第19話

「おーしイザナよく聞け、これからお前にとってもの凄く大事な事をするぞ、普段は余裕を持って事に当たるのだが、脱線したことにより時間が残り少ないため、急ピッチでやるからな」

 レオンは何やら魔石みたいな宝石がはめ込まれた手鏡型の魔道具を起動させた。

「俺にとって大事な事ってなんだ?」

「これからお前の属性体質を調べる儀式を行う」

「ぞ、属性体質? なんだソレ? 魔性身体測定と同じものか?」

 いきなり専門用語は無理がある、聞く感じ、ポ〇モンみたいな炎タイプとか雷タイプみたいにわかることなのか?

「属性体質っていうのは自分の体の本質的な性質という事だ。」

「ますますわからんのだが……サクラ!」

「つまり、わかりやすく言うとタイプというものだ」

「ああ、それならわかる」

 俺の思っていたのと同じだな。

「これによって自分がどの属性の魔法を得意なのかがわかるし、それを目安に契約するドラゴンの相性というものもわかる。それを見定める儀式をこれから行うという事だ」

「そう言われるとかなり大事な儀式なんだな」

「そうだ、それに属性体質がわからなければ次の時間の魔性身体測定の殆どの項目は受けることが出来ないからな、それを踏まえての儀式だ。……よし、これである程度の説明はしたから大丈夫だな、イザナはそこの椅子に座ってくれ」

 先程から魔道具の設定をしながら話をしていたレオンは俺の座っている椅子と対面するように腰かけた。

「簡単に属性の一般常識を教えよう。この世界の魔法の基準となる属性は火・地・水・風・雷・光・闇の七つの属性だ。だがこれはあくまで基準、そこから派生し幾つもの分岐属性が生まれていく」

「なんかすごいな」

「俺達人間に今までの長い歴史があるように、魔法も同じく進化していく、それがこの世界の魔法だ」

 なんかファンタジー感が凄くてなんかテンション上がるな!

