第7話

 高校になって新しい練習台を買ったのは、流石に贅沢だったかもしれない。新しい音が耳になじむまでの時間が、僕にそう思わせた。

 メトロノームが刻む一定のテンポ。正確無比なはずのその電子音は、僕の気持ちをより一層落ち着かなくさせる。

 音楽準備室の、ティンパニの隣で練習台を叩く僕の耳は、先輩達が楽器を叩く音を1つのBGMとして認識しつつ、否が応でも辻の練習台の音を拾ってくる。

 彼の音は、躍動的だ。正確でありながら、人間味に溢れている。

 僕は、自分の音を見つめ、その音を出す自分自身に目を向けた。

 音には性格が出る。あらゆる楽器の中でも、打楽器ほど人間性が音に表出する楽器は無いのではないだろうか。心の動きが、ほんの少しの機微が、太鼓の面と空気を振動させる。

 基礎練習が終わり、音楽準備室に響く無為のアンサンブルを聴きながら、練習台を元の場所へ戻した。

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