第9話
「カリュウさんのステータスは……握力以外はすべて普通ですね特に魔力値のパラメータが最悪ですね」
「……え」
おーい、女神やーい。
思っていたのと違うぞ、アリスティアのやつ平均より少しって言っていたからどんなものかと思っていたが、一般人に毛が生えた程度のステータスなんだが⁉
いくらアリスティアの奴が育成ゲーム好きだからって、元がこんなに弱いのはかなり難易度が高いぞ……。
「そ、それにしてもこの握力値は高いですね、私が今まで見てきた中で、初見でこれほど高い攻撃値は初めてですね、以前は何かやっていたのですか?」
「い、いやぁ、特にこれと言っては何もやっていないんですけど、思い当たるとすれば故郷の国で剣術を」
本当は引きこもりっているときに体が鈍らないように、定期的にバットで素振りをしていたんだけどな……。
「そうなんですか、だ、大丈夫ですよ、これから経験値を稼げばもっと強くなるんですから、頑張ってください!」
「は、はあ……」
すいません、受付のお姉さん、そのフォローは今の俺が弱いと認めているようなものなので逆効果です……。
「水を差すな。これ以上反論が出来ないから何も言わないでくれ……。」
「こちらはサクラ・アールボットさんですね、ステータスは……こ、これはすごいです! 魔力値はゼロですが攻撃値、防御値と言ったほとんどのパラメータが最大の二百を到達していますよ」
「うむ、当たり前だ」
俺はサクラのパラメータを見た。
攻撃値二百、防御値二百、速度値百五十、知力百……。
攻撃と防御がカンストって……化け物かよ。あ、でもコイツはサイボーグだから仕方ないか。
「これで発行は完了できたので、これからはバッチの簡単な説明をいたします。このバッチの正式名称はアドバンスバッチと呼ばれ、御自分のレベルやステータス、魔法、技術(スキル)が確認できる他に、戦闘時に所持者の状態異常を詳しく伝えるアナウンス機能や御自分を証明する身分証にもなるので冒険者にとって命の次に大事になりうるものとなります。ちなみにこのバッチは再発行する時は自分のレベルによって発行金額が掛かるのでご注意してください。」
有能過ぎるだろ、このバッチ⁉
要するにこのバッチは自分のレベルを上げていくごとにその価値も跳ね上がっていくという事か、だからバッチの裏のピンは無理やり奪い取られても大丈夫なように頑丈な作りになっているんだな。見た感じ頑丈そうだし、針が後付けされているような跡が全然見えない。
「冒険者には冒険者ランクというランクがあり、種類は下からビギナー、ルーキー、マスター、レジェンドと四つのランクにわけられており、職業によって異なりますが各条件を満たした時は次のランクへランクアップすることが出来ます。イザナさんとサクラさんは未成年という事でビギナーから始めていただきます。」
なるほど、初心者の俺達は最初のビギナー、いわゆる一番下からスタートってわけか……ん?
「あのすいません、ランクに未成年って何か関係があるんですか?」
「はい、冒険者ランクのランクアップの最低条件は成人、いわゆる歳が二十歳でないとランクアップができません。それなのでお二人はビギナークラスからスタートになります。」
「冒険者登録をした時が二十歳を超えていたらランクはどうなるんですか?」
「滅多にありませんがその時はビギナーの次、ルーキーランクからのスタートとなります」
俺の世界で言うところの学生か社会人かの差という事なのだろうか……。
俺は立て続けに質問した。
「ステータス確認をする時はどうやって確認できるんですか?」
「バッチの両端に一つずつスイッチがあるのでそれを同時に押すと確認する事が出来ます。」
両端のスイッチ……。
受付嬢が言っていた通り両端に小さなでっぱりを見つけた俺は押してみた。
カチッ———ブウン……
起動音と共に中心の宝石が光り輝き、目の前に最初にステータスを確認した時みたいなスクリーン画面が現れ、俺のステータスが表示された。
「おお、見えた。確か魔法やスキルが見れるって言っていたな」
ええと、魔法はまだ習得してないから空欄だよな、スキルって技術の事か、こっちは沢山書いてあるな、《料理》が最大レベル十でカンスト、《裁縫》、《洗濯》、《掃除》これも同じくカンスト……なんか家事系モノしかカンストしてないな……。
俺は再びスキルの欄を確認した。
あれ、《物作り》っていうのはなんだ? これもカンストしている、俺物作りとかできたけ? ……あ、もしかして、俺の中で一時期プラモデルがブームだった時に、バンダムとかキューブ戦機のロボットとか作っていたなぁ、もしかしてこのスキルってのは、元の世界で俺が実際にやっていた事がこの技術っていうのに影響されているのなら俺の料理や洗濯のスキルレベルがカンストしているという事は合点が付く。うん、それにしても俺、女子力高いな!
