第8話 クリスマスツリーには、トナカイが待っている。

 お昼限定豚角煮定食を食った俺は、サンタクロースの集まる拠点であるクリスマスツリーに出向き、そこのエントランスに寄せられた討伐依頼に目を通していた。


 クリスマスツリーは、世界各地に設営されているサンタクロースの活動拠点だ。

 主な仕事としては、サンタクロースへの依頼の仲介・斡旋、サンタクロース同士の仕事の連携の取り持ち、サンタクロースの所有するトナカイの登録や管理・運営、その他諸々の雑事を行なっている。

 しかし、俺がここに来たからと言って、俺がこのツリーに持ち込まれた依頼をすぐさま受注することはできない。


 サンタクロースが依頼を引き受けるには、プレゼンターと呼ばれるサンタクロースの行動を監視する人間が間に立ち、依頼者とサンタクロースの間を取り持ち、初めてサンタクロースは依頼を引き受けることができる。

 つまりは、サンタクロースはプレゼンターの許可が無ければ、仕事を引き受けることはできないというわけだ。

 その為、俺がこうして依頼を眺めていたところで、実際に依頼を引き受けることはほぼできない.一応、興味のある依頼を見つけておいて、後でプレゼンターを通して受注することはできるが、色々と面倒くさいし今はしない。

 正直、めんどくさい制度だと思うが、それでもこういう間に挟まる人間がいないと、トナカイなんて言う巨大な兵器を運用する人間を野放しにしてしまうからな。


 ちなみに、クリスマスツリーには様々な形態が存在しており、一口にこういうものと言えるものではない。

 現在、俺が拠点にしているクリスマスツリーは、巨大な空中戦艦型のクリスマスツリーであり、外見は一口で言えば大型空母にホバリング用のプロペラが八つ搭載されている艦船の形をしている。


 さて、俺が今回ここに来た理由は二つ。

 一つ目は、景気の良さそうな奴を見つけて、金を借りるため。しかし、この目的はどうやら果たせなさそうなので、二番目の目的を果たすとしよう。

 二つ目は、ここで預かってもらっている俺の愛機、ホワイト・スノウ・ナンバーナインの様子を見るためだ。

 サンタクロースは余程の例外でもない限り、基本的にはクリスマスツリーにて、愛機であるトナカイを預けておき、必要な時に転送してもらう形式を取っている。

 一応、トナカイを預けるかどうかはサンタクロースによる自由意志となっているが、実際のところトナカイを個人管理するのは色々と面倒くさいので、実際には大抵のサンタクロースはトナカイをクリスマスツリーに預けている。

 当然ながら、俺もまたサンタクロースの一人として、トナカイをクリスマスツリーの格納庫に預けられている。

 そうして、クリスマスツリーの格納庫にやって来た俺は、俺の愛機の前にとりついている二人の人影に声をかけた。


「よう。今日もサービス残業ご苦労様。どんな調子だ?」


「とりあえず、お前をぶち殺してえよ。その面を視界にいれたくない程度には、大変だな」


 俺が声をかけたのは、褐色の肌に金の髪をした童顔の小柄な男、フォークロア・カノン。

 トナカイの整備と調整の責任者であるコンポーザーを勤める俺の部下であり、今現在も複数のホログラム映像に目を通したながら、何やらキーボードを叩いている。


 そしてもう一人。


「はぁはぁ。か、カノンたんカノンたん。今日も最高ですなぁ〜!あ、ああ!!こ、これこれ!た、堪らんとですよ」


「アリア、次に俺の匂い嗅いだら、明日からリモートワークな」


「し、失敬ですなぁ!わ、私が、か、カノンたんの髪の匂いを、か、嗅いでいた証拠でもあるんですか?!」


 そう言いながらも、カノンを後ろから抱きしめつつ鼻息荒く身体中の匂いを嗅ぎ回っている女は、クロイツ・アリア。

 黒髪ゴスロリに、丸眼鏡。吃音気味なところが多少あるのが特徴的だが、パッと見は口元の艶黒子と言い、肉感的な体つきと言い、色気のあるねぇちゃん、って感じだ。

 それなのに、それよりもやベエやつって印象しかないのはなんでだろうな。ショタコンだからか。


 アリアは、トナカイの機体整備を直接務める、チューナー兼サンタクロースでもあり、本来ならば異端なトナカイを利用したトナカイ整備を行なっている女だ。

 そんな二人は、今日も一心同体もかくやと言った風情で、俺の愛機の整備に励んでいた。


「くんかくんか!ハスハスハスハス!はぁあ!カノンたん、いい匂いですぅ。み、漲る!あ、ああああ!!みなぎってくるー!!」


「ちょっとマジで気持ち悪いからやめてくれ。髪に鼻を突っ込むな」


「いつもながら、お前らそんな体勢でよく人と話できるよな。俺だったら、恥ずかしくて、ちょっと人前に出れない姿だぜ?」


 俺はエクレアを頬張りながらアリアとカノンの乳繰り合いに苦言を呈すると、二人とも俺に向かって苦味のある唸り声を上げて俺を威嚇してきた。

 何だよお、上司の忠告は素直に聞いとけたよなぁ?


「俺は鬱陶しいから助けてほしいんだけど?あと、当然のように、ものを食いながら人と話そうとするなよ」


「そ、そうですよ!わ、私のじ、人生の唯一の安らぎを、う、奪うなんて、横暴すぎます!!」


「ははは。矛盾した頼みをどうやって聞けっちゅーねん。俺にしてみりゃ、仕事さえしてくれるんなら、お前らがどうなろうがどうでもいいんだよ、んなこと。それよりもだ。ナンバーナインの様子はどうだ?」


 すると、俺の質問を聞くやいなや、二人の雰囲気が一瞬で変わった。

 仕事の話だけで、一瞬で切り替えてくれるのはありがたいな。俺には到底できねぇ芸当だ。何しろ、俺は仕事とプライベートを区別しないプロだからな。

 あーウメェ。このエクレア、新作かなぁ。だったら、今度から仕事帰りに買おっと。少しでも売り上げに貢献しないと、コンビニスイーツは一瞬で消えるからなあ。

 まあ、それはともかくとして、だ。


「一応、結構すげぇ奴と戦った後だからな。今の整備の状況と、実際に受けた被害状況について教えてくれないか?まあ、思ったよりは楽な相手ではあったがよ」


 すると、俺の軽口を聞いたカノンは、眉間に皺を寄せながら口を開いた。









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