第3話
アリスティアはタブレットを操作し、俺にはなんて書いてあるか読むことが出来ない言語のボタンをタップした。
——ヴゥオン———
その瞬間辺り一帯が暗くなり、タブレットからホログラム映像が現れた。
「な、なんだこれ⁉」
急なSF映画のような展開で俺はまた声を荒らげる。
「それではまずさんに今後行ってもらう事をザックリと言いますと、王道の剣と魔法の異世界に行ってもらいます。そこで悪の限りを尽くしている魔王を倒してください」
「本当にザックリと説明したな……」
これほどザックリ説明されるとバカでも理解できそうだ。
「えーと、何処だったかな? ……ああ、これこれ」
アリスティアはホログラムで映し出されている何らかのファイルを取り出した。
「私はこの日のために、この一ヶ月間威沙那さんのことを隅から隅まで調べさせて貰いました」
「……は?」
「これにより過去のあなたの履歴で——」
「おい、ちょっと待て!」
「はい?」
俺は頭の中で事の処理が完了する前にどんどん話を進めるアリスティアに大声を出して席から立ちあがった。
「お、俺のことを調べていた? という事はさっき言っていた俺のあの恥ずかしいエピソードも……」
「ええ、その調べた内容の一部ですね」
「待て待て、プライバシーの侵害だろ! あんたはそれでも女神かよ!」
「別にいいじゃないですか。もう貴方は消滅した身、法律なんて通用しないですよ」
「俺は地上では消えちまったが今の俺はまだピンピンしているよ! そんなもん言い訳になるかよ!」
「もういいじゃないですか、私は神様ですよ? 人間が作った法律なんて私には通用しません!」
「そんな無茶苦茶な……」
これもアリスティアの癖が関係しているのか、またもや女神にあるまじき発言をし、俺は何も言えずに再び席に着いた。
「もう話を先に進めますよ!」
何やら急いでいる様子のアリスティアは再び話を進める。
「まずはプロフィールから行きますね。加龍威沙那 十七歳。中学までは普通に通い、高校進学に合わせて親の仕事で田舎から都心へ引っ越し。先程治療が完了した極度のコミュ障によって友達が一人もできず、今日で約一年三か月が過ぎたと……最初はまっとうな人生を歩んでいたのに何処で道を踏み外したのでしょう。この情報を見た感じ、あなたの急な環境の対応が出来ていなかったというのが原因だと思われますね……次回から気を付けてくださいねー」
「憐れむような目で俺を見るな、それにもう次回なんてねーから!」
アリスティアは再びタブレットを操作しながら話を続ける。
「これからあなたを異世界に送り込むという流れに入るのですが、このまま送るとただでさえこの異世界は死亡率が高いのに上がる一方なので……」
今シレっと聞き捨てならない単語が聞こえてきたのだが……。
「なあ、さっき死亡率って——」
「ええ、高いですよ。だって剣と魔法の異世界イコール、モンスターがいる異世界ですからね」
た、確かにいきなり物騒な事を言って混濁したが、俺の居た世界とは違って魔物が沢山いる世界なんだ、何も不思議に感じる事ではない。
「た、確かに」
「はい」
なぜだろう、先程まで答えを渋っていたのとは違って今回のキッパリとした回答はそれなりに説得力があってある意味怖くなってくるな……。
「現実は初期装備を持っていればどうにかなるゲームとは違いますからね、ですので、威沙那さんの持っている普通の人より長けている能力を私の神々しい神パワーで底上げしてユニークスキルにしたいのですが……。威沙那さんの履歴を読み返してもこれといって特別な能力を所持していなので困っているのですよ」
「……おい、さりげなく俺をけなすようなことを言うな。俺は浅く広く何でもできる人間だからな、そこを題材にしたらどうだ?」
「そうなったら本格的なチートじゃないですか却下です」
モニター画面や電子ファイルを弄っているアリスティアを遠目で見ていた俺はふと先程アリスティアが話していた内容で聞き逃していた単語を思い出した。
「なあ、さっきの話にユニークスキルって単語が出てきたが、ユニークスキルってあのユニークスキルか?」
ユニークスキルというとアニメや漫画などで主人公しか持っていないチートな能力だったはずだ。
