第4話
「さて、残りは武器ですね」
「え、武器も貰えるのか⁉ ユニークスキルを貰ったのに⁉」
「当たり前です。威沙那さんは勇者ですし、それっぽい得物を持っておかないと向こうの世界で何もせずに死んでしまったら困りますので」
「確かにそう言われると異世界に来た意味がない」
「それに、これからお渡しする武器はご要望であれば、威沙那さんの世界に語り継がれている神話や伝説に登場する武器なので、正直言ってこっちの方がメインで、ユニークスキルはおまけです」
「異世界に行くために武器も貰っておまけにユニークスキルも貰えるって。気前が良過ぎないか?」
「天界の神様は心配性なのですよ」
「神様なら神様らしく堂々としていろよ。……それにお前からユニークスキルを貰ったけどそれをおまけにするなら、順番逆じゃないのか? 普通はメインの次におまけだろ?」
「あ、そうでしたね、てへぺろ☆」
まぁ何がともあれ、これこそラノベやゲームでお馴染みのイベントだ。ここまで来たかいがあったって事だな。
「そういえば、あなたの経歴を調べていたら趣味に変人クラスの武器マニアって書いてありますけど……どういう意味か具体的に教えてくれますか?」
「変人クラスは余計だが、名前の通り武器の出身国や性能のメリットとデメリットすべてを知り尽くして——」
「簡単に言うと戦闘で役立つ変態という訳で、地上の現代社会に必要ないという事ですね」
「おい、俺は引きこもりだから現代社会に必要ないのはしょうがないが、変態ではない」
「現代社会に必要ないというのは認めるのですね……」
「まあな、俺もこの一年ただ無心に引きこもっていたわけでは無いからな、武器の知識を身に着けていたのは」
「そこは自慢するところではないですよ……」
少し脱線しながらもアリスティアはスムーズに事を進める。
「それじゃあ、どんな武器がお好みですか? チョイス的には取り寄せるのに時間が掛かりますけど、すぐに用意ができるものなら私が所持している武器庫から一つ授けられますけど」
今の俺は、冒険型育成ゲームで言う所の最初の三匹の中の一匹をパートナーにして冒険出かける。そんな段階であり、これは俺の今後に影響されるであろう大事なイベントだ。
「まぁ、安心してください。あなたの事を調べつくしているこのアリスちゃんに任せればあなたが今一番必要である武器を用意してありますので!」
アリスティアは得意げになりつつ、武器庫に繋いであるのだろう魔法陣を作り出し手を突っ込んだ。
「おお、自身に満ち溢れたその発言、もう言っていることはストーカー行為なのだが、信頼性が高いぞ!」
「だ、誰がストーカーですか、あなたの事を調べたのは勇者として適しているか調べただけです!」
おお、珍しい、アリスティアの奴が焦っている。これはどういう光景なのだろう? まぁ深く追及はしないでおこう、これからの武器を慎重に決めないといけないからな。
それにしても、ここ一か月俺の事を調べつくしたのなら、案外俺が欲しい武器は大体把握が出来ているのだろう。ここ最近の俺はたくさんのネットゲームやRPGでどのような武器が大ダメージを与えやすいとか、どれが間合いに入りやすいとか、研究しまくっていた時期があるから、意外とウィ〇ペディア並みの武器情報を頭にインプットされたこの俺が導き出した武器はただ一つ……。
それは日本刀だ! 日本刀は反った刀身を利用して引き切る事で凄まじい切れ味を出す。その切れ味は日本の枠を超え、海外にも絶大な評価をされている。更に日本刀は一本の刀が仕上がるまでの工程は刀の素材となる『玉鋼』という鋼を何度も何度も精錬する『折れ返し鍛錬』、刀の形状を作り上げる『素延べ』や『火造り』といった非常に複雑な工程を重ねて作られている。それにより、しなやかで、そして頑丈な刃が作られる。更にその作業一つ一つに深い意味があり———(以下略)
おっと、久しぶりに武器マニアとしてのクセが出てしまった、まぁこの事を簡単にまとめると……。
超カッコいい&日本人の誇りっていう感じだ。
だから俺は日本刀をベースにされた武器を選ぶ。いや、選ばなくてはいけない!
