クリスマスツリーには、サンタクロースが集う。
第7話 聞いてない聞いてない、もう全く聞いてない!、
「どう言うことだよ!報酬が払えねぇ、ってのはよ!」
巻き貝イカこと、カメロケラス・クラークニクスを倒した俺に待っていたのは、そういう非情な現実だった。
いや、あんだけ働かせて金は払えません。では、単なる不当労働だからな!出るとこに出てやる!!
だが、そんな俺の怒声を聞いたエリーゼの返答はにべもないものだった。
「払わないとは言ってません。ただ、諸般の事情で報酬の支払いを待ってほしいというだけの話です。何か問題がありますか?」
「問題って、おま。サンタクロースの仕事は、依頼達成を確認したら、即日即金払いが基本だろうが!オーダーランクの仕事を果たしたんだから、しこたま金を払うのが当然だろうが?!」
そう。今回俺が果たしたサンタクロースの依頼は、オーダーランク。国家規模にも匹敵するほど大災害を発生前に鎮圧したのだ。
本来ならば、家一軒建つレベルの金を支払らわれて然るべき活躍だ。
しかし、目の前のロリッ娘にしか見えない年増ババアは、眉一つ動かすさずに俺の反論を撥ねつけた。
「いいえ。少し行き違いがありますね。良いですか、ゾス・クリストロウ。今回、我々が受けた依頼は、港町に現れた災害度数2.5のノグシーを討伐してほしい。というものでした。つまり、本来ならばサーヴァントランクの依頼だったわけです。しかし、改めて調査したところ、今回貴方が討伐に成功したカメロケラス・クラークニクスの災害度数は6.2。本来であればオーダーランクが対処すべき事例です」
そうだそうだ。そんなに大変な仕事をしたんだから、きっちりと金を払え。
しかし、そんな俺の小言を無理やり遮りながら、エリーゼは空中にホログラムの電子ページを展開した。
「つまり、仮に当初の契約通りに報酬の支払いを行う場合、貴方が受け取る依頼報酬はサーヴァントランクの報酬額になります。本来の依頼料であれ、これくらいの報酬額なりますね」
そうして電子ページに記載されたのは、俺が想像していいた金額の十分の一以下の金額だった。
酷すぎる!これは余りに横暴が過ぎるだろ!サンタクロースってのはなぁ、これでも結構命懸けの仕事なんだぞ?!
「ふざけんなぁ!!んなもん納得いくかよ!?」
「でしょうね。ですから、今上層部で今回の依頼についての処遇や調査を行なっています。どこになんの不備があって、これだけの依頼がサーヴァントランクとされたのか、契約書の内容の見直し、そして報酬金額の適正額と、誰がそれを支払うのか、と言った諸々の事情ですね。それらが解決するまで、待ってくれ。というわけです。どうしても今すぐ払えということでしたら、その金額で満足してもらいますが」
上司からの突き放した言葉に、俺は腰から下の力が抜けてへなへなと座り込んだ。
勘弁してくれよお。最近、出費が嵩んで財布の中身がきびしいんだよぉ……
俺が思わず弱音を吐露すると、エリーゼはいつも通りの不愛想な顔のまま小首を傾げで訊いてきた。
「……ちなみにですが、出費が重なった理由はお聞きしても宜しいですか?」
「ああ、最近はコース料理の旨い店を見つけてよ、よく通ってんだ。トリュフと牛肉のソテーが目玉料理なんだが、俺的には一押しは豚足を使ったブランケットだな。それにデザートのガトーショコラが本当にとろけるような美味さでな。隠し味にワインを使ってやがるのさ。ついでに、ドリンクとチーズも絶品揃いでな、デザート代わりにチーズをつまみつつレモンの風味をつけた炭酸水を口にするか、ガトーショコラにバニラアイスを添えてもらって、コーヒーで一服するのが俺の楽しみ方なんだ。あ、それだけじゃないぞ。パスタ系の店でも旨い店を見つけてな。こっちは子羊の肉を使った料理がうまいんだ。それにうまい寿司屋と蕎麦屋も見つけてな、特に蕎麦屋は屋台なのにめちゃくちゃうまいんだ、あれは売れるぞぉ。今度紹介してやろうか?」
「……相変わらずの食い道楽ですね。それでよく家計が持ちますね」
「だから金がねぇんだよ!エンゲル係数ヤベェんだよ!俺の食費舐めんなよ?!世の中、食っても食っても食い足りねぇんだよ!」
そう力説する俺に向かって、エリーゼは返答もなくただ呆れたように冷たい視線を送るばかりだった。
おい、なんだよその視線は?バカだなコイツと言わんばりのその視線の温度は?
「……はぁ、本当に貴方はバカですね。もう少し賢くお金を使えないんですか?」
「言いやがったなお前!つーか、なんだその言い分は!破産するまでうまい飯を食う以上に、賢い金の使い道はないだろうが!?」
「破産してる段階でお金の使い方間違ってますよ?」
俺は無理解な上司の言葉に歯噛みしつつも、今日の夕飯代を借りてその場を飛び出した。
しかも金を借りた際に、報酬の支払い時にその分差っ引くとか言いやがった。
本当になんて酷過ぎる上司だ!血も涙もない。くそおお、この怒りを癒してくれるのは、近くの洋食屋で提供されているお昼限定、豚角煮定食しかねぇじゃねぇか。
☆☆☆☆☆
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