第三章 聖女と因縁
改めて自己紹介
「こうして新しいパーティーを組むことになった訳だけど、改めてセレンの自己紹介をお願い。あ、私は……」
そう言って、まずエルナが軽く自己紹介する。
するとそれを聞いてセレンは少し驚いた。
「え、騎士の生まれだったの? 失礼だけどそうは思わなかった……」
「どうしてだ? エルナは傍から見ても品は良い方だと思うが。口は悪いが」
俺はエルナが騎士の生まれだと聞いても驚かなかったので、逆に疑問に思う。
「いえ、むしろ騎士の出身なのにあたしやリネアみたいな社会の底辺みたいな存在を全く見下さないなと思って」
「あぁ……」
それを聞いてエルナは少し苦い顔をする。
俺も納得がいった。俺の中では騎士と言えば御伽噺に出てくるような強さと高潔さを兼ね備えた存在だったので、エルナはそれに沿った人物だと思った。
しかしセレンにとっては庶民が貧困に苦しむ中、重税を集めて酒池肉林をしているというのが貴族のイメージだったのだろう。
それが伝わったのだろう、エルナはため息をついて答える。
「確かにそういう貴族は多いわ。うちもましだったとはいえ、最初に冒険者になったときはまさかこれほどとは思っていなかった訳だし。でも、私は仲間であれば性格と能力があっていれば他のことなんてどうでもいい」
エルナはきっぱりと言い切る。
それを聞いてセレンは感心した。
「さすが”夜明けの風“のリーダーをやっているエルナ。リネアがいるパーティーがどんなだろうと思って評判を聞いたけど、あまり悪い評判は効かなくて驚いた。実力あるパーティーは大体何かしらやらかしていることがあるというのに」
「まあそういうところを真面目にやっているからこそ、メンバーが集まらなくて困っていた訳だけど」
セレンに褒められたのが意外だったのか、エルナは照れたように言う。
確かに俺が会ったときは脱退騒動が起こっていたが、それがなかったとしてもメンバーは三人しかいなかったことになる。
それはきっとエルナのメンバーへの理想が高かったからなのだろう。
エルナの話が終わり、次はセレンの紹介へと移る。
「あたしはセレン。貧しい家に生まれたから一発逆転のためにお金を集めて冒険者になろうと思った。それでリネアと出会ったんだけど、村に魔物が出たって聞いていても立ってもいられなくて戻っている間にリネアと離れ離れになってしまった。
そこに出てきたのがあいつらだった。冒険者になったらたくさん稼げるから借金して職業を買うのはいいことだって言われて。でも契約書の隅には、最初は安かった利子がどんどん上がっていくっていうことが書いてあったみたいで、気が付くとあんなことになっていたの」
「……」
改めてセレンの重い過去を聞いて俺たちの間に重い空気が立ち込める。
が、セレンはそれを察し、パンパンと手を叩いた。
「はい、この話はこれで終わり。みんなのおかげでこの話はもう解決したんだから。じゃあ次はアルスの好きな女性のタイプを聞こうかな」
「何でだよ。話題の転換が急すぎるだろ!」
暗い話題を変えるための気遣いだというのは分かるが、他にもっと話すことはないのだろうか。
「そ、それは確かに聞きたいかも」
「そうですね、せっかくセレンも入ってくれた訳だし聞いてあげては?」
「何で二人までそんなことを言うんだ?」
なぜかエルナとリネアまでセレンの言うことに同意している。
とはいえ、いきなり好きな女性のタイプとか聞かれても特にない。これまで自分が一人前の冒険者になれていないという自責の念が強すぎて、他人のことを考える余裕なんてなかった。というか今だって俺の力には変な副作用があり、とても一人前とは言えない。
「いや、俺なんてまともな魔法も使えないし、誰かと結ばれるなんて考えられないな」
「そんなことはないと思うけど……」
「そ、そうですよ! あれだって慣れればまあ、我慢できないでもないですし……」
エルナとリネアは遠慮がちにフォローしてくれる。
が、セレンだけは違い、真剣に否定する。
「そんなことは関係ない! 別にまともな魔法が使えるとか、まともな大人だから誰かを好きになるとか、そういうことじゃないでしょ? そんなこと言ったらあたしなんてついこの前まであんなことになっていた訳だし……」
そう言ってセレンは俺の手を掴む。
「だからそういうことで他人への興味を閉ざすのは良くないと思うけど」
「とはいえ、別に意図的に自分の気持ちを殺しているという訳ではないしな」
「ま、それはそうだけど人の好意にもう少し慣れた方がいいと思うな。と言う訳で今日はアルスのためにサンドウィッチを作ってきたから、お昼は楽しみにしててね」
「あ、ありがとう」
というか、俺たちは結構急いで出発したのによくそんな余裕があったな。
確かに材料さえ用意すれば一瞬で作れるかもしれないが。
が、そんな俺とセレンをエルナとリネアはなぜか微妙な目で見ている。
「こほん、分かっているとは思うけど、このパーティーは恋愛禁止だからね?」
「いや、それは分かってる」
「セレン、私たちはピクニックに行くわけではないのでそんなに浮かれないでください」
「だって、新しいパーティーに入ったら打ち解けておかないと仕事にも支障が出るかもしれないじゃん?」
「……」
セレンに反論されてリネアは言葉に詰まる。
「まあ、この二人も同じパーティーにいるってことは少なからず好意を抱いているってことだし、そこは受け入れた方がいいと思うけど」
「そうなのか?」
もちろんある程度の信頼関係は築けているとは思うのだが、そう言われると実感がわかない。セレンは第三者だからそう見えるのだろうか、と思って俺は二人に尋ねる。
が、二人ともなぜか俺から少し目をそらす。
「ま、まあそうかもしれないわね」
「そうですね、少なからずの定義によりますが」
何と言うか、すごく煮え切らない答えだ。
それを聞いてセレンはこめかみを押さえる。
「あたしばっかりぐいぐい行くのも悪いかと思ってアシストしてあげたのに、だめだこりゃ」
こうして時々俺にはよく分からない会話がかわされながら俺たちは打ち解けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。