毒を以て毒を制すⅡ

 その後俺はガルドにアークイーグルを届けると手柄を記帳してもらう。報酬は後日ギルドから払われるが、俺たちが狩った数だと結構な数になるだろう。


 それから俺は出来るだけ弾んだ足取りを意識しながらゴードンを探す。

 ちょうどお昼時ということもあって、ゴードンら三人は山麓で弁当を広げているところだった。


 そこに俺は歩いていく。

 ゴードンは俺の姿を見て驚いたようだった。まさか俺がこんなに早く戻ってくるとは思わなかったのだろう。


「ゴードン、夕方まで時間をもらったが俺の意志はもう決まったぞ」

「そうか、やはりお前は賢明な判断が出来るようだな」


 どうやらゴードンは俺が脅しに屈すると思っているらしい。

 そこで俺は本音をぶちまけてやることにする。


「そうだな。残念だが俺はやっぱりお前たちに散々侮辱されて追い出されたことは許せない! その後魔法の力に目覚めたのは俺の力だ! そんな俺の底力を見抜けずに追い出しておいて、こんな汚い脅しで戻ってこさせようなんて汚いんじゃないか?」

「な、何だと!?」


 激昂したゴードンが俺に腕を伸ばし、それを慌ててシェリフが止める。


「ゴードン、ここで暴力はまずい!」

「だ、だが言わせておけば言いたい放題言いやがって……」


 ゴードンを挑発するための台詞ではあるが、ほとんどが俺の本心でもあったので、言いたいことを言えてすっとする。

 普通はこんなことを言おうものならぼこぼこにされるだろうが、今は男爵家の兵士が周囲にいるので大丈夫だ。


「何が言いたい放題だ! お前たちの方がよっぽど俺に色々言ってくれたじゃねえか! 大体パーティーメンバーに迷惑をかけるって何だ。そんな脅しにいちいち屈していたら冒険者なんてやってられないんだよ!」

「おのれ、貴様……」


 ゴードンの顔が真っ赤になっていく。

 それを見てペイルがささやく。


「ゴードンさん、これは例の件ですよ。きっとパーティーを移るから調子に乗っているに違いありません」


 それを聞いてゴードンは気を取り直す。


「おいアルス、お前まさか今のパーティーから逃げ出そうとしてるんじゃないだろうな?」

「な、なぜそれを」


 俺は出来るだけ動揺した風を装って言う。

 見破られていないといいのだが。

 が、幸いゴードンはそれを図星だと解釈してくれたのだろう、クククッと笑う。


「やっぱりか。自分がやめるから今の仲間はどうなってもいいってか? 威勢のいいことを言っておいて結局お前が一番クズじゃねえか」

「な、何の話だ!」

「とぼけるな! お前はちょうどパーティーをやめるあてがあった。だから元の仲間がどうなろうと構わないってことだろ? 本当に最低だな」

「や、やめる訳ないだろ?」


 俺は出来るだけ動揺している雰囲気で言い返す。


「最後にもう一度だけ言うが、俺たちの元に戻ってこい。今ならさっきの罵詈雑言も全部許してやる」


 そう言ってゴードンは俺を睨みつける。

 ちなみにこういうときのゴードンが許すと言ったことを本当に許したことはまずない。

 俺や、時々ペイルもしばしばゴードンの”懲罰”を受けてきた。

 ギルドはパーティー間の抗争には厳しいが、パーティー内の問題はよほどのことがない限り介入してくれない。


「そ、そんなこと信用出来るか!」

「そうか。ならばその浅はかさを悔やむといい」


 そう言ってゴードンはにやりと笑う。


「ふん、誰がお前たち何かに。大体、先生たちがお前ら何かに負ける訳ないだろ!」


 あの二人の名前を知らなかったので、俺は適当に強そうに聞こえる「先生」と呼んでおく。


「やっぱり移るんじゃねえか」


 ゴードンが小馬鹿にしたように言う。

 俺はさっさとゴードンの前から立ち去った。


 彼らの姿が見えなくなり、ペイルの尾行もないことを確認すると俺はほっと息をつく。


「大丈夫だったか? これでうまく奴らのヘイトがあの男たちにそれるといいんだが……」


 俺が今のパーティーに未練を持っていないようには見せかけたので、ゴードンのヘイトがエルナに向かうことはないだろう。

 そしてゴードンは俺たちが逃げたり防衛策を講じたりする前に動くから、あの男たちはすぐに襲われるはずだ。問題はセレンやリネアが巻き込まれると厄介なことだが……。




 そんなことを考えつつ、俺は山の中腹に戻る。

 エルナとリネアはすでにそこでお昼の準備をしていた。


「遅かったじゃない。何かあったの?」

「いや、思いのほか列が混んでいてな」


 黙っているのは少し心苦しいが、俺はこれ以上エルナに心配をかけたくないと思ってとっさに嘘をついてしまう。

 リネアは沈んだ様子で弁当を広げていた。


「なあリネア」

「……何でしょう」

「今日の帰り、セレンを連れ出して送別会みたいなことを行うことは出来ないか?」

「え?」


 突然の俺の提案にセレンは困惑する。


「ちょっと、リネアが出ていくのを諦めて見送るって訳!?」


 が、エルナは激怒した。

 エルナからすればリネアがあっちのパーティーに行くことが許せないのだろう。どうしようもないと分かっていても、送別会を開いて送り出そうという俺の諦めのいい提案は受け入れられないに違いない。

 そんなエルナの言葉を聞いてリネアはますます落ち込む。

 リネアとしても簡単に「セレンのところには行かない」とは言えないのだろう。


 空気は最悪になってしまったが、出来れば今夜だけでもセレンをあの二人から引き離したい。やっぱり仲間である以上ちゃんと打ち明けた方がいいか。


「リネア、周りに人がいないか分かるか?」


 ペイルの尾行はないことを確認したが、一応念には念を入れてリネアにも確認してもらう。


「はい、いないですが……」

「悪かったエルナ、全部話すから許してくれ」

「え?」


 そして俺は戸惑う二人に先ほどまでにあったことを語るのだった。

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