第二話 日常

 ぼくがあの日空の彼方で死に、生まれ変わってもう10年はたっただろうか。この体は成長するにつれてオリビアに近づいていく。もう二度と会えないと思っていたが、最悪の形で再会してしまった。ぼくは生まれ変わったオリビアの魂を食いつぶして、その体を乗っ取ってしまったのだろうか。ただの偶然ではすまない程、この体はオリビアそのものだった。


 成長を直視できずに逃げ出したぼくに、体の主導権はない。長い眠りから覚めたときにはもう、新しい人格が芽生えて元気一杯に生活していた。今この体で生きている人格こそが、この体の本来の人格なのだろう。だとしたらぼくは何のためにここにいるのか。ただ、せっかく芽生えた人格を邪魔する訳にもいかず、ぼくは思考の片隅でずっとを眺めていた。


 ああ、彼女が起きる。ぼくは気づかれないよう、眠りについた。








 わたしはちょっぴり早起きです。今日も点灯時刻より先に起きました。でもお布団からはまだ出ません。しばらくすると城中の廊下の魔結晶に明かりが灯ります。ね? ドアの隙間が明るくなった。でもでも、やっぱりお布団にくるまってぬくぬくします。なぜならこうして寝たふりをしていると……


 コンコンコン


 ドアがノックされました。エーベル姉様です。姉様は優しいので、わたしをいつも起こしに来てくれます。わたしは目をつむって、だんまり。しばらくすると姉様は仕方がないわね、ってドアを開けてわたしの肩を揺らします。


「ほら、起きてオリビア。朝よ」


「はーい、姉様」


 そこでわたしは大きな伸びをして、今起きましたって顔をするんです。そんなわたしの頭を、呆れて笑いながら撫でてくれる姉様が大好きです。わたしは姉様の手を捕まえて頬ずり。姉様の手は真っ白ですべすべしていてとてもきれいです。


 身支度を整えたら、姉様に手を引かれて朝食のホールに向かいます。お城の中はどの部屋も黒塗りか白塗りで窓一つありません。明かりは壁や天井につけられた魔結晶だけ。ほんのりとした優しい光ですが、見続けるとちょっとちかちかします。


 ホールへ行くには階段を一つ通らなくてはいけません。実は姉様が来るまで待ってるのも、そこに原因があるんです。お城の階段の踊場には全部大きな鏡がつけてあります。でもわたしは鏡が苦手。鏡の中の自分を見ていると胸が苦しくなるんです。もっと小さい頃は気を失ってしまうこともあったみたい。


 でもそれだけじゃありません。鏡には不思議な力があるんです。魔法みたいな不思議な力。


 鏡を見た日の夜は、とても暖かくて、とても悲しい夢を見るんです。


 夢の中のわたしは、ちょっと年上の男の子で、わたしと同じ金髪のお姉さんと一緒に旅をしています。炊き出しをしたり、お役人さんとお話したり、同じ布団で眠ったり。とても楽しくって温かい旅の思い出。けれど、最後にはお姉さんは死んでしまって、男の子はずっと泣いていて。とても悲しい終わりを迎えるのです。だからわたしは鏡が苦手。わたしはもっと、皆が平和で明るく楽しく暮らしている夢が好きなんです。


 そうこうする内に階段に着きました。姉様は優しいのでわたしをよく気遣ってくれます。


「オリビア、大丈夫?」


「…大丈夫ですわ。だって姉様がいるもの」


 鏡があっても姉様と手をつないでいれば大丈夫。姉様の手は温かくって安心します。ホールは階段を降りたらすぐの所にあります。ご飯はいつも美味しいですが、わたしはキャベツのサラダが一番好きです。キャベツの旬は春ですが、お城は地下にあって気温が変わらないので、きちんと暦を見ておかないと季節が分かりません。今は春だったかしら。


 ホールの中に入ると大きな食卓に料理がずらり。椅子は全部で7つですが、お父様はお食事をお部屋で食べます。なのでお皿は6人分。右側にお母様と長男のラインハルト兄様、次男のオスカー兄様、左側に長女のエーベル姉様、次女のブリッツ姉様そして末っ子のわたし、オリビアの順で並んでいます。


