第4話 失踪幼女
病院で大声を出すわけにもいかないので周囲を目を凝らす。すると・・・まるでヘンゼルとグレーテルのようにてんてんとビスケットの欠片が続いている。
これを追えば羽織ちゃんに辿り着くだろう。
ビスケットの欠片を辿っていくとどうやら売店に続いていっている。食べ物あるところに羽織ちゃんあり、か。
売店の方はざわざわと賑わっている。
うう、嫌な予感がびんびんにする。
意を決して、売店前に集まる人混みを掻き分け中を見ると食べ物が食い漁られている。・・・そこまでは予想はついていた。だが、人が倒れているのは予想外だった。
「だ・・・・大丈夫ですか!?!」
もう罪悪感が半端ない。思わず倒れているその人に駆け寄り声をかけるが「うーん」と白目を剥いてのびている。
売店の店員さんだろうその人は小さな悪魔だ、とかなにか譫言を言っている。・・・うわぁぁッッッッっ本当にごめんなさい。
どうしよう、これお医者さんに見せた方がいいよね?!運べるかな?!
その時だった。コツリとヒール音が鳴り響く。音のする方を見るとそこには白衣を着ている背の高い綺麗な女性が立って・・・ん?女性?
「やあねぇ、お昼にスムージー買いに来たら酷い有様じゃないの。しかも、バイトのマコトちゃん倒れてるし、なんなのかしら?」
・・・テノールの低い声、男の人だ。ていうか綺麗なお兄さんだ。身長も190近いんじゃないか?純粋な日本人ではない顔貌のその人は俺の目の前で口元に手を当て紫水晶の瞳でじっとこちらを見ている。
「えっと、・・・日本語お上手・・・ですね?」
「あらありがとう。生まれも育ちも日本のベルギーのハーフよ。・・・それで貴方、この状況説明できる?」
「へ!?えっと・・・俺もよく分からなくて・・・?」
「ふぅん・・・そう。分かったわ。とりあえずマコトちゃん救急外来運ぶわよ。足の方持ってくれる?」
「あ!はいっ!」
彼がしゃがんだ時にふわりといい香りがした。なんだろう、香水・・・いや、そんなにキツくはない。柔軟剤とかルームフレグランスかな?
なんだったっけこの匂い、えっと。あ、思い出した、フランキンセンスってやつだ。
なんて考えながら売店バイトさんを運ぶ。
どうやら後頭部を打ったことによる軽い脳震盪らしい。大丈夫だとは思うが検査する、と担当の医師は言っていた。
恐らくは食べ物が沢山ある売店に興奮した羽織ちゃんが勢いで飛び掛かり、彼は巻き込まれ転倒、後頭部を打ったのだろう。
「手伝ってくれてありがとうね。私は祈里 観月(いのり みつき)、臨床心理士をしているわ。」
「祈里さん、珍しいお名前ですね。」
「そうね。」
「あ・・・!そうだ、あの、3歳くらいの女の子見ませんでしたか?えーっと、これくらいの!ピンク髪で・・・」
ジェスチャーとか使いながら必死に羽織ちゃんの説明をすると祈里さんが眉を少し寄せた。
「その子って、お団子髪の子じゃない?」
「!・・・そうです!どこで見ましたか?!」
「さっき奏馬先生が抱えていったわ。」
「へ?・・・えーっと、そのもしかして彼女の親御さんですか?」
「いいえ、彼は独身だし、それに・・・子供がいるはずないわね。彼はこの病院の解剖医でーー」
『解剖医』そのワードを聞いた瞬間ぶわりといやな想像をして全身から汗が噴き出たような感覚がした。あんなに大量に食べる子だ・・・解剖して調べたくなるかもしれない。それで誘拐されたということだろうか?!
「あー・・・なんだか貴方の考えてることが分かるのだけど、多分その想像は違うわよ。変わった人ではあるけれど悪い人じゃない。悪い人じゃないんだけれどうーん、一抹の不安を感じるからその女の子早く迎えに行った方がいい わよ。」
「アッはい。そうですね!」
「奏馬先生は2階の病理診断科にいるわ。それじゃあ、私はミニカンファがあるしもう行くわね。」
「ありがとうございます!」
祈里さんは片手を挙げ、そのまま去っていった。
去り際、彼とすれ違う時に一瞬青い煙のようなものがふわりと漂った・・・ような気がした。
煙があったと思われる場所を手でにぎにぎと握るもなにもないただの空気だ。
「疲れてる、のかな?」
俺は首を傾げつつ2階の病理診断科と言われる場所へ向かった。
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