セレンの変化
その後俺たちは「お別れ会」をしたが、俺の立てた作戦がうまくいっているのか、今後俺たちはどうなるのかもよく分からない。しかもセレンにはそのことを伝えていないのでその話をする訳にもいかず、会は微妙な雰囲気だった。
ただ、お開きになった後にリネアがセレンに、「二人で呑もう」と言ってくれたおかげでセレンをあの二人から引き離すという目的実態は達成した。
俺とエルナは特に出来ることもないのでそのまま宿に戻る。
翌朝、俺はどきどきしながらギルドに向かった。
ゴードンのことだから昨晩中に何かを仕掛けたはずで、エルナの元には何もなかった。ということはうまくいっていると思いたいが……
今日は早く目が覚めてしまったせいか、ギルドについてもまだエルナとリネアは来ていない。リネアは遅くまでセレンと話していたから寝ているのかもしれない。早く結果が分かるといいのだが……。
そんなことを考えていると、セレンが慌てた様子で駆け込んでくる。
そしてギルド内をきょろきょろと見回して困惑の表情を浮かべる。
「何かあったか?」
「そ、それがあの二人がいないの!」
セレンは驚愕と困惑が入り混ざった表情で言う。
これまでずっと行動を共にしていた二人がいなくなればそれは驚くだろう。しかし、いなくなったということはもしかして俺の作戦はうまくいったのだろうか?
するとセレンは俺に疑いの目を向ける。
「もしかして、あんた何かした?」
「バレずにそんなことが出来るならやってやりたかったが、あいにく俺は支援魔法しか使えない」
「そう言えばそうだったわね……でもいきなり姿を消してギルドにもいないなんて考えられないわ。これまではむしろあたしが逃げないか監視されていたぐらいだったのに……」
もし俺の作戦がうまくいったなら、ゴードンの手下のチンピラたちとあいつらが戦いになっているはずだ。
そう思った俺は手が空いていそうなギルドの職員に尋ねてみる。
「なあ、昨夜から今朝にかけてこの街で何か事件が起こったという話はないか?」
「それが、隣町のチンピラがやってきて冒険者を襲ったらしいんだ。しかも襲われた方はなぜかそのまま去っていったらしくて……チンピラたちは捕まったらしいが、なぜ襲ったのかは口を割らないらしいし、何だったんだろうな」
「それって、もしかして……」
その話を聞いたセレンが割り込んできて、おそらく二人のものであろうと思われる名前を出す。
「ああ、その二人だ。そう言えばお前さんはあの二人の仲間だったな。何か聞いていないか?」
「いえ、聞いてないけど……まさか、そんなことが……」
セレンは信じられないでいるようだった。
だが、話を聞く限りどうやら作戦はうまくいったようだ。ゴードンは手下たちを差し向けてあの二人を追い出し、俺があのパーティーに入れないようにしたのだろう。
そこで俺は真実を話すことにする。
「俺が手を出してないのは本当だが、おそらくそれは俺のせいだ」
「え、どういうこと?」
「ちょっと来てほしい」
俺は街はずれの人気のないところで歩いていくと、周囲に人がいないことを確認して事情を話す。
話が進んでいくにつれてセレンの表情はどんどん驚愕に満ちていったが、話が終わると目に涙がにじむ。
「もしかしてそれを全部あたしのために……?」
「それもあるが、リネアを引き抜かれるのも困るし、俺もゴードンにはうんざりしていたからだ」
「ありがとう……」
が、セレンは俺の言葉が耳に届いていなかったらしかった。
よほど辛かったのだろう、解放されたことを知って泣きそうになっている。
「あたしはあなたたちの仲間を奪い取ろうとしたのに、あたしを助けてくれるなんて」
「まあ、そこまで言ってもらえれば俺もうれし……」
「大好き!」
「え?」
突然の告白に俺は思わず訊き返してしまう。
が、セレンの表情はいたって真剣だった。
「あたし、リネアがいなくなってずっと不安だった! それで早く追いつこうと思って、あの二人に騙されて! それでどんどん泥沼にはまって、それでやっと会えたリネアとも一緒になりたかったけど、あんな方法しか出来なくて……。一緒になれるって思いつつも同じぐらい苦しかったの」
「そ、そうか」
確かにあのときのセレンはやたら目つきが悪く態度が険しかったが、それは自己嫌悪も入っていたのだろう。
「それがあなたのおかげで全部解決した。こんなすばらしい人にもっと早く出会っていれば人生で道を踏み外すこともなかった! それにあの魔法も……良かったし」
「え?」
「い、いや、今のは忘れて!」
何か不穏な言葉が聞こえたが、彼女はすぐに手を振って否定する。
が、俺に対する行為は一向に否定する様子がなかった。
「この恩はどうやったら返せるかな……」
「いや、別にそこまで気にしなくても……」
「だ、だったらあたしとかどうかな? 今回迷惑をかけちゃった分、埋め合わせと恩返しをさせて欲しい!」
彼女は真剣な目で言う。
とはいえ、出会ったばかりの相手にそう言われても急にして欲しいことなんか思いつかない。
「いや、急にそんなことを言われても……」
「全然遠慮しなくていいから!」
セレンはぐっと俺に身を近づける。これまではそういう風には見ていなかったが、近くで見ると意外とスタイルもいいし、目鼻立ちも整っている美人なのでドキドキしてしまう。
そう言えばリネアが昔のセレンはこんなじゃなかったなって言ってたが、こういう感じだったのか。
「ほら、冒険者だと忙しくてそういう相手との出会いもないんじゃない? あたしで良ければその、してあげても……」
そう言ってセレンは上着に手をかけると、ぽっと顔を赤くする。
「いや、だからそういうのは」
「別に恋人にしろなんて言わないから」
「そこはむしろ恋人にしてほしい、と言う方がまだ健全な気がするんだが」
「も、もちろん恋人にしてくれるなら嬉しいわ!」
「いや、今のはそういう意味ではなく……」
が、そのときだった。
「姿が見えないと思ったらこんなところで何をしているの!?」
「セレン!?」
後ろに現れたのはエルナとリネアだった。
二人とも俺たちの様子を見て呆然とする。
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