「はい、自分にしか使えないオリジナルのスキルです」
「それって、本当に今から貰えるのか?」
「はい。異世界に言って早々に死んでしまったら困りますので念のためです。ですが、イザナさんが考えている俺TUEEEE!系の類ではないので、あくまで異世界で生き抜くアシストをするスキルなのでそこはお間違いなく」
「なるほど……」
確かにあの説明で「あなたの持っている普通の人より長けている能力を私の神々しい神パワーで底上げしてユニークスキルにする」って言っていたな。
「それじゃあユニークスキルの元がない俺はどうするんだ?」
「これからあなたの能力を新しく再開発します!」
「え、そんなことができるの?」
「モチロンです! 私は何でもできる女神ですので、見ていてください」
何かスイッチが入ったようにアリスティアは高速でタブレットを操作し始めた。
「このツールを使ってあなたの今まで何度もユニークスキルの元になりかけたものをリストアップします。ここにはイザナさん本人が記憶にないもの明確に記録されています」
アリスティアがピッとボタンを押した瞬間、俺の目の前にこれでもかという多さの記録ファイルが出てきた。
「おお、凄い。こんなに沢山! これは一つにまとめるのは厳しいな……」
「それなら、私が威沙那さんのユニークスキルの元を選んでいいですか? ちゃんと選びますので」
「まぁ、あれもいいこれもいいと言っていたら切りが無いからな、ここは女神様のチョイスに賭けるか!」
「わかりました!」
数秒後———
「ふぅ、厳選して絞ってみましたが……やっぱりこれが威沙那さんにピッタリなユニークスキルですかね」
そう言って俺には読めない言語でリストアップされている俺の能力の一つを拡大させた。
「……なんて書いてあるんだ?」
「あ、そうでした普通の人にはこの言語は読めないんでした。翻訳機能を使うのは時間がかかりますし、これにしますね」
俺の許可なしにアリスティアはその能力を選び、どこかに転送された。
「……なあ、なんて書いてあったんだ?」
「それは使ってみてからのお楽しみということで♪」
「それって一番やっちゃいけない事なんじゃ……」
暫くして———
「送信完了。そしてユニークスキル制作完了。いやぁ、早くて助かりますねぇ。それじゃあイザナさんは座っているその場で起立してください」
「お、おう」
何やら転送したところからの瞬時に返事みたいなの受け取ったアリスティアの言うとおりにした。
「これから、私が威沙那さんにユニークスキルを与えます。それではコレを……」
そう言いアリスティアは俺に先程返信で届いたらしい封筒から俺が先程飲んだ丸薬のような光輝く石を出した。
「それをどうするんだ?」
「じっとしていてください。少しでもはずしたら大変なことになるので……」
大変なことって? どういうこと?
「このユニークスキルの素を貴方の心臓に一番近いところに抑えといて……」
俺は言われるがままに輝石を心臓の近くに抑えた。
……え、心臓に⁉ 何で心臓に?
「それじゃあいきます。すぅー」
「ちょい、なん深呼吸? そんなに力必要ですか?」
アリスティアは俺の問いかけに応えずに無言で拳を握りしめ構え始める。
なんか嫌な予感する……。
「アリスちゃん式女神流正拳突き!!」
まさかの正拳突き⁉
「グフッ——!!」
アリスティアは思いっきりグーで俺の溝内にユニークスキルの素を叩き込まれた。
「カハッゴホッ! おい何しやがる!」
「何ってちゃんとした儀式であなたにユニークスキルを与えました」
「儀式ってそんな物理的なものなのかよ……!」
「でも痛みは一瞬、今では痛くないでしょ?」
「た、確かにそうだが……」
この女神の言う通り先程感じていた痛みは消え、体の中心にオーブらしき物が光輝いていた。
「それでもわざわざ拳にする必要ないだろ!」
「しょうがないですよ。時間がないですし、これが一番手っ取り早いんです」
「手っ取り早いって……」
「さあ、巻いていきましょう!」
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