次の依頼
「それで、水を差すようで申し訳ないんだが一つ言わなければいけないことがある」
互いの自己紹介がひと段落したところで俺は改めて口を開く。
「どうしたの、改まって」
「ゴードンの嫌がらせは失敗したが、ゴードンはますます怒っているだろう。いきなり殴りかかってるとかそういうことはないと思うが、また何か悪事を企む可能性がある」
「それはそうね」
エルナが頷く。
状況が状況だったので独断で動いてしまったが、ゴードンの恨みがこれでますます”夜明けの風”に向くことになってしまったことを考えると申し訳ない。
「セレンの件を解決しようとして、ゴードンを勝手に利用したのは悪かった」
「それは本来であれば良くないことだけど、リネアのことを助けてくれたからそれについては気にしなくていいわ。そこで提案なんだけど、みんながそれでいいならこの街を離れない?」
「確かにそれはいいな」
「構いません」
俺もたまたまゴードンたちに連れてこられただけだし、リネアとセレンも別にここが故郷という訳ではないし、エルナも家は出ているという。
それならあえてこの街に留まる理由もない。
むしろここにいる全員、この街には嫌な思い出も多いだろう。
「そうと決まれば早い方がいいわ。早速、別の街の仕事を探そう」
こうして俺たちはギルドに戻った。
そして俺たちは手分けして別の街での仕事を探す。
さすがにギルドと言えども全ての街の仕事情報を共有すると大変なことになるので、よその街での依頼はある程度以上の規模の物だけが共有されている。
逆に言えば他の街の依頼はある程度以上の規模の物だけがあるという訳だ。俺たちもそれなりに強いパーティーなのである程度難度が高い依頼を受けてもいいだろう。
しばらく探していると、エルナが一枚の紙を持ってくる。
「これなんてどう?」
依頼主は近くにある少し大きな街、ノーマの商人らしい。
依頼内容は単純で、山を越えて隣街に行きたいが、最近山にワイバーンが出るらしいので討伐して欲しいとのことだった。
依頼は個人ではなく複数の商人が共同でお金を出しているという。
「確かに、ちょうどこの街を離れたかったし、いいかもな」
俺も頷く。このままこの街に留まってゴードンたちと顔を合わせるのはご免だし、他にも微妙な思い出がある。
それに、パーティーメンバーも増えるならもう少し大きな街にいった方が報酬がいい依頼を受けられるだろう。
「私は構いません」
「ワイバーン!? あたしなんかが戦えるかな?」
それを聞いてセレンが不安そうな表情になる。
実際、ワイバーンはB~Cランクの冒険者がちょうどいいとされる魔物だ。Eランクのセレンでは不安に思うのも無理はない。
そこで俺はセレンを安心させるために力強く答える。
「大丈夫だ、どれだけダメージを受けても俺が回復してやる」
「わ、分かったっ、それなら……」
セレンは少し顔を赤くして答えた。
が、それを見てエルナがこちらを睨む。
「ちょっとっ、それセクハラよ!?」
「いや、別にそういうつもりで言った訳じゃ……」
「ふふっ、アルスさんに回復していただけるなら大丈夫ね」
そう言ってセレンは俺にもたれかかってくる。
「ちょっとセレン、何してるんですか!?」
「別に~? ただ頼もしい方だなと思って安心しただけ」
「む~~~」
なぜかセレンを睨みつけるリネア。
何となく怪しい雰囲気になってきたので俺は慌てて話題を変える。
「こ、こほん、とにかく、ノーマ街に行って、ワイバーン討伐はするってことでいいな? それなら早速旅の準備をしよう!」
「そうね! ほら、だから離れてっ」
そう言ってエルナが強引に俺とセレンを引き離す。こうして俺たちは旅立ちの準備を始めたのだった。
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