第二章 リネアとセレン

アークイーグル

「さて、気を取り直して次の依頼なんだけど、これはどうかしら?」


 そう言ってエルナが俺たちに見せたのは「大規模アークイーグル討伐」というものだった。依頼主は近隣の領主であるシュルツ男爵という人物で、矢羽に使う羽が大量に欲しいとのこと。そこで男爵はたくさんの冒険者を集め、アークイーグルが多数いるというゴバド山という山に向かって大規模討伐作戦にあたってほしいとのことらしい。


 アークイーグルはそれなりの強さの魔物で、領主依頼ということで報酬も悪くはないが、他の冒険者との共同作戦というのが少し気になる。

 冒険者の中には癖がある者が多いというだけでなく、俺の魔法をあまり他人に見せたくないという問題もあった。


「悪くはないが、他の冒険者も絡むのか」

「それは思ったけど、あんまり報酬が高い依頼はないみたい。というのも、最近は一般の兵士が強くなったおかげで魔物は随分数が減ったみたいだから」


 普通の弓と違い、誰が使っても一定の強さで矢が射出されるクロスボウが一般兵に普及したことで、部隊を差し向けて遠くから魔物に矢の雨を降らせることで大体の魔物には対処することが出来るようになっていた。

 そのため、冒険者が行う任務は純粋な魔物狩りが減り、貴重な薬草や鉱石の採集といったものが中心となりつつある。


「なるほど。将来的には拠点を変えることも視野に入れた方がいいかもしれませんね」


 リネアがぽつりとつぶやく。

 確かに、俺たちがもっと強くなれば実力にあった仕事はどんどん減っていくだろう。しかし魔物が多く残っている地域に行けば、まだまだ報酬が高い仕事は残っているだろう。


「共同作戦とはいっても、山の中に冒険者が五十人程度入ったらほとんど単独行動になると思うわ」


 それに依頼を読む限り集められた冒険者たちはただ山に入るだけで、その後の行動は自由、報酬もそれぞれが手に入れた羽に見合った分になるとのことだ。


「とりあえず今回はそれを受けるか。……そう言えば、二人は空飛ぶ相手とは戦えるのか?」

「私は一応投げナイフを使うことも出来ます」

「私は……不安だけど、一応幼いころに弓を習ったことがあるわ」


 さすが騎士の生まれだけあって色々なことを習っているらしい。


「そう言えばアルスさんはDランクになったとのことですが、とるスキルは決めたんですか?」

「まだ決めてなかったが、『強化魔法』にしようと思う」


 この前のレベリングでランクがFからDに上がり、二つのスキルを覚えるようになったが、一つはすでに「解呪魔法」に決めていた。

 一般的な支援魔術師は「回復魔法」を重ねて強化するか、パーティーに合わせて「強化」か「防御」の魔法をとる。しかし俺の魔力が異常すぎるせいで回復を強化する必要はないし、防御も恐らくいらない。

 強化魔法であれば相手が弱すぎる時以外は役に立つはずだ。


「飛び道具はどうしても威力が落ちますが、アルスさんの魔法があれば問題ないですね」

「そ、そうね……」


 強化魔法は回復と違って、ダメージを受けなくても使用機会がある。それを想像したのか、エルナは少し不安そうだった。


「とりあえず依頼は問題なさそうなら手続きをしてくるわ」


 そう言ってエルナは受付を済ませてくる。


「出発は明後日みたいだからかまだ時間はあるわね。私は一応弓の練習をしておこうと思うけど」

「でしたら私も投げナイフの練習をしないといけませんね。それからアルスさんもその……」

「何だ?」

「き、強化魔法の練習をしておいた方がいいのでは?」


 リネアがこちらを見てためらいがちに言う。


「いや、魔法の練習は別にいらないんだが」


 これだけ言うと慢心のように聞こえるが、基本的に味方にかける魔法は失敗することはない。もちろんそもそも呪文を覚えてないとか発動すら出来ない、という場合もあるがそれは個人で練習することだ。

 「ファイアボルト」のような攻撃魔法は命中精度が要求されるが。


「では私が強化魔法がかかった状態でナイフを投げる練習に付き合ってください」

「あ、ああ」


 彼女の言葉を聞いて俺はようやく言いたいことが分かった。確かに魔法がかかった状態であれば普通のときとは感覚も変わるだろう。特に俺の魔法はあんな副作用があるのだから。

 それに気づいてエルナはため息をついたが特に何も言わない。


「じゃあそういうことで、明後日までに備えを万全にしておくということで」


 こうして俺たちはエルナと別れて、街外れの見晴らしのいい原っぱに向かう。

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