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「ちょっと、私たちに隠れてセレンに一体何をしているんですか?」

「いや、何をって、普通に話していただけで……」


 そう言いかけて俺は気づく。

 ちょうどセレンが俺に迫っていたところを見られたので、傍から見れば俺たちは抱き合っているように見えなくもない。


「そ、そうよ、出会ったばかりでそんな関係になるなんて……早すぎるわ! そういうのはもっとお互い愛をはぐくんでから……」

「いや、だから誤解だって」


 エルナの方は育ちがいいせいか、一般の人よりもそういうところはお堅いようだ……などと思っていたが、そんなことはどうでもいい。

 一方のセレンは一瞬俺と二人を見比べ、何か事情を察したように口を開いた。


「でも二人はアルスのパーティーメンバーというだけで、恋人という訳ではないんだよね?」

「そ、それは……」


 二人は顔を見合わせる。

 そんな二人の及び腰な反応を見てセレンは平然と言い放つ。


「それならあたしたちがどういう関係になっても何にも問題ないよね?」

「そんな……」


 それを聞いてリネアは絶句する。


「待て! さっきから好き勝手いるが、俺はただセレンにお礼を言われていただけだ!」

「ちぇっ、せっかく勢いで押し切れると思ったのに」


 セレンは小さな声で言うが、エルナとリネアの二人はなぜかほっとしている。まあ確かに知り合い同士が急に付き合い始めたら気まずくなるというのは分かるが。


「ちょっとセレン、そういう冗談はやめてよ!」

「ええ? あたしは別に冗談のつもりではなかったけど……何にせよ、今回の件では彼にはお世話になったから、恩返しはさせてもらおうっていう話」


 そこでふとリネアは思い出したように言う。


「そうです、衝撃的な光景が広がっていて忘れていましたが、恩返しということは作戦はうまくいったということですね!?」

「そうらしい。どうやらあの二人はゴードンの手下にやられて逃げていったようだ」

「良かった……これでようやく解放されたんですね」


 リネアが感極まって言う。

 セレンの方も申し訳なさそうにリネアを見つめ返し、一転してしんみりした空気が流れる。

 変な方向に転がりかけた話が元に戻って俺はほっとした。


「うん、あたしこそ迷惑かけてごめん」

「いや、私こそあのときちゃんとセレンに話してさえいれば」

「でも、これからどうしよう」


 リネアは俺とエルナを交互に見る。

 というのも、セレンとリネアはお互い盗賊の職業を持っているため、役割が被っている。別に被っていてはいけないということもないが、リネアとしては自分のコネで無理矢理パーティーにセレンをねじ込むような形になることを恐れているのだろう。


「こほん、そう言えばセレンさんはアルスに恩返しをすると言っていたつもりだけど、具体的にはどうするつもりなの?」


 エルナが尋ねる。


「うーん、特に考えてはなかったけど、朝夕の食事を作るとか? もちろん、求められれば夜の恩返しも……」

「それはだめ!」


 不意にエルナが叫ぶ。

 まあ確かに俺もそんなことをしてもらうつもりはないが、なぜエルナがそこまで反対するんだろうか?


「え、なぜ? もしかして……」


 それを見てセレンは何かを察したような表情をするが、俺の方を見て再び口をつぐむ。思わせぶりな態度だが、一体何があるんだろうが。


「ほ、ほら、確かに恩返しをするのは大事だけど、そういう理由でそういうことをするのは違うというか……」


 エルナは顔を赤くして反論するが、言葉にいつものような強さがない。

 が、そこでふと何かを思いついたように言う。


「そういうことならうちのパーティーに入って、メンバーとして貢献することで恩返しをすればいいわ!」

「え、いいの? あたしはあんなことをしたのに? しかもまだEランクなのに……」


 さすがに予想外だったのか、今度はセレンが驚く。

 いくらリネアと幼馴染とはいえ、職業が被っていて、しかも少し前まではギスギスしていた相手をこんなに簡単にパーティーに入れるとは。


「あんただってある程度実力はあるでしょ? あと、うちのパーティーはメンバー同士の恋愛は禁止だから」

「何だそのルール、初めて聞いたんだが」

「そ、それは今まで該当者がいなかったから言わなかっただけよ!」


 エルナはなぜか慌てたように言う。確かに恋愛が禁止で人間関係のトラブルが起こることはあるだろうが、まさかそんなルールがあったとは。


「なるほど、そういうこと? なかなかの策士じゃない」


 一方のセレンはなぜか納得したような顔をしている。

 何がどう策士なのだろうか。


「でも、せっかく入れてもらえるならありがたく承諾するけど」

「じゃあそれで決まりね」


 エルナはほっとしたように言う。


「あの、どういう話のなりゆきなんだ?」

「別に、ただ彼女は冒険者としてそこそこの腕があって、リネアの幼馴染ならある程度の信用もおけるというだけよ」


 エルナはなぜかいつもよりたどたどしい口調で言う。

 俺は目の前で訳知り顔をしているセレンに尋ねる。


「なあ、どういうことなんだ?」

「分からないなら分からなくていいよ。それに、一緒にいる時間が増えるならそれはそれで好都合だし。……これからもよろしくね?」

「ああ」


 何か少しだけ釈然としないことはあったが、こうして俺たちのパーティーに新たなメンバーが増えたのだった。

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