落×雷③
現在蓮は涼風の見た目をした心泉と付き合っている。 告白が成功し、深い関係にはなっていないがちゃんと高校生らしい付き合いはできている。
ただやはりあの時は勢いで告白したが、涼風の顔を見ていると何だかおかしな気分になってしまった。
「流石に心泉さんもこのまま続けていくのは無理だって分かっているよな?」
「・・・そうだね」
ただ今言ったのは自分の感情が理由ではなく、現実的な話だ。
「これから違う人生を違う自分として偽って生きていくことになる。 そんなことは無理に決まっている。 そしてそれは後になればなる程、大きなしこりを作ってしまう」
「・・・うん」
彼女は小さく頷いた。
「だから一緒に元に戻る方法を探さないか? それでも元に戻れないなら、みんなに真実を伝えた方がいいと思う」
「・・・」
そもそもまだ涼風が目覚めていないのだ。 この状態で入れ替わった人生を送る決断はできるはずがない。 だが心泉は複雑そうに顔をそらしていた。
―――何か躊躇うことでもあるのか?
―――当たり前のことを言っただけなんだけどな・・・。
「大丈夫、俺も協力するから。 絶対に心泉さんを一人にはしない」
そう言うとあまり納得はいっていなさそうだが小さく頷いてくれた。
「・・・そうだね。 ありがとう、私たちのために」
「これは事故だからな。 望んで起きたことじゃないし」
「だからこそ元に戻ることなんてできないと思ったんだ。 もう一度雷に打たれるわけにもいかないから」
「まぁ、そりゃあな・・・」
心泉の言うことはもっともで、まず入れ替わること自体が現実離れしているのだ。 それを簡単に戻せるとは蓮も思っていない。
「それでいつ実践するの?」
「そうだな。 できれば早めがいいと思う。 何なら涼風が目覚めた直後くらいでも」
そう話していると蓮のスマートフォンが鳴った。
「・・・クラスメイトからだ」
噂をすれば影、そんな言葉が頭を過る。 そしてその予感は当たっていた。
「ッ・・・!」
だが予想していたことが当たって余計に動揺してしまった。
「何だって?」
尋ねてくる心泉にスマートフォンを見せる。
「・・・涼風が目覚めたって」
まさかとは思ったが、あまりにもタイミングが良過ぎる。
「目覚めた? それって、私と入れ替わっている涼風ちゃんが起きたっていうことだよね」
「ん? あ、あぁ」
―――何だろう、今の違和感。
―――“入れ替わっている”をやけに協調しているように聞こえたような・・・?
―――ただの気のせいかな。
蓮も当然分かっているためそのようなことを強調せずわざわざ言わなくてもいいのだ。 当たり前なのかもしれないが、蓮はこの一週間本当に入れ替わっているのかどうかを何度も考えてきた。
何度も考えてきたが、心泉が真実を言っているのだとしてそれを疑うのが嫌で追及することはなかった。
ただそれとこれは話が別で、やはり蓮自身目の前の心泉が本当に心泉なのかよく分からなくなっていた。 だからといって涼風が勝手に一人で演技しているとも思えない。
そんなことは二人が目覚めれば簡単にバレてしまうことだ。
「何か言ってた?」
不安気な表情で聞いてくる。
―――それって入れ替わっていることについてだよな?
もう一度届いたメッセージを読んでみるが、目覚めたこと以外は特に書かれていない。
「いや、特には。 どうする?」
「・・・」
彼女は黙り込んだ。
「このまま引き返して見舞いに行くか?」
―――・・・正直なところ、二人が入れ替わっているということについては半信半疑だ。
―――確かに一週間前は入れ替わったことを信じると言った。
―――それは心泉さんが嘘をついているとはとても思えなかったから。
―――でも改めて考えれば現実でそんなことが起きるのかという疑問もある。
―――・・・あの時の俺は告白することに必死で、他のことに頭が回っていなかったからな。
―――もし二人が入れ替わっていなかったら、俺は涼風に告白して成功したっていうことになるよな?
そう考えると背筋がぞわりとした。
―――え、何その展開。
―――そしたら最悪過ぎるッ・・・!
チラリと目の前にいる彼女を見てみる。 まだ何かに悩んでいる様子だった。
―――だけど前までいがみ合っていた涼風とはとても思えない。
―――本物の涼風にしては大人し過ぎるだろ。
―――やっぱり心泉さんに入れ替わっているのか?
考えても埒が明かない状況に思わず溜め息をついた。
―――分からない。
―――もし入れ替わっていないとしたら、どうしてそんなことをする意味があるんだ?
―――おそらくだけど、二人が入れ替わっていなかったら『今から見舞いに行く』とは言わないよな?
―――見舞いに行ったら入れ替わっていないことがバレちまうもん。
半信半疑である蓮だったからこそ心泉の次の言葉で安心することになった。
「目覚めたなら当然行くべきだと思う」
―――・・・行っても大丈夫なのか。
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