第4話 真っ白なトナカイ
ホワイト・スノウ・ナンバーナイン。
目測で二十メートルには見える、白く巨大な人型の全身像。
上半身はオーソドックスな人型をしているが、張り出した胸や腰の括れたシルエット、曲線美を基調にした全体のデザインは、女性的な印象を与えてくる。
反面、両脚は俗に鳥脚と呼ばれる逆関節式のベディピュレーターが備え付けられており、背部には左右二対のジェットスラスターが、天使の翼を思わせる形で収まっている。
装備は、ぱっと見、両腕に握られているアサルトライフル型のレールガンのみだが、実は全身に細かい仕込みが色々となされている。
異形と人型が調和するレベルで混ざり合った、くろがねの人形。
そんな俺の愛機を見上げて、エリーゼはほう。と溜息を吐いた。
「……いつ見ても綺麗ですね、このトナカイは。貴方は最低ですけど、この機体だけは素晴らしいと心から思いますよ」
「なんか言葉が一言か二言か多いな。言っておくが、別に報酬負ける気ねぇからな!そこのジジイからしっかりと搾り取れよ!」
余計な茶々を入れるエリーゼと、その背後にいる漁師のクソジジイを指差しながら俺はそう言うと、もう一度指笛を鳴らした。
その瞬間、思念波によって俺の脳内はホワイト・スノウの電脳部とつながり、俺の視界には目の前の視界とホワイト・スノウから見た視界とが同時に広がる。
これがトナカイの特性だ。
トナカイはおおよそ二十メートルを超える巨大な戦闘用人型ロボットだが、乗って操作するタイプのロボットではない。
トナカイは、脳波を通して所有者と情報や状況を共有し、所有者の指示通りに動くシステムだ。
それはラジコンでロボットを操っているというよりも、幽体離脱した自分の霊体を操っている状態に近いな。
それはともかく、俺は愛機たるホワイト・スノウ・ナンバーナインに、電子端末を通して情報を入力しつつ、脳波を通して指示を与える。
「悪いな、お姫様。想定外の事態だ。結構キツイ仕事になる。戦闘準備の為に待機座標へ移動しろ。そして移動次第、戦闘態勢に移行。戦闘態勢はマスターランクで」
『入力データ確認しました。オーダー承認。戦闘準備に入ります』
すると、俺の指示に対して、脳内に女声の電子音声が響く。
ホワイト・スノウに搭載されたAIによって生成された、ナビゲーション用の人工ボイスだ。
そして、脳内にナビからの返事が返って来るなり、ナンバーナインの脚部に仕込まれた浮上用の反重力式スラスターが起動し、巨大な鉄の塊が静かに宙へと浮かび始める。
これだけの巨大な金属の塊が浮かんでいくというのに、周囲に巻き起こるのは僅かに髪を揺らす程度の微風でしかない。
相変わらずこの光景には、人類の技術と進歩を思わずにはいられないね。
やがて、俺の脳裏とエリーゼの通信端末に同時に女声の電子音声が鳴る。
『ターゲットを確認しました。待機態勢から戦闘態勢に移行します』
充分に空中に浮かび上がった俺の愛機は、機械の軋みを上げながらジェットスラスターを展開する。
まるで天使の翼の様に収まっていたジェットスラスターは、エックスの形に展開し、スラスターに設置されたジェット機構の一つ一つが、熱と光を灯して加速の準備に入る。
『戦闘態勢への移行が完了しました。戦闘態勢をマスターランクに設定しました。戦闘許可が入るまで待機します』
「戦闘許可、承認。ホワイト・スノウ・ナンバーナイン、フルアタック」
『戦闘承認、確認。戦闘開始します』
三、二、一、加速。
カウントダウンが終わるか終わらないかのタイミングで、勢いよく世界が後ろに流れていく。
ナンバーナインが加速すると同時に、ナンバーナインのカメラとセンサーを通して、加速した世界が俺の脳内に叩きつけられる。
空の青と海の青とが入り混じり、空間が境界を失っていく。
無重力と加速した重力が疑似的な情報として伝えられ、脳が、五感が、あるいは意識が大きく揺らされる。
端的に言って、気持ち悪い。
自律AIによる自己判断により、ナンバーナインは、姿勢制御やターゲットまでの攻撃距離を計り、両手に構えたアサルト・ライフル式レールガンをぶっ放す。
巻き貝イカが痛みや憎しみを覚えるよりも先に、空中でのターンを決めたナンバーナインは、再加速する。
そうして、加速した白い騎士人形は、重力も時間も、俺からの思念ですらも振り切り、風と光の狭間を駆ける。
ここまで来ると、もう送られてくる情報を半分処理出来なくなる。
何がなんだかわからない世界の中、辛うじて指示を送ることしかできない。
ただ一つ確かなことは、ホワイト・スノウ・ナンバーナインだけがこの世界で最も自由になる。
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