第21話 一度ある事は二度ある
アナトーリアの気分が落ち着くまで、フェルナンドはドレイクの執務室で説教を受けていた。
「殿下、いくら貴方が貴族として社交が出来ていなくても、これは如何なものでしょうか?デビュタント前の子供でも常識ですが」
ドレイクにそう言われてしまえば身も蓋もない。フェルナンドも13才まではベンガリー公爵領で基本のマナーや教養を身に付けていた。しかし、追われる身の王子に予算等組まれるはずもなく、辺境地カンザスでは一辺境兵と変わらない生活を送って来たのだ。社交活動はしていなかったので、勿論、女性をエスコートした事さえない。その上、男女交際等全くの皆無とくれば、5歳年下のアナトーリアとどう向き合えばいいのか分からいし、女性の好みそうな物にも流行にも疎い。だから、アマーリエに協力をしてもらった結果がこの様だ。
自身もよく確認していなかったのも悪いが、これが女性の読み物だと勝手に勘違いして、本に書かれている通りに行動したのも悪かった。第一印象はきっと最悪なものになっただろう。それでもフェルナンドはアナトーリアとの距離を縮めたい思いが先に立っていた。
「すまない。公爵、今後は気を付けて行動をする。もう一度、最初からやり直したい」
「そうですね。娘はあのような行動には慣れておりませんので、くれぐれも先走った行動はしないように願いますよ」
「分かった。今度はまず、きちんと挨拶をしてから、本人の了承を得てから行う事にする」
「行うのですか?」
隣で聞いていたダイルが思わず突っ込みを入れた。ドレイクも同じ考えだった。先ほどおかしな行動をしたのに、またアナトーリアを混乱させる事をしようとするフェルナンドにダイルが思わず
「あのう、フェル様。あんな行動をしたら、きっと暫くは避けられますよ。もしくは逃げられるかも……」
その言葉にフェルナンドは
「避けられるのも、逃げられるのも困る。できればもう少し距離を縮めたいのだが、どうすればいいのだろうか」
「それって本気で聞いてます?」
「ああ、かなり本気だ。俺が今まで女っ気が無い事はお前の方がよく知っているだろう」
「ええ、どんな美女に視線を送られても見向きもしませんでしたし、気付いてもいなかったですよね」
そのやり取りを聞いていたドレイクは
「殿下、つかぬ事をお聞きしますが、例の噂は一体何処から出たのです」
「例の噂?もしかしてドル―マン侯爵令嬢との事か?はっきり言って、全く在り得ない。そもそも俺はこの国で社交をしていないし、デビュタントすらしていない。殆ど名ばかり王子だからな。向こうが勝手にそう言いふらしているだけだ。侯爵には居候させてもらった恩があったから、抗議をしなかっただけだ。侯爵はその辺は理解してくれているが、肝心の令嬢は困った事に聞き入れないんだ」
「そうでしたか。では何も関係がないという事で間違いありませんね」
「公爵閣下、そんなに念を押さなくても、私が保証します。フェルナンド殿下はまだ筆おろしも済ませていない童貞だという事を……」
「お前、言うに事欠いてそんな事を堂々と喋るな!!」
フェルナンドが抗議していると、ダイルが部屋の扉の方に視線を移している。フェルナンドは振り返って後ろの扉の方を見るとエレイナが気まずそうな表情を浮かべながら立っていた。よく見ると、その後ろに隠れる様にアナトーリアの姿もあったのだ。真っ赤な顔をして下を向いている。どうやら聞こえてしまった様だった。
アナトーリアの容態が落ち着いたので、ドレイクらを呼びに部屋に寄ったのだ。扉を少し開けていたのが悪かった。
──しまった、聞かれた──っ
フェルナンドはうっかり口を滑らせたダイルを一睨みすると、アナトーリアの方に向き直って、
「先ほどは済まない。改めてフェルナンド・アスタニアだ。君とは幼い頃ベンガリー公爵領で遊んだこともあるのだが、覚えていないのならこれからお互いを知って行けばいい。今後とも宜しくな婚約者殿」
「アナトーリア・ベンガリーです。至らぬこともあるかと思いますがどうぞ宜しくお願いします」
完璧な淑女の礼をする姿は、流石元王太子の婚約者だとフェルナンドは感心していた。だが、アナトーリアはフェルナンドが手の甲に口付けを落とすとササッとドレイクの後ろに隠れた
どうやら、先ほどの行動で妙な警戒心を抱かせてしまったようで、フェルナンドはアナトーリアのその行動に軽くショックを受けていた。
その様子を見ていたダイルはフェルナンドの肩をポンポンと叩いて
「ドンマイです。殿下」
と慰めた。
一方、フェルナンドは空いた手を見ながら、一度ならずも二度までも失敗した事を反省して、今度こそは間違わないように行動をしようと考えていた。
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