D××/復活祭からXLII日後 ?אגדהוזטךכלמן?
――二人の恋人が甘い吐息を漏らした直後、寝室の扉が乱暴に開かれ、いるはずのない人物が姿を現した。
「愛する相手を間違えたな、ラモラック卿」
燃えるような瞳で情事を睨む、ロット王の息子。武装を整えた彼の右手には、血塗られた抜き身が握られていた。先ほどまで生きていた、裏口の見張りの鮮血が。
「ガへリス、何故おまえが――」
「母上、私は悲しいです。彼を我々の仇の息子と知ってなお、彼を愛しているなど……」
ガへリスは自分で言葉を選びながら、徐々に怒りが抑えられなくなっていた。この城に母を呼び寄せたのは、兄弟たちとの話し合いの末だった。母はキャメロットの近くに来れば、必ずラモラックを招き入れるだろうと思っていたのだ。
「一体どのようなお気持ちをもって、その男の腕に抱かれるのです!! 我々兄弟の心境を、一度でも考えたことがおありですか……!?」
血まみれの抜き身を見て、母はあからさまに動揺し、ラモラックは彼女を庇うような動作をする。それを見た瞬間、ついに彼は己の衝動を封じることができなくなった。
「――っ!!」
真っ赤な瞳を見開き、物凄い勢いでラモラックを突き飛ばす。そして母の髪を無理やり掴むと、そのまま首をばっさりと切り落としてしまった。
「なっ……」
白い床の上に飛び散る、生温かい血液。それは目の前の現実を受け入れられない、ラモラックの顔にも降り掛かった。
「……よくも私に、私の兄弟たちに、このような恥をかかせてくれたな。おまえがぺリノア王の息子であることが、そもそもの元凶だ。我々の母がロット王の妻であることを知って、このような浅ましい情事を繰り返すなど、我々にとっては屈辱以外の何物でもない。何せおまえの父は、我々の父を殺したのだからな」
顔を歪めながら、ガへリスは捨てるように言葉を紡ぐ。腹に力を入れていないと、今すぐにでも吐いてしまいそうだった。
「私の父が、オークニーのロット王を殺しただと……!? 貴様、何を勘違いしている!! ロット王を殺したのは、私の父ではない!!」
真実とは実に曖昧なもので、食い違うこともときに容易い。しかし今のガへリスにとっては、どちらの言い分が正しいなどということは、まさにどうでも良かった。彼の心の中にあるのは、目の前の汚れた騎士に対する、黒々とした憎悪のみだった。
「おまえの弁明など、もはや聞きたくもない!! 今すぐこの場を立ち去れ!! 次に我々の前に姿を現したら、おまえの命も奪ってやるからな!!」
……ラモラックには、どうすることもできなかった。愛する者を失った上、深い悲しみと恥辱のあまり、アーサー王の宮廷に帰ることさえもできなくなった。彼は大人しく武具を取ると、キャメロットとは真逆の方向に馬を走らせた。
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