第17話 アナトーリアの見る夢

 最近よく夢を見る。小さい頃、誰かの後を追って必死でついて行った記憶がある。でも目覚めるとその誰かを思い出せない。


 本を読んでもらったり、遊んでもらった記憶だけはあるのに、肝心の顔は逆行の様に陰で見えない。


 もしかしてアルフォンソ殿下との思い出なのだろうか?


 そして、私はある約束をする。


 ──魔法を学びたい──


 少年は笑いながら、「いつか叶うといいね」とそう言った。


 今もまだ、その気持ちはある。目まぐるしく画面が変わり、何だか何処かの屋敷の廊下に立っている。部屋の中から


 「これでエイバン侯爵家に一矢報いることが出来る。今までの借りを返して貰おう」


 何か不穏な話が聴こえてきた。


 「誰かいるのか?」


 中の男が扉を開く、私は咄嗟に物陰に隠れた。後ろから口を塞がれ、振り返ると赤毛の男が立っていた。


 「しーっ、声を出さないで下さい」


 「イーサン?どうしてここに……」


 「今、聞いた事は忘れて下さい。でないと貴女にも危害が及ぶ。誰にも話さないで下さい。俺が決着を付けないといけない事だから、もう手遅れかもしれないが出来るだけの事はします。園遊会ではセシリアから離れていて下さい」


 夢の中の赤毛の男性に私は『イーサン』と呼んでいる。それに『セシリア?』彼女はアルフォンソ殿下の想い人だったのではないの?


 一体、この夢は何?それにあの男の子は誰?アルフォンソ殿下よりも年が少し上の彼は一体何者なの?


 私は一体何を忘れてしまっているのだろう。


 場面はまた違う場所になった。


 大勢の人が悲鳴をあげて逃げ回っている。


 私は背中が痛くて、意識が集中できない。呼吸が上手くできない。


 痛い。苦しい。辛い。


 全ての事から逃げ出したかった。


 目を閉じる前に私を切りつけた赤毛の男の方を見る。彼は満足そうな顔をして、笑っているような気がした。その眼はある少女の方を向いていた。


 淡い珊瑚のような髪をした女性。私は彼女を知っている。


 ああ、彼女がセシリア・ガストンだと……。


 でも、どうして知っていると思ったのだろう?


 面識はあったの?それとも直接関わりがあったの?


 私の頭の中の記憶を掘り起こそうとしても靄がかかったみたいで思い出せない。


 どうすればいいのかわからないまま、明日には新しい婚約者と会う事になっている。


 こんな状態の私でいいのだろうか。上手くいくのだろうか。


 不安な気持ちが押し寄せて、その日はよく眠れなかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る