第24話 内緒の努力

 公爵家には新しい家族が増えた。その一人がフェルナンド、もう一人はダイル。そして兎猫ラキャットだ。


 フェルナンドはアナトーリアに内緒でエレイナに相談していたことがある。それは女性のエスコートの仕方。フェルナンドは移動の際には騎乗する為、馬車に乗ると言う習慣がない。


 だから、女性をスマートにエスコートできるようにアナトーリアと背丈の近い母親のエレイナに練習を手伝ってもらっていた。勿論、エレイナに指導してもらう様に進言したのはダイルなのだが……。


 屋敷の侍女に手伝ってもらって、あらぬ誤解を受けぬように注意したのだ。その辺はダイルが心得ている。何せ脳筋の主人は女性からの秋波を受けてもスルーしているのに、純朴な性質の所為で罠に引っ掛かりそうで落ち着いて見ていられない。


 昔、エレイナに


 「トーリアがお姫様になりたいと言ったのだが、僕が王子なら結婚したらトーリアはお姫様ではないのですか?」


 「フェルナンド殿下、アナが言っているのは、男性にお姫様の様に大切にしてほしいという事です」


 「それは、どうしたらいいの?」


 「そうですね。沢山好きになってあげて、苦労しな様に気を配って心や体が傷つかないように守って上げれる強い男の子に女の子は憧れるのです。そんな男の子に多くの女の子は『自分だけの王子様』と憧れを持つのですよ。だから、まずは心も体も強くならないといけませんね。そして、愛する者を守れるだけの力と財力が必要です」


 と大人の考えを聞かされたフェルナンドは、エレイナを心の師匠にし、精神と肉体を鍛え上げたのだ。冒険者になったのはその方が手っ取り早く稼げるからであって、商売の商才がなかった訳ではなく、諸々の事情も絡み合っての事なのだが、当時は単純にアナトーリアの為に理想の王子様を目指していた。


 そんな、アナトーリアが婚約したとの知らせを聞いた時は、ちょっと自暴自棄になってしまい、心配したダイルが傷心の旅に誘った事がきっかけで、各国を放浪する流しの冒険者となった。


 いつのまにか冒険者『アイザック・ノーマン』は依頼成功率確実のSSランクの冒険者になっていた。多くの冒険者は30代で引退し、後輩を育っていく。まだ十分に現役でいられるのに、フェルナンドは、他国の誘いを断ってこの国に帰って来た。アナトーリアの為に……。


 そんなフェルナンドはマナーを覚えなおす為の訓練をエレイナに頼んだのだ。アナトーリアの学園の行き帰りは馬車で移動するので、女性へのマナーを叩き込まれている。送迎を自分が護衛するためになのだが、他にもフェルナンドはアナトーリアに隠して知ることがある。その事で、アナトーリアに臍を曲げられるとはこの時は思ってもみなかったのだ。

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