「さあ、俺が求める素晴らしい武器を今ここに!」
「はい、これですよね」
「そう、俺が使うのはこの……ん?」
俺がアリスティアに渡されたのは黄色い鶏の人形だ。
無意識にその人形の腹にあたる部分を押す。
『アァアアアアアア!』
このいかにも吹き出して笑ってしまいそうになる声……あれだ、ビックリチキンとかいう腹を押せばマヌケな鳴き声を出す一時期はやっていたらしいアレだ。
因みにこいつは国によっては軍の訓練にも使われている。
「なぁ女神様や」
「はいはい、なんぞ?」
「一応聞こうか……こんなものを渡されて、俺はいったいどうすればいいんだい……?」
「わかりました説明しましょう。このチキン人形は魔力を込めて思いっきりお腹の部分を押すと山脈級の山をも消し飛ばす極太の破壊光線を発射することができる優れた逸品! その名も『神殺しのチキン野郎』です」
「いやいや、強すぎるし。それに山脈級の山をも消し飛ばすって地形を変えちまったらもう勇者やめて魔王にジョブチェンジしちまうわ! それに名前がダサい」
「え~かっこいいじゃないですか! 私が考えたネーミングにダサいって言わないでくださいよ!」
「第一にこの人形が伝説の武器な訳ないだろ、俺は認めんぞ!」
「別にこれから渡される武器はすべてが伝説の武器だとは限りませんよ」
「え、でもさっき逸話や伝説が語られている武器を渡すって言っていたよな?」
「因みに、伝説の武器と言っても本物と限りなく似せた性能のレプリカですのでそこはご注意を」
アリスティアは俺の解釈の間違いを訂正しながら話を進める。
「例えば、急に銃系統の武器が欲しいと言われた時に瞬時に対応できるために、天界で様々な素材を集め、そして造り上げたオリジナルの武器もその中に入ります。ですので、イザナさんが言っている元から知られている伝説上の武器はあくまでジャンルの中の話です。」
「そうなのか……。それにしても、俺を異世界に送るためにわざわざそんな沢山の武器を造らなくとも俺を調べつくしたのなら別に必要ないんじゃないか?」
「そ、そんな事ないですよ! 人間の感情や気分は常日頃コロコロ変わるもの。ですので、備えあれ無礼なしですので!」
「なるほど、流石心配性の神様達だ」
「そうなのですよ。因みに、先程紹介したこのビックリチキンもオリジナルの武器なのですよ」
「見た目はふざけているが、確かに魔力を込めて腹の部分を押すだけで山を消し飛ばす程の力ならそれもそうなのか……」
「ですが、一度使用したら最後。発射した時の熱に耐えられなくなってドロドロに溶けて使用できないデメリットがあります」
「使い捨てじゃないか、それ使った後どうやって自分の身を守ればいいんだよ! その前に、あのふざけた見た目から願い下げだ! 俺のお求めの武器は日本刀だ。つべこべ言わずに早く持ってこい!」
「は、はい、ただいま!」
激昂した俺に驚き、涙目になった女神様は再び魔法陣の中から四振りの日本刀を取り出した。
「……そう言えば、ゲームとかでは神が作った武器って、なんか決まった名前みたいなのはあるのか? 神器とか……」
「はい、確か煌具と呼んでいます。『煌めき』の煌と『道具』の具で煌具です」
「煌具? 変わった名前だな、なんか意味とかあるのか? 煌っていう感じを使っているんだ、それなりに意味があるはず」
「いいえ、特に意味はありません。昔は神器にしていたのですが、ただオリジナル感が欲しいから、上司の神様達も少しだけ変えてもいいだろうって試行錯誤してようやく『煌具』という名前に辿り着いたんです!」
天界の神様はいったい何と戦っているのだろう?
