第8話

「おお、これぞまさしく異世界!」

 俺が見ている景色はファンタジーゲームの王道の中世ヨーロッパ風の街並みにこの街の人達の他に旅商人が出店を構えて客引きをして賑やかだ。

 所々に冒険者らしき防具を装備している連中が手に馴染んでいそうな武器をぶら下げながら歩いている。

 あの冒険者の肩に乗っているトカゲみたいなのは使い魔か何かだろうか?

「俺、今やっと異世界に来たって実感したよ」

「何を言っているんだ、本番はこれからだぞ」

「おうそうだな、……それで冒険者ギルドはどこにあるんだ?」

「……?」

 何やらサクラは理解ができない様子だ。

 しょうがないだろうな、コイツは仮にも天使だし、このような世界は無縁なのだろう

「冒険者ギルドはあるにはあるが……そこでいったい何をどうするきだ?」

「どうするって、普通は冒険者になるためにはギルドに行って冒険者登録をしてもらうっていうのがファンタジー世界のお約束みたいなものだろ?」

「登録……ああ、登録(レジスター)の事か」

「レジ……なんだって?」

「この世界は登録とは言わず、レジスターと呼んでいる。レジスターは冒険者ギルドとは違って別の場所でするから」

 レジスターとはこれはまた意外だ。

「場所は知っているのか?」

「ああ、私はアリスティア様の専属の部下だぞ、この街なんぞ手に取るようにわかる」

「ほう、それは頼もしい」

「ここからまっすぐギルドの所まで行けばすぐそこだ。付いてきなさい」

 調子に乗っているのは些か腹が立つがここは大目に見てやろう。

 それにしても冒険者ギルドと登録屋が別々で営業しているとは、効率が悪いのではないだろうか? アニメやゲームとは何か違うな、他にも俺の知らない常識とかが存在するのだろうか……?

 俺はこの異世界に興味を持ちながらサクラの後をついて行った。


「うまくて安いよ、串焼きはいらねえかーーーーッ!!」

「そこのべっぴんさん、このアクセサリー買ってみないかい? これを付けているだけで幸運値アップのおまけ付きだよ!!!」


「やっぱり生活や文化が違う場所の食べ物はみんなうまそうだな、アクセサリーとかの装備品もそれなりに気になる……」

「そんなにフラフラしているとはぐれるぞ」

「ところで異世界の通貨って持っているのか?」

「ああ、コートと一緒に転送されていた」

「そんなに転送されていたのか、俺には見えなかったが……」

「どうやら私用に転送されたようだ」

 暫くして、冒険者ギルドの真裏にある登録屋に着いた。

「登録屋レジスターってそのままだな……あれ? そういえば俺なんで異世界語が読めるんだ⁉」

「私がイザナに初めて接触した時に言語解読ワクチンを点滴しておいた。これで今から普通にこの世界に馴染む

ことが出来るぞ」

「点滴? それっていつされた?」

「私がお前の背後に必殺サクラキック☆をした時だ」

「あの時に……は!」

 思い出した。そういえばドロップキックされた時に重い蹴りの衝撃の他に何か突き刺さるような痛みを感じた気が……。

「お、お前、そういう事は普通にできないのかよ!」

「だが、結果オーライだ」

「自慢げにグッジョブするな! ……もういいや、早く行こうぜ」

 今更怒ったってしょうがないな……。

 俺は冒険者になるために登録屋に入った。

「すいませーん、えーと、レジスターしたいんですけど?」

「いらっしゃいませ……レジスター? ……あ、冒険者登録ですね、こちらへどうぞ!」

 一瞬、受付嬢がレジスターとは? という感じで立ち止まったんだが……。

 は? レジスターじゃないの?

