第13話
時間は一時半を過ぎたところだろうか?
先程買い物をした商店街に来たものも……。
「いけねぇ俺、昨日この街に来たばかりだからどこが飲食店なのか全く分からなかったんだ……」
「そのような事を言っていましたね」
「すまん、この辺りだと商店街の串焼き屋しか知らないんだ」
「それなら、私が知っている行きつけの店に行きませんか?」
「ほんとに? そこでならなんでも頼んで良いぜ、俺の奢りだから!」
「でも、お金とか大丈夫ですか? 一応聞いておきますけど?」
「ああ、心配ねぇよ、持ち金に関しては———」
俺は自分の財布の紐を解き、覗き込んだ。
「あ……」
サクラから渡された千テラーしか渡されていなかった事をすっかり忘れていた俺は、そのまま無言でアヤカの前で深々とお辞儀をして……。
「すいません……今の持ち金千テラーなのでそこらへんで勘弁してください」
「あ、安心してください、私は人のお金を使って贅沢なんてしないので」
「でもごめん、ここは俺が奢らないと……」
「うーん……あ!」
何かいい考えが浮かばないかとばかりに考えたアヤカはふと何かいい案が出たようだ。
「それでしたら、私が知っている飲食店の中で行きつけの値段が安い店に行きましょう! それならイザナさんもいいでしょ?」
「……それなら」
「それじゃあ私についてきてください」
「お、おう」
俺を励ますように明るく接してくれているアヤカの後をついて行った。
あ、なんていい人なのだろう……。俺泣きそうだ……。
一分もしないうちに目的地に着いた。
「この店はアスベルの人気飲食店ベスト5に入るイチオシの店です。ここは毎日新鮮な材料を調達しているため、海を渡ってはるばる別の大陸から来るお客さんも少なくないのです」
見た感じ俺のいた世界で例えると昼時になると常連の会社員の人達が食べに来そうな親しみやすい定食屋みたいな感じがしたのだが……。
『ぐー』
俺の腹も限界だ、ここは食べてみようではないか!
「んじゃあ、さっそく入ってみるか」
「ええ、きっと気に入ると思いますよ!」
俺達はその定食屋ののれんを潜り、中へ入って行った。
数十分後——
「いやぁ食った、食った」
「この店はいつ来ても飽きないです」
アヤカは頬を赤らめながら安堵のため息をついている。
それに関しては俺も同意だ。俺もここの常連になるかもしれない。
この店は見た目通りの定食屋だった。
この異世界に米が出回ってないのか丼系のメニューが無かったが、多分ここの先の亭主は転送者だったのだろう、メニューのほとんどが生姜焼きや焼き魚定食と言った日本ではお馴染みの料理で定食の他にうどんや蕎麦と言った麺類料理があってとても食べ応えがあった。
そしてさらに……。
「あれだけ食べて五百テラーが魅力的だ。ありがとなアヤカ。ここ紹介してくれて、おかげでお礼もすることが出来た」
「いいえ、私はイザナさんがこの街アスベルをもっと好きになってくれれば私もそれで充分です」
アヤカは純粋な瞳で俺にはにかんだ。
なんでだろ、アヤカから後光を放つ勢いで尊いのだが?