「例外の属性を持っているほとんどが、イザナみたいな転送者だからな、お前も転送者だから少しは期待してもいいんじゃないか?」

「おう! それならいっそのこと真剣に取り組まないとな」

「その意気はよしだな、さっそく儀式を始めるぞ。エルマ先生、例の物を」

「はい」

 儀式って言うから魔法陣的な類いは使うのか? そう予想していた矢先、レオンはエルマ先生から何やら小さな魔道具を受け取った。

「あ、儀式って言っても魔法陣みたいな古臭い物は使わんぞ、最近はこのコンパクトな測定器の魔道具で即座に測定ができる」

「ファンタジー感をかえせ」

「なんだ? ファンタジーって?」

 まあ確かに文具もシャーペンになっているからな、技術の進歩と考えないとこの先いちいち突っ込んでいたら身が持たない、受け入れるしかないのか……。

「この魔道具の魔石に手をかざしな、しばらくしたら魔道具の先端からその属性の物質が出てくる、例えば火属性だったら火が出たり、雷属性だったら雷が出てきたりする」

「こうか?」

 俺は言われるがままに魔道具の魔石に手をかざした。

『コレヨリ当人ノ属性体質ヲ解析シマス』

「しゃ、喋った!」

「一分間待て、次第に光りだすから」

 意外とすぐに出てくるものではないようだ。

 俺は一分間ただじっと魔石に手をかざし続けた。


「そう言えばさ、この前登録屋で聞いたんだけど、魔力パラメータの正確な数値化するのに後日、専門の龍魔導士が来て魔力の数値化をするって聞いたんだけど」

「ああ、それ俺だから」

「は?」

「だから、その専門の龍魔導士は俺だから」

「なんだよそれ⁉」

 俺は驚きのあまり声が裏返ってしまった。

「それじゃあ、このまま俺の魔力を数値化するのか?」

「今すぐじゃない、数値化は魔性身体測定の項目に入っているからその時にする」

「なんだよ、すぐにできないのか?」

「そうでもないが……ここは測定で魔力の数値がわかれば、わざわざここで生徒一人だけ先に魔力を数値化するなら一クラスの生徒まとめてやった方がいいだろ?」

「まあ確かに、俺でもそうするか……」


 一分経過———

 一向に魔道具が反応しない。

「なあ、壊れてねえか?」

「おかしい、この前取り寄せたばかりの新品だぞ」

「ガラクタを買わされたんじゃないのか?」

「ンなバカな!」

『解析完了』

「ほれ見ろ、多分転送者の属性はイレギュラーだから時間が掛かったんだよ!」

『物質ヲ排出シマス』

 魔道具はアナウンス通り、先端から物質が出てきた。

 ………。

「なんだコレ?」

「こういうのは初めてだな、なんの魔法だ?」

 俺とレオンが困惑するのも無理もない。

 魔道具から出てきたのは光の粒子だった。

 その光の粒子はフワフワと俺とレオンの間を漂っていた。

「なんか思っていたのと違う。俺はその排出口いきなり火とか水が飛び出てくるのを想像していたんだけど……」

「それにしてもなんだこの光の粒は? パッと見は光属性なんだが、光属性は一番弱い技でも電球程度の光は出すはずなんだが……ちょっと好奇心が出た、触ってみるか……」

 これが発明家の性分なのか急に携帯していた手袋をつけ始めた。

「おい、大丈夫なのか? 危険なんじゃ……?」

「まあ、触れてみないと分からないこともあるからな、ここは念のために手袋を着用してと」

 レオンはワキワキさせながら、恐る恐る光の粒に触れた。

「ん? 何ともないなあ、これは単なる見せかけドわぁあああああ!」

「レオン⁉」

 触れて数秒後だろうか、急にレオンが触れていた光の粒が爆発を起こし、白い光がレオンに襲い掛かった。

「うわぁ! なんだコレ⁉ 熱い、冷たい、痺れる! そしてイタイ、モノスゴクイタイ!」

「なんで片言になってんだ⁉」

「ああ、何やっているんですかレオン先生! 癒しの光よ、【エクスヒール】———ッ!」

 レオンの叫び声で聞いて駆けつけたエルマ先生は慌てて治癒魔法を唱える。

「イテテ……」

「おい、大丈夫か?」

「いやぁ危なかった、この眼鏡とエルマ先生の治癒魔法のおかげで何とか失明せずに済んだぜ」

「もう、驚かせないでください!」

 ホッと一安心しているエルマ先生から治癒魔法をかけてもらいながら、レオンは爆発の際にレンズが粉々になって無くなっている眼鏡を外し、額の汗を拭った。

「ところで、レオンは眼鏡なしでも見えるのか?」

「安心しろ、これは伊達眼鏡だ」

「え、伊達なのかよそれ!」

 オシャレ眼鏡的な何かだろうか?

「まぁ、眼鏡の事は後にして、あの光の粒子の爆発で色々とわかった事がある」

「わかったという事は、俺の属性は何かわかったのか?」

「いや、俺の思い込みかもしれないから今現段階では不明としか言えないな」

「そ、そうか……」

「だが、あの魔道具が物質を出したという事はこの世界に存在する属性というのは間違いない、記録によると他の転送者の場合、魔道具の結果では『不明』と答えるからな」

 という事は今のところ俺の属性体質は不明であって……。

「ヤバい時間だ。よし、これにて儀式終了! お前も更衣室で着替えて校庭に集合しろ」

「いやいや、俺の属性体質の件はどうなったんだよ!」

「だから言ったろ、今のとこわからないから後で俺が調べるんだよ」

「だけどこの後の魔性身体測定で必要になるって……」

「あれはこの儀式を行ったか行っていないか答える項目が一つあるだけだから、心配しなくていいぞ」

「え、そうなの? でもこの儀式は大事だって……」

「それはお前がちゃんと協力できるように大げさに言っただけ」

「え⁉」

「第一に、あの儀式は昔から意味ないんだよなあ、結局相性のいいドラゴンと契約するんだし、その時に嫌でもわかるのによ」

「ま、まさか嵌められた……」

「まあ、そんなに落ち込むなよ、俺もこの儀式を受けた時の属性体質は不明だったんだぜ」

「そうなのか? 転生者じゃないのに?」

「おう、そして俺の属性体質領域(フィールド)っていうんだが、俺が指定した領域全体に魔法を発動できる特殊な奴だった」

「凄い、これで敵も一網打尽じゃないか!」

 なんだそのチート能力は、この教師はあの銃剣の使い手と言いその属性体質と言い、もしかするとほんとにすごい龍魔導士なんじゃ……。

「でもその代わり、俺のフィールド魔法は展開するのに時間が掛かるし、初級魔法すらまともに使えないから今じゃこの銃剣だけが唯一の攻撃手段なんだけどな」

 ……だと思った。そんな凄いチート能力があるなら転送者の必要性ゼロだしな、強ければ強い能力であればこそ、その分デメリットが大きいというのがこの世界の特徴なのだろう。

「そんなことだから頑張ろうな!」

「同族だと思うなよ、もう一度蹴り入れるぞ!」

「おっとそれは勘弁……」

 一応この人は教師なんだよな……?

「さあ、イザナ君も早く更衣室に行きなさい、サクラちゃんも先に行ったわよ」

「そういえばアイツ、いつの間に……ていうか更衣室って何処⁉ 俺まだこの学園のまだ何も知らないのに」

「更衣室はこの教室の近くの階段で三階に行ってすぐだ。もう時間がないぞ」

「サンキューレオン助かるぜ! エルマ先生もまた後程」

「はい、気をつけてね☆」

 俺は急いで布袋を手に取り、不本意にも転ばないように駆け足で更衣室に向かった。


 時同じくしてレオンは校庭に向かう途中でとあることを思い出した。

「そういえば、イザナにどっちが男子更衣室か言うのを忘れていたな……まあいいか」

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