第32話 透明手紙と動く郵便ポスト
イゾルデは、アナトーリア達の視線は、空中を彷徨う耳に集中していた。
「おい、あれいつまで浮かせておく気だ?気味が悪いからそろそろ消してくれ」
レイナードが懇願したと同時にイゾルデが指を鳴らした。すると耳は跡形もなく消えたのだ。
アナトーリアも気になっていたことをイゾルデに聞く事にした。
「あのう、ドル―マン侯爵令嬢?この国では女性は魔法を学べません。使う事も禁じられている筈ですが…一体どうして……」
「どうして私が使えるのかは、それは私は表向きはドル―マン侯爵令嬢ですが、生まれた時にアステカ国にて魔女の資格を得ています。世界魔法協会にも名前を乗せているので、問題はありません。アステカで魔女認定を行い登録魔女になった者は他国で魔法を用いても問題ないのです。ですので、私はこの国の法に違反しておりません。ご安心ください」
「もし、アステカに行けば魔法を学べるのですか?」
「まあ、大概の人はそうですが、中には魔力が多くても学んではいけない方もいますけどね」
「例えば、どんな方ですか?」
「うーん、そうですね。魔力が汚されている者です。その人間は大抵が判定の時に黒い靄が現れて、植物が枯れたりするんです。そういう人が魔法を持つと、俗にいう闇落ちしますから、禁断の魔法に手を染めやすくなってしまうんです。この魔導書を持っていた人みたいに、とことん魔法を追及したりすると逆に魔法に憑りつかれてしまいやすくなるんです。魔法は過ぎると中毒になりますから」
「ドル―マン侯爵令嬢は、そうならないのですか?」
「私の興味は売れる魔導具の開発なので、例えば自動翻訳機や自動羽ペンとか野菜選別機みたいなちょっと便利なお役立ち道具を作る事以外で、国をどうこうしようなんて考えていませんし、正直面倒くさいので…」
最後はきっとイゾルデの本音なのだろうとアナトーリアは思っていた。
「ねえ、貴女マルロー公爵家に居候しているのなら、ここに来るのは不味いのではないの?」
「ええ、ですので姿替えの魔法で侍女と入れ替わっています。今は侍女が私の代わりに部屋にいます。私は侍女になりすましてマルロー公爵家を出て、お嬢様のお使いに出ていると言う訳です」
「本当に呆れるなあ。普通に魔法をあちこちで使ってよくばれないよな」
「まあ、生まれた時から日常的に母が何でも、魔法を使っていたので自然と覚えてしまい、使う事に抵抗が無いので」
「へえー、俺んちも人の事を言えないけどな」
「是非、エイバン侯爵家にもお呼ばれしたいです。お兄さまのジェダイド様に是非私が開発した魔導具を見て頂きたくてたくさん持ってきたんです。今日、いくつか持って帰って見せて頂ければ幸いです。そしてできればお墨付きを頂ければ、ベンガリー公爵家の販売ルートで売って頂ければ……」
「あんたすごく逞しいなあ、呆れるよ」
「すみません。王都にいられるのは一年で、その後はまた辺境地に帰るので、今しかないと思ったら気持ちが逸ってしまいました」
「ふふ、でも良かったです。母もドル―マン侯爵夫人を知っていたようですし、何だか学園での生活も安心できそうでホッとしました」
「私の事はスーリャと呼んで下さい。その名前で魔女登録をしているので、この国の人達には分からないと思います。外で会う時は今日の様に侍女の姿で来ますし、もし緊急の時にはこの透明手紙を出しますので」
「なんですか?その透明手紙って」
「実は先日完成した物で、爆発
「まさか、手足が食われたりしないよな」
レイナードは恐る恐る手紙を突いていた。その様子にアナトーリアとキャサリンはクスクスと笑っているのだった。
「大丈夫です。見えないだけですので」
「そ…そうか、なら安心だ」
フェルナンドも手紙を見て顔が引き攣っていた。実はフェルナンドは、郵便ポストが嫌いなのだ。王都で一番驚いたのは郵便ポストだった。
彼らは動くので追い掛け回して、手紙を吐かせないといけないとんでもない魔導具。執事見習いが困っているのを先日、助けようとして、嫌がらせの手紙や抗議の手紙が混ざっていたらしく、ポストにインクを吐かれて墨まみれになったのだ。彼らにはちょっとした感情があるのか、手紙を拒否して逃げ回られることもしばしばあるらしい。老齢の執事の前ではピシッとしているのだが、見習いとフェルナンドは嘗められているようで、いつも逃げられている。お蔭でフェルナンドの朝の日課はポストと追いかけっことなっている。
また、学園のポストに恋文を入れたら、ポストが照れてしまい、恋文を入れた事が丸分かりになるという恥ずかしい目に遭う事もしばしばある。
「これは新開発の自動消却手紙なんですが、これ一応お兄さまに鑑定してもらって頂けないでしょうか?」
イゾルデは、レイナードに花形の手紙や鳥型、蝶の形の手紙を渡した。
「なんだこれ?」
「はい、これポストに入れずにそのまま相手に届けられる物なんです。恋文を送るのにいいと思って……」
「自動消却ってことは消滅するって事だろう?なら恋文には向かないだろう」
「そうですね…」
しょんぼりしているイゾルデを見て、キャサリンがレイナードを腕で突きながら、
「と…取り敢えず見せてみればいいじゃない」
「分かったよ。見せるだけ見せてみるよ」
イゾルデは、自分の目的が果たされたと言わんばかりに、アナトーリア達と別れを告げて、待合馬車で帰って行った。
「アナトーリア、彼女が何処まで信用できるか分からないから、さっきのペンダントもジェダイドに見てもらった方がいい」
そう言われ、レナードに託した。勿論アマーリエから借りた例の本も一緒に…。
翌日、レナードからペンダントには異常がなく、持っていた方が良いと言うお墨付きをもらったのは言うまでもなかった。
その日から、アナトーリアとキャサリンはイゾルデと対立している振りをして、昼休みに実習室で密かに会う事にした。
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