第5話
「ぅう、まだズキズキします……」
「自業自得だ」
アリスティアは泣きながらタブレットをしまい、四振りの刀の煌具の解説を始めた。
「それでは改めて始めたいと思います」
おお、急にスイッチ入ったな。
「この煌具たちはあなたも実際に見て感じた通りひとつひとつに能力があります。しかし、煌具のほとんどは強力な能力と対になるようにデメリットが存在します。その事を考慮して決めてください」
すると、アリスティアは四振りの刀から赤黒い刀を取り出した。
「この煌具の名前は妖炎煌具黒炎刃。能力は名前の通り炎を生み出すことのできます。更に所持者の感情の昂りに反応して炎の威力や温度が上昇し、敵を燃やし尽くす煌具です」
「殺人鬼とかに渡したらヤバイ煌具だな、所持している者の使い方次第で敵にも見方にもなる煌具だな」
「ですが、この煌具は感情の昂りよって威力を上げている分、精神エネルギーをかなり消費します。闘争心を剥き出しにして戦うと自らの感情を制御できなくなり、炎が暴走し最悪な場合、辺り一帯を灼熱地獄になります。ですので、感情を表に出さないクール系の人にオススメされます」
「怖いわ、なんだそのデメリットは怖すぎだろ! 辺り一帯を灼熱地獄にしたら敵味方関係なく殺しに来ている感じ、妖刀より断ち割るぞその煌具。誰が作ったんだよ!」
「この刀の素材は北欧神話で語られているムスペルヘイムの炎の巨人スルトを討伐した際にスルトが身を守る
ために使っていた剣の一本を鍛冶の神ヘパイストス様が刀に造り替えたとても貴重な一品ですよ!」
「めちゃめちゃ貴重じゃないか! ていうか、スルトの剣をそのままこの刀に造り替えたってまさかレーヴァテイン?」
「いえ、確かにスルトの剣と言えばレーヴァテインと言いますが、それとは別の剣を素材にしています。」
「な、なるほど……」
レーヴァテインじゃなくても、あの北欧神話で名の知れた炎の巨人スルトの剣を素材にあの鍛冶の神ヘパイストスのオーダーメイドっていうのは何とも魅力的だ。
「先程言ったようにこの刀を使うのなら感情を表に出さないクールな性格の人がオススメですので、イザナさんではどうでしょうか……」
「おい、一言余計だぞ。そんなに俺にオススメできないならそいつをピックアップするなよ。まぁ、まだ他のもあるからその後に決めるとして、その煌具はどんな煌具だ?」
俺は水色のいかにも能力が氷って感じのする刀を指さした。
アリスティアは俺が指さす刀を手に取った。
「この煌具は氷華煌具冬月と言います」
「おお、the,氷って感じがするな、能力はやっぱり氷系の能力なのか?」
「そうですね、この煌具の主な能力は所持者の汗といった体内の水分を使って氷を作り出すことです」
ほう、結構いいんじゃないか? 候補になるかも。
「それでデメリットはこの煌具の素材は同じく北欧神話の氷の世界ヨトゥンヘイムから採取された氷から造られていて、ヘパイストス様が試行錯誤してようやく氷を溶かさずに刀に加工することに成功したので、大まかな調整は全部後回しにされてしまったためちょっとした気温の変化で刀身が溶けたりして大変なことになります。あとは、この子の能力である氷を作るために所持者の水分を元にするため、長時間能力を使うと脱水症状を起こすので、おススメするなら雪国育ちで寒さに強い体を持ち、出来れば汗っかきの人に限られるわ」
まさかの同じ北欧神話だな。制限がひとつひとつ難題過ぎる!
