セレンとの会話
「え、本当に!?」
「そんなことがあったのですか」
俺がゴードンらとセレンのパーティーを対立させようとしていることを話すと、二人はさすがに驚いたようだった。
「勝手にしたのは悪かったが、尾行されていたから俺の独断でやった方がいいと思ったんだ」
もし相談していたらペイルにそのことを勘づかれてかもしれない。
エルナは驚きのあまり褒めていいやら怒っていいやらという感じで、言葉も出ないようだった。
「と言う訳でリネアにはセレンをあの二人から引き離して欲しいんだ。ゴードンのことだからきっと手下の手配は済んでいる。さすがにこの山でトラブルを起こすと男爵家の兵士に睨まれるから、恐らくこの仕事の後に襲わせる手はずだろう」
「でもそんなことをして大丈夫でしょうか? もし騙されたと聞けば彼は今度はアルスを襲うのでは?」
リネアが不安そうに言う。
「どうだろうな。彼らは今のところ俺を脅してパーティーに入れさせようとしている。だから俺に危害を加えることはないとは思う。それに、ゴードンの手下がセレンに金を貸している男たちを襲えば、さすがに捕まるはずだ。そしたらしばらくは俺たちを襲うのは難しいだろう」
基本的にゴードンは自分以外のパーティーメンバーがどうなろうと気にしない男だった。きっと襲撃させる手下たちもその後捕まろうと気にしないだろう。
しかしさすがに次の犠牲者を用意して俺たちを襲わせるまでには時間がかかるに違いない。
「分かったわ。もしそれでうまくいくならそれに越したことはないわ。失敗したらそのときはそのときで考えよう。ね?」
そう言ってエルナはリネアの方を見る。
恐らくエルナはエルナで、この件を利用してリネアがパーティーを抜けるという話を先延ばしにしようとしているのではないか。
「……分かりました。今夜だけでも誘ってみます」
リネアも不安そうに頷いてくれた。
その後も俺たちはアークイーグル狩りを続けた。俺たちは山頂付近で狩を行ったからか、他の冒険者たちと遭遇することもなく平和に狩りを終えた。
そして夕方になり、狩りの終わりを告げる角笛が鳴り響く。
それを聞いて冒険者たちは悲喜こもごもといった様子でそれぞれ山を下りていった。他の冒険者たちはこれで今日が終わったという雰囲気なのだが、俺たちにとってはむしろここからが本番だった。
「では、行ってきます」
「ああ」
リネアは緊張した面持ちでセレンの元へ歩いていく。
セレンたちも数羽のアークイーグルを狩ってきたようだが、他二人に比べてセレンだけが酷く疲れているように見える。色々とこき使われたのだろうか。
「あの、セレン」
「あたしと一緒に冒険してくれる決心がついた?」
「そ、そうなんだけど……今夜、私はあの二人とお別れ会をするんだけど、セレンもそこに来てくれない?」
リネアの言葉にセレンは目を丸くする。
「え……あたしはリネアを引き抜いているんだよ? あの二人、というかエルナさんからは私は恨まれてるでしょ」
「それはそうかもだけど……でも、パーティーを抜けるなら一度けじめはつけておきたい」
リネアはきっぱりと言った。
それを見てセレンも彼女の決意が固いことを察したらしい。
「分かった、それが終わったら来てくれるんだね?」
「うん」
「じゃあ出てあげる」
セレンもリネアを引き抜くことに罪悪感があるのだろう、頷く。
そしてセレンはちらっと後ろの二人の様子をうかがうが、二人ともリネアを連れてくるということに気をよくしたのか、特に反対はしなかった。
おそらく、今度はリネアからどう搾取するかということを考えているのだろう。
「じゃあ行こ?」
「え、今から?」
セレンは戸惑ったが、リネアはやや強引に彼女の手をとると、こちらに連れてくる。確かにセレンの身になってみれば、エルナに合わせる顔がないだろう。
リネアが戻ってくると、一瞬俺たちは微妙な空気になる。
セレンからすれば俺はパーティーを抜けようとしている節操無しの男だし、エルナはパーティーメンバーを引き抜こうとしている相手だ。
が、そこで俺はセレンの体中に小さな傷があるのに気づく。
「怪我してるのか?」
「大したことはないわ。あいつは攻撃魔法の方が得意だからあんまり回復しないのよ」
セレンは強がるように言う。
彼らはセレンを回復するよりもアークイーグルをたくさん狩ることに魔力を優先させたのだろう。
もちろん致命傷ではないのだが、小さな傷がたくさんあるのを見ると放っておくことは出来ない。それに大分疲労している雰囲気がある。
「そうか。それなら俺がヒールする」
「え、ちょっと、それは……」
エルナが止めようとするが、
「え? 一日中狩りをしていたのにまだ余分な魔力が残っているの?」
セレンは別の角度から驚く。
「ああ、二人ともそんなにダメージを受けることもなかったから俺の出る幕なんて大してなかったからな」
「ふーん。あたしはどっちでもいいけど、好きにすれば?」
セレンは俺を警戒の目で見る。ここで変に恩を売られて何か要求されないかが不安なのだろう。
エルナとリネアも最初は止めようとしていたが、セレンの全身に傷があるのを見て黙る。いくら副作用があるからといって、さすがに目の前で怪我しているのを止めようとは言えなかったのだろう。
「あと、俺の魔法はちょっと副作用があるらしいから気をつけてくれ」
「え、副作用って何、そんなの聞いてな……」
「ヒール」
「ひゃうんっ♡」
魔法がかかった瞬間、セレンはびくりと体を震わせてその場に座り込む。
「はあ、はあ、はあ……ちょっと、な、なにこれっ!? こ、こんなのだめぇ♡ はぁ、はぁ、はぁ……何なのこのヒール、怪我が治ってるだけなのにすごく気持ちいいんだけどぉ……」
セレンは荒い息で文句を言う。それを見てエルナとリネアは「やっぱり」と言わんばかりに頭を抱えていた。
すぐに全身の傷がなくなったので、俺はヒールを止める。
「ふぅ、ふぅ、ちょっとぉ……こんなの聞いてないわっ!? い、一体何なのこれっ!?」
セレンは息も絶え絶えになっているが、俺に詰め寄ってくる。
「いや、正直俺もよく分からないんだが、回復量が多い代わりにこういう感じになるらしいんだ」
「そ、そうなんだ……ってそんなもの聞いたことないわ!」
「だよな。俺もよく分からない」
「まあ、それならうちに来てくれるのも悪くはないけど、ううん、何でもない」
慌てて彼女はエルナの方を見て口をつぐむ。
俺もセレンのパーティーを移籍するという話をエルナの前で言うのはまずいと思ったらしい。
「全く、こんな変態的な魔法を使うなんて、一体どうしたらこうなるのかしら」
まあ、エルナは呆れるあまりそんなセレンの発言も聞いてないようだったが。
「じ、じゃあお別れ会だっけ? さっさと行きましょう?」
「お、おう」
急に乗り気になったセレンを見て、俺は戸惑いながらも頷く。
その後ろでエルナとリネアも何とも言えない表情で顔を見合わせるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。