 姉様とわたし以外はもうみんな席についていました。


「もう、オリビアは今日もお寝坊さんね」


 と笑うのはお母様。すると呆れたオスカー兄様がすかさず返します。


「いいや、オリビアは姉様を待っているだけだよ」


 むぅ…オスカー兄様はいつも謂れもないいいますから、きっとバレてはいないはずです。


「う〜ん………少しムラがあるかも」


 いつもおしゃれなブリッツ姉様はネイルが気になるみたいで魔結晶からの角度を変えてうんうん唸っています。

 

「さて、みんな揃ったところで、朝食といこう」


 そんなわたしたちを微笑ましそうに眺めていたのはラインハルト兄様。真面目で賢く、そして一番強いお兄様。オスカー兄様みたいにからかってきたりしないで、お勉強やそれ以外にも色んなことを教えてくれます。強い人は優しさも兼ね備えているもの、エーベル姉様とは違う意味で大好きです。


 ラインハルト兄様が鈴を鳴らすと、メイドさんたちがクローシュを取ってくださいます。今日の朝食は、ほかほかのクリームスープにバゲット、そして色んなフルーツとオムレツにキャベツのサラダでした。そして真ん中には大きなケーキスタンド。お姉様たちはいつも紅茶を嗜みますが、わたしのコップには果実のジュース。わたしだけ子供扱いされて心外ですが、紅茶の味はよくわかりません…


 食事の前と後には神様に祈りを捧げます。といっても開いた手の指先をおでこに添えて、祈りの言葉を口にするだけ。今では慣れたものですが、お母様が言うには、わたしの小さい頃は上手く言えなくて大変だったそうです。


 楽しい朝食も終わり、それぞれのお仕事が始まります。といってもお父様は最初からお部屋に籠もりっきり。お兄様やお姉様たちはみんな魔術学校に登校してしまうので、実質家にはお母様とわたしの二人っきり。わたしはまだ魔術学校には通えないので、お母様から魔法や社会のことを学びます。


「オリビア、今日は触媒のお勉強をしましょう」


「触媒…ですか?」


 知らない言葉です。今までの授業では全く聞いたことがありません………


「そう。私たちが魔術を使う時、体の中の魔力を頭に運ぶ。そして頭で魔力を魔法に変換して、それから打ち出している…ということは覚えているわよね?」

 

 それは知ってますわ!この前お勉強したばかり。当然覚えていますもの。お母様もわたしの賢さに驚かれること間違いなしです。


「もちろんですわ、お母様。そして、呪文の詠唱は頭の中で魔力を魔術に変えるイメージを持つため…ですよね」


「ええ。よく覚えていましたね」


 ふふん。これくらい朝飯前です。朝ごはんはもう食べてしまいましたが。


「そして、その魔力の変換の効率を上げるもの。それが触媒なのです。例えば、魔法の杖。あれも立派な触媒と言えるわ」


「魔法の杖はお姉様たちが持っているのを見たことありますわ! 先に綺麗ながついててとってもおしゃれ…!」

 

 お姉様たちが魔術学校に通う際に、オーダーメイドで作られた魔法の杖。先端には色とりどりの宝石がつけられていて、とってもおしゃれ。エーベル姉様は蒼玉サファイア、ラインハルト兄様は紅玉ルビー、オスカー兄様は翠玉エメラルド、ブリッツ姉様は黄玉トパーズ…どれも一人一人に似合っていてとっても綺麗…わたしも魔法の杖は使ったことがありますが、練習用の地味な杖。早く姉様たちみたいにわたしだけの杖が欲しいです。


「ふふふ。あなたも魔術学校に通い始めたら専用の杖を作るんですよ」


「お母様、わたし今からとっても楽しみです!」

 