こんな感じになるのはアニメやラノベで自分の中で推しキャラが誕生した以来だ……。
「はぁ、尊い……」
「え、何が?」
「え? ああ、何でもないよ! 何でも!」
いっけねぇ、つい言葉にしちまった。
「あ、そういえば時間、今何時かわかりますか?」
俺はすかさず携帯で時間を確認した。
「えーと、丁度二時だな」
「大変、私もう行かないといけません、昼食ご馳走さまでした。それじゃあカリュウイザナさん、また明日学園で会いましょう!」
「おう、また明日な」
貴族のお嬢様だし色々とやることがあるのだろう、アヤカは笑顔で手を振りながら走って行った。
「ああ、可愛かったなぁ……」
「なんだイザナ、ボッチ飯じゃなかったのか?」
「うわっ⁉ ビックリした、なんだお前かよ!」
俺の背後にいつの間にかサクラがいた。
「あの娘は確か……オイオイ、イザナさんよぉそんなパッとしない平凡な顔で貴族のお嬢様をナンパしたのか? 流石に釣り合わないんじゃないか?」
アヤカのような天使みたいな女の子を見た後にサクラを見ると、まさかこんな人を 平気で煽るような言葉遣いを使う輩が本物の天使だとは絶対に信じたくない。
「違うわッ! お前が俺を置いてった後に荷物を運ぶのを手伝ってもらったから俺がお礼として奢ってあげたんだ! ……あれ? そういやお前、アヤカが貴族って知っていたのか?」
「当たり前だ。彼女は本名アヤカ・スカフィード=クレナイ。歳はイザナと同じ十七歳。東の大陸出身の父親の血と西の大陸出身の母親の血受け継いでいるハーフ。実力は母親譲りの魔力と父親譲りの剣術を併せ持つ超人ハイブリット。特に剣術の方はクレナイ一族代々伝わる剣法、紅天天空流の現代後継者。そして貴族としての階級は大陸の国王の次位に偉い立場の超々エリートだ。」
「何だそれ、メチャクチャじゃないか……」
「まあそういうのは今の私達には関係ない、イザナは明日からあのお嬢様を超えるくらいの実力を得ないと魔王を倒すのも夢のまた夢、いやキッパリ言って無理だな」
「え、なんで?」
「さっき言った紅天天空流っていう剣法は東の大陸最強と言われている剣技だ」
「た、大陸最強⁉」
「ああ、あの剣技は名前の通り空を自分の有利な領域にする」
「どういう意味だ? まさか飛ぶとか……」
「いや、飛ぶというより跳ねるが分かりやすいか」
「跳ねる?」
「簡単に言うとアクロバティックな跳躍力で敵の間合いをすり抜け、一気に喉元を掻っ切るカウンター戦法だ」
「………」
「どうした、黙り込んで」
「いや……サクラは本当にナビゲーターとしての仕事をしているなぁと思って」
「お前は今まで私をなんだと思っていたんだ?」
「猫被りビッチ」
「お前は運がいいイザナ、ここは人目が付く、ここは私の愛銃のアサルトライフルでお前を蜂の巣にするところだがここはこのモーゼル銃で脳天一発、あの世行にしてやる」
天使が絶対言わない脅し文句を言いながら、サクラはマジ顔で何処からともなくモーゼル銃を取り出し、弾を装填し始めた。
「待て待て、そんな事よりお前昼間と服が変わっているけど……」
俺とこの街に来た時から短パンとTシャツだった服装から今はワンピース姿だった。
まったく、毎度思うが、見てくれは可愛いのに、どうしてこんな性格になっちまったんだか……。
「そのワンピース、装飾がかなり細かくできて高そうだな」
「……そうだな」
何やらサクラの額から妙な汗が流れ始めた。
「幾らだ……?」
「はい?」
「昼飯代と服代含めて幾らだと聞いている」
「昼食は無料だ」
「どういう意味?」
「店を選んでいたら、四人組の見知らぬ男達に声を掛けられてな」
なんだコイツ、ナンパされたのか、まあ見てくれは可愛いからな。こんな性格が分からなければ普通にナンパするか。
「それで自分たちが払うから幾らでも頼んでいいと言われ、『お腹がすいたら今のうちにできるだけ掻き込め、そうすればいざという時に何とかなる』とアリスティア様に教わったから遠慮なく店にあるすべてのメニューを頼んだら、泣きながらやめてくれってせがまれて、この勢いなら一週間分の燃料のストックは出来たものの、結局三日分しか溜まらなかった」
あの女神の入れ知恵であってもコイツはホントに容赦ないな、腹の中にブラックホールでも入っているのか? それと教え方の内容がフワッとしている……。
「それで半泣きになりながら店を出た男たちが急に裏路地に引きずり込もうとして——」
「ま、まさか!」
「ああ、人目が立つ所から離れた瞬間、正当防衛でこのように遠心力を利用してこうやって回し蹴りを一発」
サクラが実際やったように明らかに即死レベルの回し蹴りを見せながら。
「一掃した」
「お前もう少し手加減っていうのをなぁ……」
「頭を消し飛ばしてないから別にいいだろ?」
「いやそういう問題じゃあ……もういいや、続けてくれ」
「謝礼金としてそいつらの財布から幾らか頂戴しようと」
「ストップ」
「なんだ?」
「お前襲ってきた奴らだとはいえ、まさか金を……?」
「そうしようとしたのだが……残念ながら全員一文無しだった。店を出る前は結構あったと思っていたんだが……これはいったい?」
「それはお前が店でそいつらの財布を枯らしたんだろ?」
「ああ!」
そういう事かと思うようにサクラはポンッと手を叩いた。
「それでその服に関しての情報がまだなんだが?」
「それはな、天界でアリスティア様から『女の子と言うのはオシャレをしてなんぼ』と言っていた……」
またあの女神か……。
「それで『オシャレで幾ら使っても大丈夫。後に周りの男共が金を貢いでくれる』と言っていた」
「それで買ったっていうのか?」
「そうだ、店員の言われるがままに購入してみたのだが……どうだ、可愛いか?」
もう一度言うが見てくれはいいからな、うん、フリフリの装飾がアクセントになってさらに可愛さが増して数年後が楽しみと言うのが俺の感想だという事は言わないでおこう。
ここは紳士の対応を……。
「ん? ああ、まあな……」
「……今ドキッとしたな?」
「ど、ドキドキしてないし⁉」
「こんな可愛い天使ちゃんだからな、童貞にはちと刺激が強すぎたな! カワイイは罪だな!」
コイツ、調子に乗りやがって……。
ていうか、童貞関係ねぇし!
