落×雷②




約一週間前の正午頃、大雨のため家にいた蓮のもとにある連絡が届いた。


「涼風が雷に打たれて病院へ運ばれただって・・・!?」


それは涼風の親からの連絡だった。 互いに苦手意識を持っていることを親同士は知らない。 連絡があったからには行くべきだとは思うが、涼風ということもあり少し躊躇っていた。


―――行った方がいいとは思うんだけど・・・。

―――病院へ行ったら絶対に涼風の親がいるだろうし、少し気まずい・・・。


それでも渋々重い腰を上げようとしたところで、クラスメイトから連絡が来た。 その内容を見て驚き半分、疑い半分だった。


「心泉さんも雷に打たれて病院へ運ばれた・・・!?」


普通に考えて涼風の親が嘘をつくとは思えない。 しかし、知り合いが二人同時に雷に打たれるだなんてすんなり信じられるわけがない。

だが考え直してみて、やはり親からの連絡があったために二人が事故に遭ったのが現実なのだと思い、そうなれば居ても立っても居られなくなって病院へと駆けた。


―――どういうことだ?

―――二人は同じ場所にいたのか?

―――それよりも雷に打たれた、って・・・ッ!


そこであることを後悔した。


―――心泉さんにはアタックし始めたばかりだった。

―――もう少し早く告白をしていれば、俺は後悔しなかったのに!

―――・・・もし心泉さんが目覚めることがあれば、その時に絶対告白をするんだ。


まだ目覚めないと確定したわけではない。 だがせめて気持ちを伝えたかったと強く思った。 病院へ着くと涼風よりも先に心泉の病室へと向かう。


「失礼します!」


ノックして部屋に入る。 そこには既に数人のクラスメイトが見舞いに来ていた。


「蓮くん! まだ心泉は目覚めていないって」

「大丈夫なのか?」

「おそらく・・・。 雷によるショックで気絶しているけど、外傷はないしお医者さんの話では軽傷なんだって」

「そうか・・・」


正直“意識を失っているのに軽傷?”とは思ったが、医者がそう言うのならそうなのだろう。 心泉の親にも連絡はいっているが、まだ病院には来ていないらしい。

蓮もこの部屋でクラスメイトと共に待っていると医者の先生が来た。


「すみません。 蓮さんですか?」

「俺ですか? そうですけど・・・」


自分を探していたのだとしても“よく分かったな”と思った。 もっとも次の言葉を聞き納得がいった。


「涼風さんが呼んでいます。 行ってあげてくれませんか?」

「涼風はもう目覚めたんですか!?」

「先程目覚めました。 親御さんも目覚めたことを確認してお仕事へと戻られましたよ」

「・・・分かりました」


気は乗らないが呼んでいるのならと思い向かってみることにした。 クラスメイトに一言言ってこの場を離れる。 部屋を出る時もやはり心泉は目を覚ます様子を見せていなかった。

一刻も早く心泉の病室へと戻りたい、そう思いながらも涼風の病室へと向かう。


「入るぞ」


扉を開くと涼風はベッドの上で既に上半身を起こしていた。


「もう大丈夫なのか?」

「蓮くん、来てくれたんだ」

「え?」


“くん付け”されたことに驚いた。 普段、呼び捨てにされていて“蓮くん”だなんて呼ばれた記憶は思い出せない程に昔のことだ。


「何だよ。 今更くん付けは止めろって」

「え? いつもくん付けで呼んでいるじゃない」

「は? 涼風、お前頭大丈夫か? 落雷で頭がいかれたか?」

「スズカ? 蓮くん何を言ってるの? 私は心泉だよ」

「・・・え?」


その言葉に分かりやすく動揺した。 そして、頭の整理が追い付かない。


「いや、何って・・・。 だってお前はどこからどう見ても涼風じゃん」

「だから何言っているの?」

「ほら!」


病室にあった手鏡を見せてみる。 すると涼風は声を上げて驚いた。


「え!? 私じゃない・・・」

「・・・どういうことだ?」

「それは私が知りたいよ! どうして私が涼風ちゃんになってるの? 本物の私は!?」

「慌てるのも無理はないけど、俺もよく分からないからちょっと待て。 今、涼風・・・。 いや、心泉さんが俺の幼馴染の涼風の姿になっているということか?」

「聞かれても分からないけど・・・。 でもこの顔は確かに涼風ちゃん」

「やっぱりそうなのか? まだ心泉さんの方は目覚めていないから何とも言えないけど・・・。 って、あれ、涼風の顔を知ってんのか?」

「入れ替わったなんて、どうしよう・・・」


不安がっている様子を見て守ってあげたいと思うと同時に、気持ちを伝えてしまいたいと思った。 後からしてみれば蓮自身かなり焦った行動だったと思う。

ただ片思いしていた心泉が倒れ、後悔しないよう生きたいと思った結果だった。


「・・・こんな時にごめんなんだけど」

「うん?」

「俺、心泉さんのことが好きなんだ」

「ッ・・・!」 


本当に駄目元の告白だった。 アタックてし少しずつ仲よくはなったが、正直手応えがあったとは言えない。 付き合えなくても気持ちだけ伝えられたらそれでいいと思っていた。


「・・・本当?」

「本当だ。 心泉さんのことが好きな俺だから言う。 俺は心泉さんと涼風が入れ替わっているのを信じる」


現実で入れ替わることなんてあるのだろうか。 そう思ったが好きな人の言うことは信じたかった。


「・・・見た目が入れ替わっちゃっても、私を好きでいてくれるの?」

「もちろん。 ・・・確かに心泉さんの容姿も凄く素敵だと思うけど、好きなのは容姿だけじゃないから」


そう言うと彼女は泣き出した。


「・・・じゃあ、私と付き合ってくれる?」

「え?」

「私一人じゃ不安だよ。 この姿じゃ誰も信じてくれないだろうし、私一人では生きていけない」

「・・・分かった。 俺が心泉さんを守ってみせるよ」


―――こんなにあっさりいってもいいのか?

―――あまりにも突然な告白だったし、まさかOKしてくれるとは思ってもみなかった・・・。

―――でも状況が状況だからか。


そこでもう一つ疑問が浮かんだ。


―――・・・そう言えば、医者の先生や家族も入れ替わっていることを知らないのか?

―――俺がここへ来るまでは上手く誤魔化すことができたのかな。


ここから見た目は苦手な涼風なのに、中身は好きな心泉という変な状況で付き合うことになったのだ。



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