 わぁ! 今から楽しみで楽しみで仕方がありません。思わず身を乗り出してしまいました。そんなわたしを見たお母様に呆れて笑われてしまいました…


「少し話が逸れてしまいましたね。魔法の杖はその形状で狙いをつけやすくする効果もありますが、先端の宝石が魔術の触媒として非常に優秀です」


 そこまで言うとお母様は紙紐を解いて、魔力を流し始めました。髪はきらきらと煌めいて宙に広がり、ふわりふわりと揺らめいています


「そして私達の髪もまた、宝石と同じ力を持っているのです。更に宝石の種類によって変換効率は変わりますが、私達の髪と同じは世界で二番目に高い変換効率を誇ります」


 …そう。お母様たちはみんなきらきらと輝くの髪にの目。あと他の人たち…例えばメイドさんたちは色とりどりの髪と目の色をしています。紅玉ルビー蒼玉サファイア翠玉エメラルド黄玉トパーズ。そしてみなさん透き通った綺麗な色をしています。


でも髪と目の色が一緒なのはお揃いですが、わたしだけなぜか、眩しいくらいに光り輝くの髪にの目。他の色は被ったりもしているのに。わたしだけ、誰も同じ色の人がいません…


「…じゃあお母様…私のは、どうなんでしょうか…」


 不安な気持ちでお母様に尋ねると、お母様はにっこりと優しく微笑んでくださいました。


「オリビア。あなたのはね、世界で一番の色なのよ。その髪と目は、世界で一番の才能の証…私達の誇りなの」


「わぁ…本当? 本当ですの? お母様!」


「ええ。あなたは神に選ばれた子なのよ」


まあ…なんてことでしょう。わたしのこのが、エーベル姉様よりも、ラインハルト兄様よりも、すごい色だったなんて…! みんなと違うこの髪が、お母様たちの誇りだなんて…!


 そうして飛び跳ねるわたしを眺めていたお母様ですが、しばらくして手拍子でわたしを諌めました。


「いい? オリビア。私達の髪はも光沢を放っています。これは高い変換効率の証であり、全属性への適性の証でもあります」


 そしてお母様はわたしを手招きして抱きしめてくれます。お母様はそのままわたしの髪を触りながら、授業を続けます。


「わたしたちの髪でなければ放てない魔術よりも高位の術、魔法の存在。この髪を持つ私達は、強大な力を振るえる責任を持たなければなりません。そしてこれらは邪な心を持つ者を引き寄せる」


 お母様の顔が険しくなっていきます。邪な心の者…どんな人なのでしょうか。わたしはまだ、家族以外にはメイドさんたちしか見たことがありませんから、想像することもできないでいました。


「オリビア。今はまだ私やお父様たちがあなたたちを守ってやれます。ですが、いつか大人になった時、あなたは自分の身を自分で守らなければいけません。また、力に溺れないよう強い意志を持たねばならない。あなたのこの髪は神から賜った祝福であり、あなたの運命を縛る呪いでもあるの」


「…大丈夫ですわ、お母様。わたしは一人じゃないですもの! お姉様やお兄様がいますわ!」


「ええ…そうね。そうだったわね」


 なんだか今日のお母様は涙もろいです…でも、このあとの授業は何事も無く終わりました。


「はい、今日の授業はこれでおしまい。さて今日はご本を読んであげる約束でしたね」


「ええお母様! わたし、"ガスパール"がまた読みたいですわ!」


 『時の魔術師ガスパール』、わたしの一番大好きな本。偉大なる大魔術師ガスパールが、時の魔法という強力無比な大魔術を、世のため人のために役立てる英雄譚。かつて戦いの道具とされていた魔術で人助けをした最初の魔術師。わたしの憧れる最高の魔術師です。