「ちなみに先程のビックリチキンも煌具なのですが、あれは私自作の煌具ですが!」
「え、あれお前が作ったの⁉」
「はい、わざわざあの形状にしたのは敵を欺くためでその隙に強力な破壊光線を発射するのです!」
「別に隙を作らなくたってあの火力なら別に必要ないだろ、それ!」
「あれでも火力は控えめに設定したのですが……結局審査に落ちてしまいました……グスン……」
煌具には審査があるのか、まぁあの火力重視しすぎて耐久性に劣っているから合格はまず無いな。
「時間が押しているのに脱線が多くなってしまい申し訳ございません、こちらがイザナさんのご注文通りの日本刀が四振りあります。その四振りの日本刀のうち三振りは神様の中でも特に有名な神様が御作りになられた、煌具の中の煌具です!」
「残った一振りは?」
「私の自作です」
「また審査に落ちた不良品じゃないだろうな?」
「あ、安心してください、この子は唯一審査に合格した煌具なので!」
何やら先程までの余裕があったアリスティアが段々と焦り始めているのは気のせいだろうか……?
「それでは私はこの後の準備をしなくてはいけないので、ごゆっくり~」
「え、あ、おい!」
アリスティアはそう言いまた何かスイッチが入ったように真剣な表情になってまたタブレットからホログラムを作り出し、作業に入った。
「何か忙しそうだな、ほんとはどういう能力なのか聞いてから決めたかったんだが……しょうがない、自分で決めるか」
俺の前に並べられている日本刀は熱気を放っている赤黒く不気味な刀。触れなくてもひんやりと冷気を纏っている水色の刀。同じく触れなくても指先からビリビリ電気が走る山吹色の刀。どれもこれも個性があってアリスティアから能力を聞かなくても理解できそうな煌具達だ。
「ん? これは……」
見た目は他の煌具の刀とは違うごく普通の刀で柄のところの先端に龍の頭が立体的に彫られている今にも噛みついてきそうな迫力を醸(かも)し出していた。
「コイツだけ他の煌具とは違って何にも感じないな」
試しに持ってみるとずっしりと重く何やら手に馴染む感じがして使いやすそうだ。鞘は黒塗りの鉄交じりでどんな衝撃にも耐えられそう頑丈さだ。
他には目立ったところはないが何やら、鞘の口の辺りに何か漢字が彫られている、この刀の名だろうか?
「がりょうまる……臥龍丸って読むのか? アリスティア、ちょっとこの煌具達の解説を———」
カチャカチャ
俺がアリスティアの居る方に目をやると。
「ここは、こうですかね? うーん難しいですね……」
その女神は何やらカシャカシャと音を立てながら唸っていた。
「ん? なんでコイツ、コントローラー持ってヘッドホンを付けているんだ……?」
よく見たらあの女神は無線のコントローラーを手にタブレットにヘッドホンを接続していた。
俺は気づかれないように俺はアリスティアのタブレットを覗き込んだ。
「ダメです。高難易度ボスが勝てません……」
「そこはこのキャラを使って、敵に状態異常を掛けた方が良い。このボスは攻撃力がん振りの奴だから攻撃際当たらなければ楽勝だ」
「なるほど、ありがとうございます!」
「いいや別にどうってことはないさ」
「………」
「……あ」
あじゃねぇよ、この女神もどきが!
「余裕ですな、女神様。自分で時間がないと言っていたのに呑気にゲームとは良いものですな!」
俺は握力全開でサボり女神の頭にアイアンクロウをした。
「グァアアアア! イタイです、ごめんなさいぃいい!」
「俺になんも解説なしに煌具を押し付けやがって、俺にどう選べばいいんだよ!」
「仕方ないじゃないですか、このゲームあと数分でイベント期限が終わってしまうのですよ、私のプレイヤー
「そのイベントが最後までできない俺の気持ちにもなれ!」
「なんと、同じこのゲームのプレイヤーですか⁉」
最大出力、俺の苦しみを知れぇえええええ!
「ひえぇえええ!! ごめんなさい!! イタイイタイ! ちゃんとしますのでやめてくださいぃいい!!」
アリスティアはもちろん大泣きだ。これで少しはトラウマを植え付けることができただろう。ったくどうしてこんなんな奴が女神をやっているのかさっぱりわからん。
それにしても、《西の女神様》っていうプレイヤー名何処かで聞いたことがあるような……。
俺のこの怒りの咆哮は天界の端とはいえ、たぶん最上階の神様にも聞こえているのではないかくらい響き渡った。
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