第36話 新たなる始まり
その日は学園は休みで私は朝から侍女達によって、全身を隅々まで洗われ、マッサージをされた。頭の先から爪先まで整えられた後、顔にパックをして軽食を取る。
そして先日選んだドレスを着て、今回は魔導具をアクセサリーとして身に付けた。フェルナンド様から贈られたピアスと首飾り、そして空間魔法の詰まった指輪。どれも金色と青色で統一されている。
以前
足元にはフェルナンド様から贈られた踵の低いパンプスを履いている。今日は婚約したことを皆に報告する意と為フェルナンド様のお披露目も兼ねている。
フェルナンド様の事を知っている貴族は少ないから、きっと注目の的になる事は分かっている。私も一年社交を休んでいた。ついこの間までは王太子の婚約者として出席していたが、これからは公爵家の跡取りとして振る舞わなければならない。
この国は女性の地位が低い為、跡取りが女性しかいない場合、親族から婚約者を選ぶか、同格もしくは高位の令息を婿に迎えて二人で跡を継ぐ様になっている。だから、私の場合も同じ公爵家か王族以外の婿はとれない。
もともとはアルフォンソ殿下と婚姻したら、二人以上の男子を産んで一人を公爵家の跡取りにする予定だったが、破談したので王族のフェルナンド様を婿に迎える事になった。
結果的にはお祖父様の希望が叶ったような形ではあるけれど、これは意図した事ではない。それに今の私は以前よりよく笑う様になったと侍女たちも安心している。
支度が出来て、侍女達に連れられて階段を降りると、エントランスホールでフェルナンド様と両親が待っていた。
「まあ、綺麗に仕上がったのね」
「本当にうちのお姫様は天にも昇りそうだよ」
「え、あ…とてもよく似合っているよアナトーリア…このまま夜会に行くのを止めたいくらいに」
「止める…?」
「いや、その…他の男の目に晒したくないんだ…」
父や母と違って、女性を褒めた事のないフェルナンド様の対応が新鮮で、逆にこちらの方が恥ずかしくなってしまう。ほんのり頬が薄紅色に染まっているのを揶揄う様に母が、
「もう殿下。こういう時にはきちんと褒めるのですよ」
母にせっつかれてもフェルナンド様からはどうやら「美しい、似合う、綺麗だ」以外の美辞麗句は思い浮かばなかったらしい。
そんな所も他の貴族令息にはない点だから、私からすれば素直なフェルナンド様は今のままの方が素敵だと思ってしまう。下手に女性の扱いに慣れていると、きっとあらぬ疑いの目を向けていたかもしれない。
今日の夜会は特別で、どうやら第二王子を正式な王太子として発表する予定なのだ。王都にタウンハウスを持っている王侯貴族や下級貴族らも大勢が参加することになっている。
フェルナンド様の手を取りエスコートされながら、四頭だての馬車に両親と乗り込むと王宮に急いだ。既に刻限が迫ってきているが、私達が案内されるのは最後の方、公爵家の後になる。まだ王族に籍を置いているフェルナンド様は王弟なので、今回は王族として参加することになっている。
馬車で隣に座ろうとしたフェルナンド様を父が制止して自分の隣に座らせた。
「殿下、近いですよ。接近禁止令です!」
と言われて項垂れていた。それを見ていた私と母はクスクスと扇で口元を隠して微笑んでいる。
和やかな雰囲気のまま、馬車は静かに王宮に近付いて行った。
しかし、その夜会がこれから起こる新しい【ゲーム】の
あなたのことは記憶にございません 春野オカリナ @tubakihime
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