第19話 気まずい朝食
翌日の天気は少し暖かな日差しと澄み切った空気が漂う快晴だった。フェルナンドはこれは幸先がいいと、朝食前にいつもの鍛錬をダイルと一緒にしていると、侍従が朝食を一緒にと陛下が言っていると伝えてきた。
こんな気分のいい日に、会いたくもない異母兄に付き合いたくもない。
フェルナンドの気分は侍従の一言で急降下した。だが、相手は国のトップ、従うしかないと渋々、食堂に着くと、そこにはアルフォンソがいたのだ。
2日後に王宮を出る事になっているようだと聞いてはいたが、同席させる意味が分からない。俺には関係の無い事だと知らぬ顔をしていたのに、
「お初にお目見えいたします。叔父上、第一王子のアルフォンソです。今後とも宜しくお願いします」
俺に向かって礼を尽くすその姿に、本当にこの甥があんな事をしでかしたとは到底思えない程の完璧なマナーだった。俺も13才までは基本は学んだが、流石腐っても元王太子だ。王子に毛が生えたような俺とは違い、誰が見ても理想の王子そのものだった。
惜しいな。こんなに穏やかで、優しそうな表情をこんな事になっても出せるのに、最早王太子ではないとは……。
もっと大人になれば完璧な国王になれたかもしれない。これが甥の運命なのだとしたら、異母兄が諦めきれないのも頷ける。既に次の王太子には第二王子ルーファスが任命されている。しかも婚約者はあのレイザルト侯爵家の令嬢だ。エイバン侯爵家と同様に魔力の多い家柄。そして、俺の名付け親の家門なのだ。つまり、今一番疑わしい貴族。
二代に渡って婚約解消となった指輪を持ち込んだのは、レイザルト侯爵家の可能性が高い。たしか死んだイーサン・ゲイルの家も同じ派閥だったと聞いたが、あの事件でゲイル侯爵家は断絶して、イーサンの弟が唯一レイザルト侯爵のあと押しで、格下の伯爵家を継いだと聞いている。しかも、事が起こる1年前にだ。恐らくその頃から既に計画されていたのかもしれない。アルフォンソを引きづり降ろす為に……。
「顔を会わせるのは初めてだな。フェルナンドだ。カンザスに長くいたが、実は冒険者として色んな国にも依頼で点在していた。だから、殆どこの国にいたことはないんだ」
表情の見えないアルフォンソの顔が一瞬だが揺らいだのを見た。彼は間違いなく困惑している。
「では、あの噂は……」
ボソリと独り言を言った心算なのだろうが、俺にはしっかりと聴こえた。
アルフォンソは例の噂を気にして俺に釘を刺そうとしたのか。だから、一緒に食事の席に着いたのだな。俺がどのような男なのかを見定める為に。
「一応、俺はこの国の社交の場には殆ど出た事がない。異国の社交界には出ざるを得ない時にだけ出ていた。冒険者をしていた俺には貴族の社交界は酷く窮屈なものだったからな」
それに下手に社交界に出て、異母兄に痛くもない腹を探られるのもウンザリしていた。
アルフォンソは静かに俺の話に耳を傾けてくれている。緊迫した空気が和やかになった所で、国王の訪れを侍従が告げて来た。
折角、打ち解けられそうだったのに、また部屋が元の張りつめた空気に変わって行ったのだった。
ああ、美味い飯もこの男の所為で台無しだ。
俺は出された食事を、終始無言で咀嚼した。それはアルフォンソも同じだった。この年の近い甥に色々聞きたい事もあったのだが、それは後日にしようと考えた。
こうして、気まずく息が詰まるような朝食は終わったのだっだ。俺にはこの異母兄の考えている事は全く読めなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます