第29話 イゾルデの秘密
公爵家のサロンに集まっているのはアナトーリア、フェルナンド、キャサリン、レイナード、ダイル、そしてイゾルデの6人だった。
微妙な空気が流れる中、イゾルデが口火を切って
「ベンガリー公爵令嬢、私と王弟殿下の噂で、嫌な思いをされ事をお詫びします。今後は殿下と距離を置きますので、ご安心ください。それに、殿下が公爵令嬢の写真を持ち歩いているのを知っていますので……」
「おい、何でその事を知っているんだ!!」
イゾルデの急なカミングアウトにフェルナンドは慌てた。幼い頃に一度だけ二人で撮った写真を思い出に持ち歩いているのを知っているのはダイル位だ。思わずフェルナンドはダイルを睨み付けた。
「ち…違いますよ。俺じゃあありませんよ」
ダイルは、フェルナンドに手と首を振りながら誤解を解こうとしている。そんなやり取りをしり目に
「ふふ、昔、母から聞いたんです。王弟殿下だけはダメだと。その理由も知りました。一つ目は王弟殿下には想い人がいること。二つ目は王弟殿下のその瞳です。『王族から逃れられない運命だから、婿入りは無理だ』と言われました」
「侯爵からではなく、夫人から?」
「はい」
イゾルデの言っている事は、フェルナンドにとっては違和感しかなかった。自分との噂を流している癖に、婿入りが出来ないことを知っているとそう言っているイゾルデを訝しみながら、
「なら、何故あんな噂を流したんだ。こっちはいい迷惑だ」
「本当に迷惑でしたか?都合のいい理由にお互いなったのでは?」
フェルナンドは、イゾルデの見透かす様な瞳にたじろぎながら、
「確かに女避けには利用させてもらったが、今はその対処をしなかった事が悔やまれる」
「ご安心下さい。その噂も直に無くなるでしょう。本当はもっと早くそうして居れば良かったのですが、残念ながら手遅れになってしまいました」
「どういう事なんです?手遅れとは」
キャサリンがすかさず口を挟み、アナトーリアも
「今日は事情をお話し頂けるはずですよね。何故『ドル―マン侯爵令嬢と仲が悪い振り』をするのか」
「実は、私は今マルロー公爵家にお世話になっているんです。そう言えばお分かりになりますよね。私の父がマルロー公爵家の遠縁にあたるのです。そして、先日、第二王妃殿下から王子との婚約を直接打診されました。ですので、王弟殿下との噂も立ち消えるでしょう。陛下から王命が下されれば私は王太子妃教育が始まり、王宮に身柄を移されます。皆さんと直接会ってお話できる機会も無くなります。残念ですが、私の夢も終わった様です」
「夢?」
「はい、実は幼い頃から自分の商会を立ち上げて、異国を回る商人になりたかったのですが、それももうできそうにないです。私は王宮で飼い殺しにされるでしょう」
「飼い殺しですか?それはどういうこと……」
アナトーリアが理由を聞こうとした瞬間にサロンの扉が開いて、エレイナが入って来た。
「貴女がドル―マン侯爵令嬢なの。私の娘に何の用……」
勢いよくイゾルデの方を睨みながら歩いてきたのに、イゾルデの姿をはっきりと確認すると、
「あ…貴女の母親は……、まさかメリンダ・グレスなの?」
「はい、公爵夫人。夫人の姉君レジーナ皇妃とは友人だったと聞いております」
「ええ、そうよ。私達エイバン侯爵家には、メリンダ・グレスに借りがあるの。それも大きな借りが…」
「そう聞いています。母がもし私が望むことをしようとするなら、エイバン侯爵家に作った借りを返して貰う様に託っています」
「その借りを今返せという事なのかしら?」
「いいえ、今はその時ではないそうです。私は母と違い先を見通せる力は授かっていないのです。残念ですが…」
「なら、貴女も母親と一緒でその血を継いでいるのね。『アステカの魔女』の血を──」
「そうです。私はアステカに認証されている希少な魔女の血を引いています。でも私以外にもその血を引いている人物がこの場にもう一人います」
「誰なの?その人は──」
「それは、王弟殿下フェルナンド様です」
その言葉に全員がフェルナンドとイゾルデの方を一斉に見た。
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