第15話

「それで学園長、本題と言うのは?」

「それは神託推薦についてだ」

 出たな神託推薦。

「神託推薦、それは東西南北の女神から告げられる選ばれし者が指折りの魔法学園に進学できるスペシャルな推薦の事だ———」

「俺の見立てだが、そんなキラキラしたものではないと思うのですけど……」

「だがそれは表の設定で、本当は———」

 そのまま学園長は話を進め。

「君達のような転送者が不自由なく学園に転入できるシステムだ」

「⁉」

 どういうことだ、何で俺達が転送者って知っているんだよ⁉

 俺はすかさず煌具に手をかざした。

「おっと、武器を納めてくれ、僕達は君達に危害を加えるつもりは無いよ」

「どうして俺達が転送者って知っている?」

 俺は警戒を怠らず問いかけた。

「それは私から説明しましょう」

「おわ⁉」

 さっきまで黙っていたサクラが急に話の輪に入ってきた。

 そういえばコイツ、俺のナビゲーターが仕事になったんだっけ? これは学園長に自分の役柄を横取りされると思って焦ったのか……。

「神託推薦とは、学園長が言ったようにイザナのような転送者達が何不自由なく立派な龍魔導士になり、魔王を倒すために作られたシステムでそれは天界にいる東西南北の女神様が了承しないと機能しないのです」

「なんで?」

「アリスティア様から説明されなかったのか? 別世界からの転送はとても内密にしてきたって」

「ああ、内密だとは聞いている」

「そう、だから一度に沢山送らずに年に一回ペースでアリスティア様含めの四人の女神様が転送者四人を選ばれる。そして選ばれる対象になるのは、この世界と似ているゲームやアニメの文化に馴染みがあるイザナのような日本人を選び、すぐにこの世界に馴染めるように転送者を決めている」

「サクラ君、付け忘れているよ」

「あ、そうでした。イザナのような引きこもりやフリーターと言った日本の現代社会に必要ない存在の日本人です。ありがとうございます学園長」

「付け忘れているってそこそんなに大事ですか? あまり必要ないと思うんですけど⁉」

「話を戻します。ですが転送者も人間です、いつかはボロを出して内密情報を言いかねません。そんな事にならないよう転送者さんの助けになってくれるように、転送者についてのある程度の情報を共有しているこの世界の住人がいます」

「それが……」

「はい、その人たちがレオン先生や学園長のような人たちなのです」

「そ、そうなのか、だから俺たちが何者なのか知っていたのか……」

「レオンは担任教師。僕は学園長だ。バックが大きければイザナ君も不自由がなく行動できるからね、そのためでもある」

 なるほど……いや、ちょっと待て。

「サクラ、お前この前俺がこの神託推薦について聞いたのに知らないって言っていたよな? なんで今になってそんなにペラペラと説明してんだ?」

「……そんな事言ってない」

「嘘つけ、言ったろ!」

「過去は振り返らないと決めている」

「コイツ……お前俺のナビゲーターだろ、なんで仕事を全うしない!」

「イテテテテ、やめろ、頬引っ張るな! ナビゲーターになった時にアリスティア様にこの世界の情報データを渡されたんだ、だからカウントはしない!」

 このポンコツは一度頭の回路をいじって俺に服従する必要があるな!

「それにしてもサクラ、お前イザナと比べてやけに詳しいな、ナビゲーターってのはなんだ? 転送者じゃないのか?」

「はい、言い忘れましたが、私は転送者ではなくこのボンクラのサポーターとして急遽投入された、歌って踊れる頼れる子、機械仕掛けの天使(サイボーグ・エンジェル)のサクラです。」

「歌って踊れるは余計だ」

「えっ、天使ってあの天使か? 大昔の伝記に記されていたあの天使か?」

「はい、大昔の伝記についてはよく知りませんが……はい、あの天使です」

 サクラは天使にとっての必需品である光の輪と背中の羽を見せた。

「私は天使ですが私の体は機械で動いています。ですので、神気や魔力も何もないのです」

「さっきからサクラに魔力が微塵たりとも感じなかったのはこういう訳か」

「僕も天使は遠目で見たくらいだからね、機械仕掛けだとは言え神々しい……」

 教師の二人は凄い凄いと言っているが、俺の目からはその光の輪と羽に少し黒みが掛かって見えるんだが……。

「なあ、機械仕掛けって言っているから武器は出せるのか?」

「え、ええ、銃火器全般は出せますね」

「おお、転送者が度々持っている変わった形状の銃も出せるのか?」

「は、はい、煌具程の能力はありませんが、幾つかは」

「おお、マジか! 今出せるか?」

 何故かレオンが目をキラキラさせながら異常なほどサクラの体の仕組みに食いついてくる。

「が、学園長あれは何ですか? 流石に引くんですが……」

「ああ、レオンは昔から魔道具いじりを趣味でね、今はここで教師をしつつ定期的に魔道具の試作品を王都に売っているんだよ」

「な、なるほど」

 目立ちたがり屋の学園長、そして発明家の担任教師。かなり属性が濃いな。

「私の体は武器を貯蔵している武器庫から取り出す感じです。こんな風に」

 サクラはいつものように左腕を変形させ、機関銃を生やした。

「こ、これは……」

 サクラが武器を取り出した瞬間、レオンは急にわなわなと体を小刻みに振るい始めた。

「間違いない、これは俺が求めているアポート機能! まさかこの目で拝めるとは思っていなかった! なあサクラ、その機能はどういう仕組みなんだ?」

「知りません」

 レオンの質問攻めは一向に止む様子はなく……。

「頼む、腕だけでいいから分解させてくれ!」

「先生、いくら私が天使だとしても言って良い事と悪い事があります」

「そこを何とかぁ」

 サクラはレオンのしつこさに嫌気をさし、機関銃の銃口をレオンの眉間に押し付け。

「これ以上私の体についてしつこくと追求しますと風穴を開けますよ☆」

「へ、へい……すいません……」

 こ、怖えぇ……言葉が出ないよ……。

 レオンはこの脅しが本気だと気づき、それっきりサクラには食いつくことはなかった。

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