「ふふ…オリビアは"ガスパール"が大好きね…こっちへいらっしゃい」


「はいお母様!」


とてとてとお母様の隣に駆け寄るわたし。お母様は普段、このお城を守る結界の管理をしていますから、授業の後も遊んでくださるのは珍しいのです。


「…ごほっごほ…」


「お母様!?」


 突如咳き込むお母様。なんだかお顔も辛そうです。


「大丈夫よオリビア。気にしないで」


「いいえ…? お母様、わたしは大丈夫ですからゆっくり休んでくださいな」


「…そう…? じゃあ…お言葉に甘えちゃおうかしら」


「はいお母様。お大事にね」


 わたしはそう言ってお母様のお部屋を後にしました。お母様はなにか病気なのでしょうか………


 その後わたしはメイドさんたちとお庭でかくれんぼをして遊びました。楽しい時間はすぐに流れて、お姉様たちが学校から帰ってくる時間です。


「エーベル姉様〜!」


 城のドアが開く音がして、わたしは一目散に駆け出しました。大好きなお姉様たちの帰りにいち早く駆けつけるため。玄関口の大広間には、制服を来たお姉様たちがメイドさんに荷物を預けているところでした。


「エーベル姉様! 今日も学業お疲れ様でしたわ!」


 エーベル姉様がこちらに気づくのも束の間、わたしは思いっきり姉様の胸に飛び込みます。


「わぁ…!? こら、オリビア。そんな勢いで人にぶつかってはいけませんよ」


「はぁい…姉様…」


 まあ実際のところ、わたしは姉様の魔術でぷかぷか浮かされているのですが…


浮遊の魔術は魔術の中でも基礎の基礎。だって物が浮かせられなければ、火の玉や氷の塊を的にぶつけるなんて到底無理ですから。そしてエーベル姉様は色んな属性の魔術を使いますが、水の魔術が特別得意。水の魔術の使い手は、水の塊を空中で扱うので、浮遊の魔術も大得意なのです。詠唱しなくたって、わたしを浮かせて止めるくらいは簡単にできてしまいます。


「オリビアはホントに姉様が好きだねぇ」


「ホントそれな〜。まあ実際姉様は優しいけどさ」


 そう言ってわたしを誂うのはオスカー兄様、そしてそれに頷くブリッツ姉様。二人は双子なのに、性別のように得意な魔術もそれぞれ風と土という真逆の組み合わせです。するとこちらに足を進める人影が。


「やあ、元気なお迎えありがとう、オリビア」


「おかえりなさい、ラインハルト兄様」


 と、浮かされながら答えるわたし。ラインハルト兄様はいつもわたしのお迎えに気づいている様子で、一度も驚かせれたことがありません。兄様は炎の魔術が大得意で、いつも熱い炎を目の前で操るわけですから、わたしとは心持ちが違うのかもしれませんわね。


「さてオリビア。夕飯の前にお風呂に入ってしまいましょうか」


「へ…?」


 あら…? 急になんてことをおっしゃいますのエーベル姉様ったら。


「ああなるほど姉様、オリビアをずっと浮かせているのは逃さないためだったのか」


「オリビアのお風呂嫌いは相当だもんねぇ」


 いじわるなオスカー兄様は勿論ですが、ブリッツ姉様まで!? 助けてください兄様…とラインハルト兄様の方を見る私。


「オリビア、スカートが泥んこじゃないか。先にお風呂に入りなさい」


「そんなぁ…お兄様ぁ………」


 エーベル姉様に浮かされ、虚しく空を切るわたしの手…


「オリビア、もう観念なさい」


 そう言って、有無を言わさず連れて行かれてしまいます。


 お城の大浴場はメイドさんたちも使うので、とても大きく作られています。父様や母様なんかは家族用の浴場を使うことが多いですが、エーベル姉様とわたしは一緒に入るので、大きいこちらの浴場を使うことが多いのです。


 わたしの着替えは雑だからと、エーベル姉様は浮かしたままわたしの服を脱がしていきます。なぜか昔からお洋服を着替えたりお風呂に入ることに抵抗があるのです…なぜなのかしら。


 エーベル姉様も服を脱ぎ追わってやっと、空中から解放されました。わたしと違ってエーベル姉様はお風呂が大好き。なんでもお湯に浸かっていると、とっても調子が良いとかどうとか…水魔術の適性はそういうところにも表れるのでしょうか。


