの保健室に通う事が確定した。自分で思ったことだがそんなことは置いといて、一つ疑問が……。
「すいません、さっき住み込みって言ってましたけど……?」
「はい、この教室は保険室でもありますし、私の家でもあります」
「え、なんで⁉」
「少し話が長くなりますが……」
「それなら……」
「構いません、その話聞かせてください」
「な⁉」
少し話が長くなるって事は普通に話が長くなることを悟った俺は簡潔に話してくれと言う前にサクラが全部話してくれと了承を得てしまった。
コイツはいったい何を考えているんだ……?
「私がこの仕事に就く前の事です。南の大陸の田舎出の私は得意な回復医療の魔法学を学ぶために五大陸の中で唯一魔法学の技術が進んでいる西の大陸に初めて訪れました。」
東京に上京してきたみたいだな。
エルマ先生は、引き続き話し続ける。
「しかし、南と西とで文化が全然違うので、西の人達は魔法学に対して疎い他の大陸の人達を忌み嫌い、大手の研究施設から中小の研究施設まで私を雇ってくれませんでした。そして、お金も使い果たして住むところも無くなった私は途方に暮れていました。」
やはり、どんな世界でも身分の差と言うものがあるのか……。
「そんなある日、野宿が出来る安全な所がないか王都を歩いていた私は、空腹と疲労で倒れてしまいました。」
「それでどこらへんから、転機が訪れるんですか? このままじゃ餓死で死んじまいますが?」
「あ、そろそろ起承転結の『転』のとこです」
「ああ、そうっスか」
「イザナは話の腰を折るな、先生私も気になるので話の続きを」
さっきからなんだ、コイツは。
「ええと、どこまで話しましたっけ? ええと、道端で倒れた私に学園長が———」
なるほど、手を差し伸べて助けたんだな!
「———レオン先生とグデグデに酔っぱらいながらやってきたのです。」
あれ、思っていたのと違う……?
「レオン、なんでその時酔っぱらっていたんだ?」
俺はすかさずその現場にいたレオンから事情を訊いた。
「その時はレウスが奢ってやるって言っていたから仕方なく付き添いで飲みに行ただけだ……」
何やら変な汗を垂らしながらすまし顔で答えた。
「ホントかよ」
「本当だ、俺は付き添いで言ったんだ!」
「そんなことはともかく早く話の続きを」
「はい、酔っぱらっていたお二人は私の前に足を止めて———」
酔った勢いでスカウトかなんかだろ。
「倒れこんでいた私の目の前で学園長が急に口から虹色のキラキラを」
え、まさかの嘔吐⁉
「え、大丈夫だったんですか⁉」
「ええ、まあ何とか回避しました。そしてその時学園長は頭を押さえてもがき苦しんでいました。」
「レオン、それって二日酔いじゃないのか? 確かその症状が出てくるのって普通翌日に出てくるはずじゃあ……」
「レウスはアルコールの摂取を一定量過ぎると約一時間後に極度の二日酔いになっちまう体質なんだよ」
そ、そんな体質が、学園長もお気の毒に……。
「それで、近くにいた私は学園長の二日酔いを治すついでにその体質も綺麗に治してあげたんです。そしたら学園長がそのお礼とこの保健室にして住み込みで雇ってくれたのです」
色々とイレギュラーな出来事があったがあながち俺の推測通りの展開だな。
「確かにあの治癒魔法は俺が今まで見てきた中で群を抜いていた」
「そんなに凄かったのか?」
「ああ、あのスキルを見たのはエルフ族の技術に近いな」
「エルフ族ってあの耳が長いあのエルフか?」
「ああ、エルフ族はエルマ先生のような治癒魔法が得意な種族だ」
「でもこの世界に来てからエルフの冒険者とかは見かけなかったぞ」
「二千年前の魔境大戦以前は俺達人間族と物資の輸入輸出といった公益はエルフ族やドワーフ族といった他種族とされていたと記録には記されている」
「それって……」
「でも魔族と人間族の対立した戦争、魔境大戦によってエルフ族は人間族を恐れ、世 界中の大森林の奥深くに散り散りになって暮らしていると言われている」
なるほど、この世界は俺の知っている種族はいるが関係性が全く違うってわけか。
「おい先生、それ私の仕事!」
「おい、むやみに銃口向けるなって、せめて俺が武器を出すまで待って!」
「そういう問題じゃないだろ、こんな所で銃の打ち合いをするな!」
まったくこの天使と教師は……。
あれ? そういえば……。
「レオン、保健室に来た意味ってエルマ先生に会うためなのか? それなら別に放課後でもいいんじゃないか?」
「いや、単にお前達にエルマ先生を紹介するために来たわけじゃない、かなり脱線したがイザナ、ここでお前にやってもらう事がある。すまんがエルマ先生、遅くなりましたがお願いします」
「はい、イザナ君は転送されてまだ日が浅いですしね、わからないだらけで仕方ありませんよ、それに、頼まれたものはばっちりメンテナンス済みです!」
頼まれたものとは何なのだろうか……?
「イザナ、遅くなったがこっからが本題だ。時間が無いから素早く行くぜ」
「え、あ、おう!」
いったい何が始まるのやら……。
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