第27話 新しい学園生活

 その日の公爵家の朝は大忙しだった。なにせアナトーリアの学園への復帰が始まるからだ。元々飛び級をしていた為、同級生は皆年上だったのだが、一年休学した事により同い年の令嬢令息と通える事になった。


 学園では馬車でフェルナンドが送迎を行ってくれ、学園内は侍女のマーサが付いていてくれる。ルルも連れて行ってもいいので、護衛代わりに連れて行く。


 「何かあったら、すぐに連絡するように」

 

 父や母、フェルナンド様にも念を押された。私はそんなに頼りないのだろうか?自分ではしっかりしているつもりなのだが……


 そうこうしている内に馬車は学園に着いた。フェルナンド様が先に降りて、手を差し出してくれた。でも、そのあまりにも自然な素振りに胸が痛んだ。


 女性と接した事があまりないと言っていたのに、エスコートはスムーズに出来ている。どうしてなの?


 私が機嫌を悪くしている事に気付いたダイルがこっそり耳打ちしたのだ。


 「実は、公爵夫人にマナーを教えてもらったんですよ。だから、ご安心ください」


 ダイルは人の心が読めるのだろうか?私の胸のもやもやがその言葉で少しすっきりした。


 教室までは従兄のレイナードとその婚約者のキャサリン・レイガン侯爵令嬢が一緒に付いてきてくれた。


 レイナードは、騎士学科なので別棟になっている。私とキャサリン様は令嬢だけが通う普通学科のクラスに入ると


 「おはようございます。キャサリン様。お聞きになりまして?今日新しい学生が編入してきますのよ」


 声をかけて来たのは、ゴートン伯爵令嬢で、噂やゴシップが大好物の令嬢だとキャサリン様から聞いている。彼女のお茶会は常にそう言った最新のゴシップのネタを提供する場らしいと評判だ。


 「そう聞いていますわ。どのような方なのでしょう」


 次に声をかけて来たのは、ゼット子爵令嬢。彼女はキャサリン曰く『歩く拡声器』らしい、大きな声を出させたら学園一だと教えてくれた。なんでもオペラ歌手に憧れて、家でも大きな声で歌っているそうで、彼女の歌声があまりにも物だったから、警備隊の騎士に通報されて大騒ぎになったらしい。要するに近所迷惑な声なのだろう。レイナードに言わせれば鶏が首を絞められた時の声に似ているそうだ。でも、私は鶏の首を絞めた事がないから良く分からない。


 何だか面白そうなクラスである事は間違いない。挨拶が終わると、ホームルーム開始のチャイムが鳴った。


 教師が入ってくると、


 「ベンガリーさん、前へ」


 私が呼ばれ、紹介された。


 「今日から新しい生徒を紹介します。まずは皆さんご存知だと思いますが、アナトーリア・ベンガリーさんです。諸事情によって一年休学されましたが、今日から学園に復帰されました。皆さん分からない事があったら親切にしてあげるように」


 「アナトーリア・ベンガリーです。卒業までの一年間どうぞ宜しくお願いします」


 パチパチとまだらな拍手が教室に響いた。よく見ればあの惨劇の時にいた令嬢の顔もあり、私を見る眼差しは憐れむ様な蔑む様なものだった。拍手してくれた令嬢は好意的なようだった。


 私がキャサリン様の隣の席に着くと


 「今日はもう一人の編入生を紹介します。お入りなさい」


 扉を開けて入って来た彼女を見て全員が固まった。彼女は赤い髪を縦ロールに巻き、派手な衣装に濃い化粧、おまけに香水の匂いがきつい。部屋に入った途端、何人かの令嬢は鼻にハンカチを充てていた。


 「イゾルデ・ドル―マン侯爵令嬢です。辺境カンザスから来ました。どうか宜しくお願いします」


 彼女が挨拶し終わると、何人かの令嬢は私とドル―マン侯爵令嬢を見比べて、ヒソヒソと囁き合っていた。


 きっと、で私と彼女が何かやらかことを期待しているに違いない。要注意なのはこのクラスにがいるからだった。きっと今、誰かの頭の中では勝手に戦いのゴングが鳴っている事だろう。


 カ──ン

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