「ほらオリビア、髪を洗うわよ」


「はーい、姉様」


 エーベル姉様はわたしの髪や体を洗うのが好きみたいで、毎回洗ってくれます。わたしとしてもやぶさかではないのですが、どうにも落ち着かないのも否定できません…お風呂は不思議な場所です。


 頭と体を綺麗にしたら湯船に浸かります。このお湯は毎日決まった時間に魔道具で綺麗なお湯に変えられていて、今この時間が一番風呂なのです。家族用のお風呂は自力で沸かさなくてはいけないそうですが、こちらのお風呂は城の魔力で勝手に沸くので、お風呂好きのエーベル姉様は大変気に入っているのです。


エーベル姉様はお湯に浸かっていると魔力の回復すらも早いみたいで、学校でヘトヘトになっても、お風呂場では私に魔術を見せてくれます。泡を作ったり、噴水にしたり。エーベル姉様は魔術の精度がとても高くて、お風呂のお湯全部を操って、一滴も零さずに浮かべることすらできます。わたしも学校に通えば、こんなにすごい魔術の使い手になれるのでしょうか。


 お風呂からあがったわたしたちは、夕食のため早めにホールへと向かいます。夕食は朝食と違って、忙しいお父様も時間を作って一緒食べることがあるので時間をきっちり守らねばならないのです。そうしてホールへ到着すると、一番奥の席にお父様が座っていました。お父様のお仕事は大変なようで、朝から部屋に籠もってお仕事をしたり、遠出をすることもあります。何をしているのかは聞いたことはありませんが………


「やあオリビア、お風呂は気持ちよかったかい?」


 そんな仕事の鬼なお父様もわたしたちにはめっぽう甘い、優しいお父様なのです。寂しいのか、いつも会えない分夕食の時にはたくさん話しかけてきます。正直ちょっとしつこいです。


「ええ、お父様。エーベル姉様が水の魔術で遊んでくれたもの」


「そうかそうか、それはよかった。ちなみになんだが、私もエーベルに負けないくらい水の魔術は上手いだが…どうだい、次は私と一緒に」


 む…お父様のことは好きですが、お風呂に入るのはなんだかとっても嫌な感じがします。普段はにこにこ聞いてあげますが、ここはきっぱりお断りです。


「嫌です。わたしももうちゃんとしたレディですから」


「そうか…みんな大人になってしまって…」


 なんだかとっても寂しそうなお父様。今度遊んであげようかしら…


 そうやってしつこいお父様をいなしながら夕食を終え、もう眠る時間がやってきました。エーベル姉様に連れられて階段を登り、自分の部屋までついてきてもらいます。


「おやすみなさい姉様」


「おやすみ、オリビア」


 エーベル姉様におやすみの挨拶とキスを済ませると、ベットのカーテンをくぐって横になります。今日は色んな事がありましたが、一番心に残ったのは髪の話。わたしはふと視界に入った金髪を一つまみ。そのまま目の前まで持っていきます。


「神さまからの祝福、お母様たちの誇り…ふふ、よかった。お母様、わたしは必ずや期待に応えてみせますわ…」


 そうこうしてると眠くなってきました。明日も良い日になりますように…








「オリビア…!オリビア!」


 エーベル姉様の声。わたしはちょっぴり早起きですが、いくらなんでも早すぎます。まったく今何時だと思って…


ポタ


 うだうだしてるわたしの頬にが一滴。寝耳に水とはまさにこの事です、びっくりしたわたし、勢いよく飛び起きました。


「姉様? なにかあったの…!?」


 寝ぼけ眼を擦りながら姉様をみると、ぼやけながらに分かるほど涙を流していたのです。


「よかった…よかった無事で…」


「姉様…?なんで泣いてるの?」


 エーベル姉様はわたしを強く抱きしめると安心したようにすっと力を抜いていきました。あわてて支えようとエーベル姉様の腰に手を回すと、べとりと嫌な感触が。恐る恐るその手を見ると、わたしの手はに染まっていたのです。


「姉様!? あっ…」


 そうしてわたしはショックで意識を失ってしまいました。

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