「お前みたいなチビなんてコレぽっちも……嘘ですごめんなさい‼ 謝りますのでそのモーゼル銃を下ろしてください‼」
「お前は私を怒らせた」
「良いから銃を下ろせって!」
サクラのヤツ、全然銃を下ろさねぇ、こういう時はどうするか……確か向けられた銃を奪い取る護身術があるが……。いや、これは俺には無理だ。これは素早さが肝だ。銃を掴んだ瞬間、速さが足りずに銃が暴発して本当に怪我をしかねん。やり方はまねできるんだがなぁ……。こうやって……。
「!」
「……あれ?」
俺が頭の中で銃を奪い取る護身術の動作を思い描いていたら、視界に光線のような光る線が現れたと同時に俺は知らぬ間に向けられている拳銃をサクラから奪い取り、サクラに向けていた。
それは以前、俺が見た護身術のように———
「な、なんだあれ?」
「痴話喧嘩か?」
「あいつ、あんな可愛い子に銃なんて向けて」
「警察に通報するか?」
「は⁉」
ヤバい、人目を気にせずについ目立つこと……!
ここは目立つ。早く宿に帰らねば……!
「サクラとりあえずこの話は宿に帰った後ゆっくり———」
「イザナイザナ」
「な、なんだよ?」
急にサクラが俯きながら俺の服の裾を引っ張り……。
「私を捨てないで!」
「……は⁉」
目から涙を零しながらサクラは急に捨てられた悲劇のヒロインの如く叫んだ。
「な、何言って……⁉」
『警告、警告』
何が起こっているのかわからない俺に急に冒険者バッチからアナウンスが流れてきた。
『状態異常[ターゲット集中]を受けています。』
「た、ターゲット集中⁉」
なんでターゲット集中なんてものが俺に?
『スキル《天使の涙》により周りからの視線が重たくなっています』
「そ、そんなことまで説明せんでいい!」
確かに周りの視線が段々と怖くなってきている気がする……。
この《天使の涙》っていうスキル、名前から見るにサクラのスキルに間違いないが……なんで急に。
「ニヒッ」
「あ!」
この企む笑みするサクラの顔、俺をからかって楽しんでやがる!
「お巡りさーん、あのパッとしない男が銃を持ちながら女の子を泣かしています!」
「な⁉」
ヤバい、早く誤解を解かないと!
「今までずっとあなたを愛していたのにどうして……どうしてなの⁉」
「お前はいい加減熱の入った演技はやめろ! わかった、服の事は目を瞑るから、早くこの状況を修復してくれ!」
「あー面白かった、どうだイザナ私の華麗な演技は? 劇団顔負けだろ?」
「良いから早くしてくれ! このままだとせっかくの第二の人生のほとんどが独房暮らしで終わっちまう!」
「ハイハイ任せておけ、私のゴットアビリティ、記憶消去ギミックで一発だから、ほらサングラス。ちゃんとかけとけよ」
サクラは俺にフラッシュ防止のサングラスを渡し、野次馬たちの前まで歩き……。
「皆さーん、私にご注目してくださーい! ゴットアビリティ起動!」
そう言いサクラの目が光り輝き……。
パシャリッ———
白い閃光が辺り一帯に広がった。俺はこんなSFみたいなものじゃなくてファンタジー感が欲しい……。
今日は色々と忙しい、そんな一日だった。
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