パーティー加入

 ヒールによる疲労回復の力は凄まじく、二人はすぐに残ったウルフを蹴散らしてしまう。戦えば戦うほど向こうは疲労するのに、こちらは戦闘中に二回も完全回復したのだから一方的な結果になるのも当然だろう。


「よし、これで終わりよっ!」


 そう言ってエルナが剣を振り降ろすと、最後のウルフが倒れる。

 俺は勝利を喜ぶとともに、いよいよ自分が問い詰められる番だ、と溜め息をつく。


 案の定、戦いが終わるとエルナとリネアは逃がさないとばかりに俺の前にやってくる。


「さて、これで戦いも終わったことだし、聞かせてもらうわ」


 そう言ってエルナがギロリと俺を睨みつける。

 俺も心底申し訳ない気持ちで答えた。


「いや、悪いけど俺も全然分からないんだ……」

「分からない訳ないでしょっ!? あんたの魔法がかかった瞬間、その、何と言うか……」


 そう言ってエルナが一瞬口ごもる。


「体がおかしくなったのっ!」

「どうおかしくなったんだ?」


 俺は純粋に自分が何をしてしまったのかを知りたかったのだが、言い終えた瞬間エルナの眉がつり上がる。


「はあ? そ、それを私の口から言わせるなんて変態! 許さない!」

「まあまあ、いったん落ち着きましょう」


 そう言ってエルナが拳を振り上げるが、リネアが懸命に制止する。


「私たちが疑っているのはあなたが回復魔法と一緒に……その、エッチな魔法をかけたのではないかと疑っているんです……」


 後半、リネアの声が少し小さくなる。

 確かに二人はそういう反応だったが、やはりそういう気分になっていたということか。


「ということは俺の魔法がかかった瞬間、エッチな気持ちになったということか?」

「死ね!」

「ぐはっ!」


 今度はリネアに制止されることなく、エルナの拳が俺の腹に命中して俺は地面にたたきつけられる。


「いてて……」

「せっかくかばってあげようと思ったのにセクハラ発言するなんて最低です」

「ふん、自分で自分を回復すればいいじゃない!」


 おかしい、しゃべればしゃべるほど俺の評価が下がっていく。いったんは止めに入ってくれたリネアすらゴミを見るような目で見下ろしてきていた。


 とはいえ二人に対して魔法がかけられるようになったということは、俺の何かが覚醒したということだろうか。

 そう思って俺は自分に魔法をかけてみる。


「ヒール」


 が、先ほどまでの超回復はどこへやら、前のパーティーに居た時と全く同じように魔法は不発に終わった。

 それを見てエルナの表情は怒りから疑問に変わる。


「どうしたの? もしかして魔力切れ? まだ全然いけそうだったけど」

「いや、そんなことはないはずだが……」


 先ほどまではあんなに無尽蔵の魔力があるような気がしたのになぜだろうか、と考えてふと気づく。


 そう言えば自分も含めて、前のパーティーのメンバーは全員男だった。

 回復魔法が効いたエルナもリネアも女だ。


 もしかして俺の魔法は女性にかける時にだけ覚醒状態になるのだろうか?

 そんな可能性に気づいて愕然とする。そんな例は聞いたことがないし、しかもついでにいやらしい気持ちにさせるなんて、それではまるで俺の魔法が変態みたいじゃないか。

 が、エルナは容赦なく俺に詰め寄る。


「どうしたの? 何か気づいたことがあるなら言いなさいよ」

「いや、これはあくまでこれまでの事実なんだが……これまで俺は男に回復魔法をかけても全然効果がなくて、それで前のパーティーも追い出されたんだ。それでこっちに入って、初めて魔法がちゃんと発動した」

「はあ? 魔法が性別で効いたり効かなかったりするなんてことがあるって言うの!?」

「でも実際そうなっていますし、それに彼は嘘をついている様子はありません」


 先ほどからじっと俺のことを観察していたリネアが言う。

 盗賊は感覚が鋭敏なことが多いので、他人の心情にも敏感なのかもしれない。


「何ならもう一回試してみるか?」

「そ、それはだめよっ! そんなのセクハラだわ!」


 俺の提案は即座に却下される。そんなに俺の魔法はやばいのだろうか。

 男には全く効果がない以上出来れば女性が多いパーティーに入りたいが、ここまで嫌われてしまってはどうしようもない。今後事情を話して理解してくれる女性パーティーに入れてもらうしかないのだろうか。


 もしくはこの二人がたまたま体質的な何かで魔法に対する感覚が鋭いだけかもしれない。だとすれば魔法をかけても大丈夫な女性パーティーが見つかるかもしれない。


「そうか。一回だけでも俺をパーティーに入れてくれてありがとう。元々臨時という話だったし、このウルフの毛皮だけ届けたら去るよ。ただ、報酬の三分の一だけはくれないか?」

「え!?」


 俺が落ち込みながら言うと、なぜかエルナは驚いた声をあげる。

 リネアはそんなエルナをジト目で見る。


「いいんですか?」

「だ、だって回復されるたびにこんなの……戦えないわ!」


 エルナは抗議するように言う。


「そうだよな、俺がちゃんと自分の力を把握していなかったのが悪い、済まなかった」

「ちょ、ちょっと、何でそんなに諦めがいいのよ!」

「え?」


 先ほどまでとは逆方向の怒られ方をして俺は困惑する。


「そこはもう少し食い下がるところでしょう!?」

「だ、だって俺には分からないけど、俺の魔法は不愉快なんだろ?」

「そ、それは違う! ……あっ」


 エルナは叫んでからあわてて口を抑える。


「ち、違くはないんだけど! 不愉快であるのは確かなんだけど!」

「だったら……」

「でも回復魔法が使える人なんてそんなにいないし、あんたも追い出されたばっかで大変でしょ? だから次の人が見つかるまでは私たち”夜明けの風”にいさせてあげなくもないというか……」


 さっきまであれだけ怒られていたような気がしたのに、よく分からないが俺はもうしばらくいさせてもらえるらしい。


 今度は俺はリネアの方を見る。


「こほん、確かにあんなに恐ろしい魔法が他のパーティーの女性にかかるかもしれないと思うと大変ですからね。猛獣を檻に入れると思って許可します」

「いや、猛獣って……。大体そんなに恐ろしい魔法だっていうのに、リネアにはかけていいのか?」

「……あくまで回復効果がすごいからというだけですっ」


 そう言ってリネアはぷいっと顔を背ける。が、その顔はかすかに赤くなっていた。

 こうして俺はもう少しだけこのパーティーにいることが出来ることになったようだった。

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