俺は他に表示されているところ隅々見た。もちろん、職業の所にも……。
「二十歳から冒険者っていうから職業の方はまだ空欄なのか……?」
〔職業:学生〕———
「……学生?」
この瞬間、俺の思考が一時的に硬直した。
「すいません、俺のバッチの〔職業〕の欄に〔学生〕って書いてあるんですけど、俺こんなの選んだ覚えがないですけど?」
「そのことなら先程サクラさんから渡されたこの神託書によるものです」
そう言い、受付嬢は俺に神託書を渡された。
俺はゆっくりとその書類に目を通した。
「『私、カリュウイザナは西の大陸の女神アリスティア様の神託により、魔法学の街アスベルの名門ラグナロク学園に神託推薦によって進学することをここに示します。』……おいサクラ、これはどういうことだ?」
俺は押し黙るサクラに問いかけた。
「俺は確かに魔王を倒すとは約束はした。だがこれはなんだ、学園だと⁉ そんなの聞いてないぞ、ここで冒険者登録をしたら冒険者になれるんじゃなかったのか⁉」
「………」
「なんとか言え、これはアリスティアが送ってきた書類なんだろ、どうしてあいつはこの事を俺に直接言わなかった!」
俺の問いかけに未だに黙っているサクラに段々と怒りを露になり、登録屋全体に俺の怒号が響き渡った。
「落ち着けイザナ、ここでこの話はするな、流石に注意事項は我が主から言われていたろ、このことは知られたらまずいという事を」
「———ッ‼」
俺は驚き辺りを見渡した。
急に怒鳴った俺の声に驚き、俺達の担当をしていた受付嬢を含め他のスタッフ達も戸惑っている。幸い、ここで登録をしていた客は俺達だけだった。
「す、すいません! 急に大声を出して……」
「え、ええ大丈夫ですよ。何かお役に立てる事は?」
「それでは一つだけ、私らは長旅で疲れがたまって金銭も底を尽きかけているので、この近くで格安で泊めてくれる宿屋はありますか?」
「はい、ではこれを、このメモの地図の通りに歩いて行けばその宿屋があります。」
「ありがとうございます。これは登録料と迷惑料です。世話になりました……行くぞイザナ」
「ああ……」
「あ、ありがとうございました……」
サクラは俺の手を引きながら登録屋を後にした。
「………」
「………」
俺達はメモを頼りに格安の宿屋で部屋をひとつ借りた。
「サクラ、この世界の事とあの女神が説明しきれていないところも洗いざらい答えてもらうからな」
「ああ、わかっている。何でも話そう」
俺はさっそく先程の受付嬢に渡されたこの神託書というものをサクラに突きつけた。
「まずこの神託書っていうのは何だ? 登録屋に渡す前に門番の人達にも見せていたが……」
「この神託書は、私がイザナのコートと一緒に転送された時に最低所持金と一緒に送られてきたものだ」
「アリスティアが送られてきたっていう事は、この神託書はアリスティアが書いたものなのか?」
「そうだと思う。私も詳しくは知らされていない」
例えこの信託所はアリスティアが書いていないが書いていようが、この書類は天界の神様が書いた書類に間違いない、そうだとしたらアリスティアが俺に話していたこの世界の人に俺達転送者の素性は知らされてはいけないという注意事項があったはず、これはどういう判定になるのか……。
「ここはアリスティアに直接電話して詳しく聞いてみるしかないか」
「そ、そうだ連絡だ、これでアリスティア様の所に帰れる!」
俺は携帯端末を取り出し、アリスティアに電話をかけた。
「なあイザナ、私も代わっていいか? 久しぶりにアリスティア様のあの透き通った声が聞きたい!」
「お前、まだ転送されて一日も経っていないのにもうホームシックかよ! テレビ電話にするからそんなにくっつくな!」
そんな事をしているうちに、アリスティアが電話に出た。
『もしもし、誰ですか? 今仕事中なんですけど……』
「仕事中に悪かったな」
『その声、い、威沙那さん⁉』
「驚きすぎだろ、たかが電話一本で戸惑い過ぎだろ。それにこれテレビ電話にしているから早くカメラ繋げてくれ」
『え、テレビ電話⁉ ちょっと待って、三十秒待って!』
「三十秒か? ああ、いいけど」
たかがテレビ電話に慌て過ぎじゃないか?
『コホン、その様子ですと無事に街に辿り着いたようですね』
三十秒前の慌てようが嘘のように平然としたアリスティアがカメラ繋げた。
「何とかな、こういうのはもう勘弁だ!」
『それにしても威沙那さんから電話してくるなんて意外ですね、もしかして私に会えなくて寂しくなったのですか?』
この女神は……。
「アリスティア様!」
『あら、この声はサァちゃん? 貴方も元気そうでよかったわ』
「アリスティア様、私は天界に帰れるのですか? 私は早く帰りたいですよ!」
『そのことは後で話しましょう。それより色々と言いたげで不満そうな彼から……』
「電話越しでも俺の頭の中がわかるのか⁉ ……ああ、その通りだ。まずは一つ目神託書について、そして二つ目は転送者についてだ」
先程明るくしゃべっていたアリスティアは真剣な眼差しで俺を見て。
『わかりました。この際、洗いざらい話しましょう』
「この神託書はお前が書いたのか?」
『はい、そうです』
「そうか、なら話は早いな、これは俺に話した注意事項に叛く行為じゃないのか? これは流石にアウトじゃないのか、なんとか言え、女神アリスティア!」
「イザナ貴様、口を慎め!」
『確かにそう言うとアウトな気がしますが、これはギリギリセーフなのです』
「それはどういうことだ?」
『そのことを説明する前にまずはこの世界について説明するところから始めた方が理解できるはずです。結構長くなるので、覚悟してくださいね♡』
「……ああ」
そうして俺はアリスティア直々からこの異世界について、そして転送者について聞いた。
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