落×雷⑤




ベッドに座る彼女視点



「えっと、じゃあ・・・」


蓮が口を開こうとしたところで止めに入った。


「ウチ、少しお腹空いちゃった」

「あ、そうか? まぁ、目覚めてばかりだもんな」

「うん。 病院の食事の時間まではまだあるし、売店で何か軽いものでも買ってきてくれないかな?」

「何か?」


普通に尋ねてきた蓮に少し動揺してしまう。 この言い方は間違っていたのだ。


「め、命令だ! ウチに何かを買ってくるがよいッ!!」


そう言うと蓮はフッと笑った。


「何だよその言い方。 まぁ、いいけどさ。 何でもいいんだな?」

「うん。 デザート系がいい!」

「了解。 心泉さんも一緒に来る?」


その心泉の返事が気になり心泉を見た。 


「うん、私も行く。 涼風ちゃんまた後でね」


考える間もなく心泉はそう返した。


「行ってらっしゃい」


二人に手を振って笑顔で見送った。


「ッ・・・」


蓮が病室の扉を閉めた瞬間涼風の目から涙が零れた。 いや元々二人は入れ替わってなんかいない。 涼風と入れ替わった演技をして、病室に残された心泉は泣いていた。


―――・・・私と涼風ちゃんは昔から知り合っていたんだよ。


心泉は涼風と昔交流があり、特に心泉から涼風に対する恩を感じている関係だった。


―――私は小さい頃、些細なことでいじめられていた。

―――そして偶然通りかかった勝気で強気だった涼風ちゃんに守られたことがある。

―――・・・そんな大切な関係であるということを蓮くんは知らない。


そして数日前に久しぶりに連絡があったのだ。 学校は違ったが住んでいる地域は近く、恩人だということもあり快く再会した。


―――そんな彼女だったのに、関係としては疎遠でずっと気にかかっていた。

―――助けてくれたお礼にと思って一緒にスイーツを食べにいったくらいしかなかったかな。

―――そして数日前の久しぶりの連絡、突然『入れ替わったことにしてほしい』って言われた時は驚いた。


落雷に打たれたあの日、涼風からどうしてもということで恋愛相談を受けた。 女子の中で言うならよくあるような悩み。 ただよくあるような悩みだからこそ共感できたし、協力してもいいと思った。

しかしそれはその恋愛相談の相手のことを聞くまでは。


―――相手が蓮くんだとは思わなかったな。

―――仲よくしていた訳じゃなかったけど、幼馴染の女の子がいる話は聞いたことがなかったし。

―――そして当然その幼馴染と上手くいっていないだなんて、知るはずもなかった。

―――涼風ちゃんは好きの感情の裏返しからそんな言動を取っていたんだよね。

―――確かに幼馴染だったら成長した今、素直になるのは難しい気がする。


それは今更どうにもならなく、蓮といい関係を作り直すには人生をやり直すしかないと思ったらしい。


―――流石に極端な話だと思ったけど、あの時の真剣な顔が蓮くんへの想いの強さだと理解できた。

―――どこで知ったのかは分からないけど、蓮くんからアプローチを受けている私と入れ替わりたいと相談を受けた。

―――本当はそんなお願いを聞けるはずがなかった。

―――だけど昔の恩人である涼風ちゃんの頼みは断れなかった。


心泉は涙を拭くため掛布団を目に擦り付けてみるが、後から後から溢れる涙を誤魔化すことができない。


―――正直に言うなら入れ替わっただなんて非現実的な話、上手くいくわけがないと思っていた。

―――落雷に打たれて入院することになって、入れ替わりを実行するわけがないと思っていた。

―――私って、嫌な女なのかな。

―――結局涼風ちゃんは振られることになるんじゃないかと思っていたんだもん。

―――まさか蓮くんがあんな簡単に信じちゃうなんて・・・。

―――やっぱり雷に打たれたこと自体が非現実的だし、それで信じてしまったのかな?


思い出すのは蓮の言葉。 たとえ外見が入れ替わったとしても心泉の中身が好きだという言葉。


―――あれは凄く嬉しかった。

―――だけど、蓮くん・・・。

―――実際に私たちは入れ替わっていないんだよ?

―――蓮くんが好きって言っているのは、私のことを演じている涼風ちゃんのことなんだよ?



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