「なるほど、いろいろ納得した。俺には不向きだから却下だ、次お願いします!」
「はいはい」
まるで何もなかったようにアリスティアはきびきびと次の刀の用意をする。
「これは威沙那さんにピッタリだと私は思います」
三振り目の煌具を手にしてアリスティアは呟いた。
「俺にピッタリってどういうことだ?」
「この煌具の名前は雷斬煌具雷切。あの雷切をモデルにした煌具です」
「な、なんだと、あの雷切⁉」
俺は体中に雷に打たれた如く衝撃が走った。
「うぉおおおおおお! あの雷切‼ あの戦国武将の立花道雪の若かりし頃に雷を切った伝説がある別名千鳥‼」
「お、おお……詳しいですね……」
俺の趣味が爆発したことで、アリスティアの奴は俺の熱量に圧倒されかなりの引き気味だ。
これは確かに変態クラスだという事は納得だな。
「ほかにも、竹俣兼光(たけまたかねみつ)という日本刀が雷神を二度も切ったことで雷切という名で呼ばれるようになったり、それでそれで——」
「も、もうわかりましたから! その通りこの刀はあの雷切丸をモチーフに日本神話の雷神、タケミカヅチ様が造った刀です!」
「おお、やっぱりそうか、日本神話で雷神と言いうとタケミカヅチしか思い当たらないからな」
まさかあの名刀が俺の愛刀になるとは……感激だ。
「やっぱりその雷切の能力は電撃系か?」
「はい、この刀を所持することによって周りに飛んでいるミクロサイズの微粒子を刺激し、電撃を生み出す能力を持っています」
やはり電撃系か、この類はゲームだとスタンという一時的に敵の動きを止める状態異常効果が見受けられるな、俺がやっていたネットゲームの電撃の武器は威力が強力だという代わりに扱いが大変だった記憶がある。
ここでもそのスタン能力があるのだとしたらもうこいつに決まりだな。
「よし、コイツにするか」
「え、デメリットは聞かないのですか?」
あ、忘れていた。そうだ、こういう強力な能力に限って相応のペナルティがあるはず……。
「あ、すまないデメリットの部分の解説をお願い」
「了解です。この刀はめったに無いと思いますけど、戦いの際に周りに電撃を生み出すための微粒子が飛んでないと、この子はただの普通の刀です。他には先程解説した電撃を生み出す際、直径十メートルの範囲で電撃を無差別に生み出すので、もしパーティメンバーがいたとするのなら味方にも電撃が回って全滅しちゃうケースがあるので、単独で行動する人にはおススメですね」
「なるほど、この能力は周囲電撃の類になるのか、そういえばお前、さっき俺にピッタリっていうのはどういう意味なんだ?」
「それは、威沙那さんは自分から友達を作るタイプじゃないのでソロで活動するならコレがいいと思いまして」
「勝手なことを言うな! 友達いない前提で俺に煌具を進めるな。第一、友達が出来なかったのはコミュ障のせいだし、今はこの通りお前のおかげで治ったから友達なんて楽勝だし!」
「ぷぷ、強がっていますね」
「うるせえ! コイツは一旦保留だ、次の煌具を見せろ!」
俺は気恥ずかしさとイライラを大声と共に吐き出しながらアリスティアを急かせた。
「ついに、この子をプレゼンする時が来たようですね」
何やら先程より自信ありげににやけているアリスティアは最後の煌具を手に取った。
「確か、その煌具は自作だって言っていたよな、確かにその煌具初めて手に取ったのに手に馴染んでいて意外とよかったけど、プレゼンするならちゃんとメリットとデメリットをちゃんと説明してくれよ、贔屓(ひいき)はダメだからな」
「わかっています! ですが私には見えますよ、イザナさんが私自作のこの子を腰に携えて魔王を倒す姿が!」
変に熱くなったアリスティアはグイグイと俺に迫ってくる。
「そんなこと言ってもお前のあのびっくりチキンの前科があるんだ、そう簡単に首を縦には振らないからな、近いから離れろよ」
「す、すいません! そ、それでは気を改め解説を始めます!」
急に熱くなったと思いきや、何故か今度はその熱がわかるくらいに顔が赤くなったアリスティアは、自作の煌具の解説を始めた。
「この煌具の名前は臥龍丸。能力は敵がどんな強力な魔法でも瞬時に吸収し、その攻撃の威力を倍にして放出する、吸収とカウンター、二つの力を合わせ持つ煌具です!」
「自作にしてはこれまた斬新な武器を造ったな」
「はい、この煌具の素材はドレインストーンという鉱物で天界と魔界の境界にしか採取できない珍しい鉱物で出来ています」
「つまり、そのドレインストーンの能力でこの煌具は吸収&放出ができるっていう訳か……」
ざっくり説明されただけだが確かに魔法の吸収と反射はかなりのチート能力だ。
「それでデメリットはなんだ?」
「わ、わかりません……」
「は? なんでわからないんだよ?」
「それはその……」
「さっきまであんなに俺にこの臥龍丸を進めてきたのに、なんか込み入った事情があるのか?」
「こ、この子を先程言った通り、私が自作した煌具の中で唯一、煌具承認審査に合格した煌具なのです。ですが、この子はその……勢い任せで私が造ったものでして……えっと、その、なんていうか、能力のメリットついては考えていたのですが……で、デメリットの方は全然考えていなかった……です……」
さっきの威勢は何処に行ったのやら、アリスティアの表情は段々と暗くなっていく。
コイツはからかい癖の他に後先考えなしに突っ込む性格の女神なのか?
