第5話 ナンバーナインの世界。


 超高速の自由の中、ナンバーナインのセンサーは標的となる巨大イカを再び射程に入れ、レールガンの弾丸を再度巻き貝にぶち当てる。

 それがよほど効いたのか、巨大な巻き貝イカは海中から無数の触腕を伸ばして空を往くナンバーナインを捉えようとする。

 客観的に見れば恐ろしいほどの反応速度だ。

 その図体に見合わず、伸ばされる触腕の迫り来るスピードは、軽くスーパーカーの全速力くらいにはあるんじゃないかと思う。


 だが、ホワイト・スノウ・ナンバーナインの前では、ナマケモノのお手振りよりも鈍い。


 すり抜ける様に触腕の群れを避けると、さらに追加でレールガンの弾丸を当ててやる。

 戦闘開始からわずか数分の間で、もうイカは半死半生の状態だ。

 残念だったな、うちの姫様が相手じゃなけりゃ、もう少し長生きできたんだがな。

 ナンバーナインは戦闘態勢を維持したまま、死にかけの巻き貝イカを観察する為にホバーモードを起動させる。

 ホバーモードで空中に停止したまま、ナンバーナインの電子音声が巻き貝イカの現状を伝えてくる。

 

『ターゲットのバイタルアナライズ確認。血圧上昇率、40%増加。心拍数、60%増加。生体機能、戦闘開始以前より70%低下。このまま生命活動を停止させますか?』


「そろそろトドメってか?いいねぇ。つっても、ここで殺すのは後が色々と厄介だ。できれば港の外に誘導してから、トドメといきたいな」


『了解しました。戦闘出力を低下し、ターゲットを現在地から誘導します。誘導範囲の指定を指示してください』


「そうだな……。とりあえず、ある程度外海には出したいから、この辺りに誘導してくれるか?」


 弱り始めたイカをみて、俺はナンバーナインから送られてくる地図にマーキングを行い、ナンバーナインもその指示の入力の為に一時的に動きを止めた。


 だが、それが完全に油断だった。


 突然だが、イカの精莢せいきょうというものをご存知だろうか?

 精莢、別名を精子鞘。読んで字の如く、精子を入れた入れ物のことで、タコやイカといった軟体動物を中心に見られる交尾の仕組みの一つだ。


 この精莢とは、カプセル状の入れ物の中に精子を雌に渡すことで交尾を行う仕組みで、精莢の中に存在する精子は精莢から切り離されても暫く生き続ける。

 また、この特徴から精莢の中に仕込まれた精子は、イカが死んでも暫く生き続ける特徴を持つ。


 しかも厄介なことこのイカの精子、生きている間は活発に動く上に、人の肉程度なら突き刺さる程度の攻撃能力がある。

 特にイカの場合、刺身にした時にそうと知らずに口にして、そのまま口中にイカの精子が突き刺さると言う例が多い。

 そうなった場合、手術によって取り除く事しか対処法が無く、イカの生食の際に気を付ける事として有名である。

 その為、イカの生食には非常に気をつけねばならない。


 さて唐突にイカの生態について説明してまで何が言いたいかって言うと、このイカ野郎、俺の愛機に向かって精液ぶっかけやがった。


 既に瀕死の重傷だろうに、震えながら触腕を持ち上げたこの巻き貝イカは、触腕の先をナンバーナインに向けて精莢を発射した。

 咄嗟にギリギリで発射されたイカの精子を避けることに成功したが、その際に思わずナンバーナインは右手のレールガンを手放してしまった。


 すると、ここが正念場と思ったのか、巻き貝イカは今まで海中に沈めていた分の触腕を振り上げ、その先端から幾つもの精子を発射した。

 しかも触腕から発射された無数の精子は、どう言う理屈か、空中を泳ぐ様にナンバーナインに襲い掛かり、一回避けても追い縋る様に再び襲い掛かってくる。

 レールガンで撃ち抜けば流石に撃ち落とすことができるが、撃ち込まれる精莢の数が多いので、どうしても全部撃ち落とすのは無理がある。


 何よりも面倒なのは、無数の触腕も同時に襲い掛かってくることだ。

 発射される精子を避けつつ、無数の触腕をかわすとか、なんだこの嫌すぎる弾幕はよ?!


 それでも、ナンバーナインに可能な限り襲いくる精子と触腕を避けさせていたが、最悪な状況というものは畳み掛けてくるものだ。


『ターゲットのバイタルサインに変化。バイタルアナライズ確認。ターゲットの血圧の上昇率が緩和しています。ターゲットの損壊箇所に血液の集中が確認されます。ターゲットの損壊箇所の再生が開始されています』


 おーいマジかー!なんで再生してんだよ!


 いや、そんな事は今はどうでもいい。そもそも再生能力の高さは軟体動物の特徴だ。ここでその能力が使われても今更の話だ。

 問題なのは、ここをどう切り抜けるのか、という事だ。

 今までは単にノロノロと触腕を動かすだけだったが、ここからは射精による遠距離攻撃まで加わるって事だ。

 しかも、発射された精子は軽い追尾性能を持っており、避け切るのも難しい。

 あー、クソッタレ。そうはイカの金玉とはよく言うが、実際にイカに金玉で攻撃されるとウゼェもんだな。


 クソが!!いいだろう。そんなにセンズリこきたいなら、内臓ごとぶちまけさせてやる。





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