「おい、サクラどういう事だ、レジスターじゃないのかこの世界の冒険者登録の呼び名は?」

「プッ……ああ、そうだ」

 笑いを堪えている、コイツは……。

 コイツは異世界に来て右も左もわからない俺を手玉に取りやがって……。

「お前さっき笑ったろ、レジスターなんて呼び名は嘘だろ?」

「クククク……ああそうだ、ヒハイッ!」

 ゲンコツは効果がいまひとつだと知ったため、俺は無言でサクラに頬をつねる。

 まったく、赤っ恥をかいてしまった。

「お待たせしました……あの、お連れの方はどうかされましたか?」

「いえ、なんでもありません、気にしないでください!」

「そうですか、それではこちらへ」

俺達は二つの椅子があるカウンターへ先導された。

「それではこの紙に書いてある質問に答えを空欄に書いてください」

 カウンター越しで受付嬢から登録用紙と書かれた紙とペンを渡された。

 名前は……ここは異世界語でカリュウイザナと、性別男。年齢は十七。身長一七五センチ。後は……よし、これでいいだろ。

 俺は登録用紙の書かれている質問通りに黙々と記入する。サクラも俺の隣で黙々と……。

「それにしてもなんでサクラも登録用紙に記入を?」

「いや、なんか渡されたから」

「断ればいいのに」

「昔からこういうのをつられてやってしまう癖があって、周りの流れに乗らないと体がムズムズする」

「お前も大変なんだな」

「分かってくれて嬉しいよ」

「それ、本心じゃないよな?」

「ああ、お前なんかに嬉しみを覚えていたら反吐が出るわ」

「そういうのは本当に傷付くからやめて」

「善処する」

 書き終わった俺はペンを置いた。

「おいサクラ、終わったか?」

「さっき終わった。」

「そう言えば思ったんだが、お前、年齢とかどうした?」

「なんだ? 女の私にも秘密にしたいものはあるからな」

 お前は天使で普通の女の子じゃないだろ。

 別にそこまで興味は持ってないからここは諦めておこう。

「すいませーん! 記入しました」

「はーい、それではお預かりしますね」

 俺とサクラはお姉さんに登録用紙を渡した。

 ああ、とうとう俺も冒険者デビューか、一度は夢に見ていたことがまさか現実に起こるなんてなぁ、職業はどういうのにしようかな、ここは剣士とか、でも魔法も使ってみたいなあ、でも俺の煌具も活躍させたいしここは魔法剣士的な職とか無いのかなぁ……。

「すみません、あとこれも」

「はい……これは」

 俺が冒険者になったらどんな職に就こうかワクワクしている隣で、サクラが受付嬢に一枚の紙を見せた。それはこの街に入る時に門番にも見せていた紙と同じもののようだ。

「……この説明は今すぐにはできなので後でよろしいですか?」

「構わないです」

「ありがとうございます。それでは先に冒険者登録用紙を確認しますね………カリュウイザナさんとサクラ・アールボットさんですね、お二人とも年齢が十七歳なので、詳しいことは後程お話しますが先程提示されたこの神託書の条件に当てはまるので、問題はありません」

「ありがとうございます。このまま発行をお願いします。」

「わかりました。お二人は発行が完了されるまで少々お待ちください」

 受付嬢はそう言い、席を外した。

「おい、サクラ」

「ん? ああ、年齢の事か? そうだ、イザナと一緒の十七という設定にしといた。これで大丈夫だな」

「全く理解できないがそれは置いといて、神託書とはなんだ? 俺たちが十七だったらなんかあるのか?」

「慌てるな、後でアリスティア様に聞けばいい」

「そう言えば、アリスティアにはこの世界の事をざっくりとしか説明されてないから、イマイチ理解できてないんだよなぁ」

「そうだな、そのことも後でアリスティア様から聞くといい」

 サクラのヤツ、全部アリスティアに丸投げだな、正直言ってこの世界に転送されてからサクラは俺に何か隠していることがあるような気がする、天界では何やらヒソヒソアリスティアと話しているからどうも気になる……今すぐ説明して欲しいものだ。

「お待たせしました。お二人の冒険者バッチの発行が完了しました!」

 受付嬢は俺とサクラの前に綺麗に並べられたピンバッチを差し出した。

「まだ未完全ではありますが、個人情報はこの冒険者バッチに記録されています。これは身分証にもなりますので大事に持っていてくださいね」

 なるほど、この冒険者バッチというこのバッチは俺の世界で言うところの運転免許証みたいなものか。

 俺は冒険者バッチを受け取り、まじまじと見た。

 バッチの形は盾と剣を思わせる細かな装飾が施されており、カラーリングはすべて銅色でバッチの原形をわかりやすくするために縁が金色に塗装され、上品さがあるバッチだ。更にバッチの中心には小さな宝石が埋め込まれている。

「あの、未完成って言っていましたが、まだ完成じゃないんですか?」

「はい、これからこのバッチにステータスを記録させます。ステータスを記録させる ためには、所持者の血が必要なのでこの魔道具に人差し指で触れてください」

 今度は自分のステータスがわかる魔道具を俺たちの前に予め用意していたようにドンッと出された。

 また点滴かよ、今日で二回目だよ……。

「それでは始めます。痛みは一瞬ですので」

「は、はーい」

 まあ、実際注射と言っても血は一滴だけしかいらないから気にすることでは———


 ブスッ——

「イッテぇ!」

「はい終わりです。次サクラさんお願いします。」

 今なんか『ブスッ』って鈍い音がしなかったか? それにしても痛いなぁ、手加減してくれよ……。

 でも、これで俺のステータスがわかるからここは我慢だ。

「は、だらしないなイザナ。お前は痛がっているだろうが……私は耐えて見せたぞ」

「……目尻から涙が出ているサクラが言ってもなぁ」

 天使のくせに強がりやがって。

「これでお二人の血を採取したのでこれからステータスの確認をします。お二人の血をこの冒険者バッチの中心にある宝玉にかけることで、ステータスを見ることが出来ます」

 お、いよいよか、興奮する! これでこれからの事が見えてくるからな、ここは大きな賭けだ。

 受付嬢が血をバッチにかけた瞬間、二つの四角い画面が浮かび上がってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る