「困った奴だな。よくそれで審査が通ったな」
「はい、デメリットは捏造して煌具認定しました」
おい。
「捏造したらダメだろ、それだったら不合格になった方がまだましだ!」
「で、ですので、イザナさんに試運転を兼ねて、この子を渡して冒険しながらデメリットが発見できればいいなぁと思いまして……」
「つまり俺は実験体の役割をしろと……?」
「ピンポーン!」
「却下だ!」
「うわぁあああああん! お願いしますよ威沙那さぁああああん!」
「泣きつくんじゃねぇ、お願いもクソもあるか、俺は実験用マウスじゃないんだよ! 仮にその煌具を選んで異世界に行ったとして煌具のデメリットが能力を使った瞬間に死ぬ様なものだったらどう責任を取るんだよ、俺の異世界ライフが終わっちまうんだけど?」
「その時はその時ですよ♪」
コイツ、何も考えてないな!
「もういい、俺は雷切丸にする、お前の煌具なんて死んでも使わん!」
この煌具は俺にぴったりだ。仮にパーティを組んだ時は能力を使うときメンバーには離れてくれとかなんとか合図をしておけば何とかなるはず。
俺は雷切に手を伸ばした。
「あ~手が滑った~」
「え?」
俺が雷切を手に取ろうとした瞬間、アリスティアはそれを阻止するがのごとく俊敏な動きをし、雷切はともかく黒炎刃と冬月をも巻き込み、その煌具らまとめて先程保管していた武器庫に繋がる魔法陣めがけて投げ込まれた。
「ああぁアアアアアア!」
「ふぅ、あの武器庫は威沙那さんが想像できないくらい広いので探すのは困難ですのでしょうがないですね、時間もないのであなたはこの私、アリスちゃんハンドメイドの煌具、臥龍丸を選ぶしかありませんね♪」
すごい達成感と安心に満たされた顔でアリスティアは額の汗を拭った。
「お前の素人でもわかりそうな意図的な行動が言い訳で収まると思ったら大間違いだぞ」
「ぎゃぁああああああああ! イタイイタイ!」
これでもかと言うほどの力を込めてアリスティアの頭に再びアイアンクロウをお見舞いする。
結局、俺はこの女神のせいでデメリットが不明の煌具、臥龍丸を使うことになってしまった。
「うう、頭がズキズキします。どうして私がこんな目に……」
「少しはその勢いで事を進める性格をどうにかしろ」
女神様はまだ痛むのだろうこめかみの部分をさすりながら何やら今度は魔法使いっぽい杖みたいな枝を取り出した。
「次はその煌具を所持者の私からあなた専用の武器に書き換えます」
呪文みたいな言葉を呟きながら俺が持っていた臥龍丸に向けて杖をかざした。
その瞬間、刀の形をしていた臥龍丸は光に包まれ、龍が彫られた指輪の形になった。
「はい、これでこの煌具はあなたの煌具になりました。後は威沙那さんの声に反応してこの子が元の刀の姿に戻れるようにします」
「俺の声に反応するって?」
「この煌具達は仮に盗まれて悪用にされないように所持者の声によって発せられるパスワードによって使えるようにプログラムされています」
なるほど、声認証というやつか。
「パスワードも私が覚えやすいように男の子が大好きな中二病マシマシの四字熟語にしておきました」
「男が皆中二病だとは限らないからな」
アリスティアは四字熟語のパスワードが書かれてある紙を渡された。
そこには俺には到底解読できない言葉で書かれていた。
「……読めないのだが」
俺は無言でそのメモ用紙を破り捨てようとした。
「ご、ごめんなさい。間違えて天界語を訳していませんでした。テヘペロ♪」
天界語ってなんだよ……。
俺はわざとらしい言い回しをする女神に面倒くさそうになって、一発ひっぱたいてやろうかと思ったが何とか持ちこたえた。
「これが翻訳したパスワード四字熟語です♪」
「……こんな四字熟語なんてあるのか?」
「これはオリジナルです。それに、この子にぴったりだとは思いません?」
「まあ、確かに」
「さあ、この煌具にあなたの声を認証させるためにかっこよく、勢いを持ってこのパスワードを唱えてください。こんな事で恥ずかしいとか思わないでくださいよ。異世界に行った時には横文字がバンバン出てきますので!」
「そこは別に言わんでいい」
俺はこれから俺の愛刀になるこの刀はいったいどんな活躍をしてくれるのか、不安と期待が混じった気持ちを胸に俺はパスワードを唱えた。
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