第16話 指輪の秘密

 ジェダイドは、アマーリエを帰した後、本題を切り出した。


 「殿下がここにきた理由は、問題の指輪を確認したかったのではないですか?」


 「そうだ。先ほどレイナードから聞いた話では今回の婚約解消に関わったものだと聞いている」


 「ええ、そうです。これがそうなのですが……」


 何処か腑に落ちないのか言い淀むジェダイドを横目にフェルナンドは指輪を確認した。


 ──やっぱり間違いない。指輪だ。

 

 フェルナンドは同じだと思った。


 「殿下はこの指輪を見たことがあるのですか?」


 「ああ、これと対になっている指輪をレアンドル国王が19年前の王太子時代に付けていた」


 「な…なんですって、それは本当なんですか?」


 レイナードが割って入って来た。ジェダイドは顔色を変えない所を見るとどうやら知っていたようだ。


 「ジェダイドは知っていたんだな。この指輪の秘密を…。父親から聞いているのか?これは呪いだ。この指輪には300年前の思念が入っている呪われた指輪なんだ」


 「の…呪い……」


 「そうだ、何故、魔力が高いのに女性は魔法を学んではいけないのか、考えた事があるか?転生者や前世の記憶を持つ者を異端だと決めつけて魔女狩りの様な真似をすることもおかしいと思った事は無いか?俺はある。実際に俺の家族は19年前にこの指輪の被害にあって、俺の母は死ぬ事になったからな。300年前に起きた事件が元でこの国では異邦人の入国を制限し、女性に魔法を学ばせなくなったんだ」


 「この指輪の様な物はまだ後二つは確実にある。イーサンがこの魔導具を持っていなかったらもしかしたら三つはあるかもしれない」


 「同じような物が三つもあるのですか?」


 「ああ、恐らくは…」


 「今回も前回も狙われたのはエイバン家の令嬢だ。だからアナトーリアがまた狙われる恐れがあるし、指輪を破壊しないと、次に狙われるのはジェダイド、お前の娘かもしれない」


 「なんですって、どうして家が狙われるんです」


 「それは、300年前に起きた渡り人が起こした婚約破棄の事件の所為ですよね。この指輪にはその当時加害者になった6人の思念が入っている。これを身に付けるとその思念に取りつかれ、体を乗っ取られる仕組みになっている」


 「だとしても何故?」


 「それは当時のエイバン侯爵家の当主が王太子の婚約者を冤罪から救った時、彼女を嵌めた6人を処罰できる証拠を提示した。その6人は王太子、渡り人という異世界からの異邦人、騎士団長の嫡男、魔塔の主の嫡男、宰相の次男、大富豪の跡取りだ。その内、二つは確実に使われている。それに全てが指輪だとは限らない。王太子とその恋人に使われたのが婚約指輪なら、残りは常に持ち歩いても不思議が無い物かもしれない。例えば魔法使いなら杖とか、騎士なら勲章、商会の関係者なら会員バッジの様なものなのかもしれない。ただ、言えることは一つでもあれば今回の様な事になるという事だ」


 話を聞いていたレイナードの顔色が段々悪くなっていった。


 「因みに殿下、セシリア・ガストンとは面識がありますか?」


 「いいや、王の勅使からも尋ねられたが、遂、この間までアステカ国にいたから、一年前まではこの国に居なかったんだ。だから内情は全く知らなかった。帰って来たのは半年前だったし、それを証明できるしな。ほら」


 フェルナンドは冒険者登録カードを見せた。そこには半年前に依頼のあったある魔物の討伐記録が表記されていた。


 「兄貴、何でそんな事を聞くんだ?」


 「それはセシリアがおかしなことを言っていたからなんだ。『自分はヒロインで、王弟フェルナンドに会う為に、アルフォンソ殿下を虜にした』と言っていたらしい。だから、フェルナンド殿下を皆が疑っていたんだが……」


 「俺は全く関係ない。それにこんな騒動に毎度巻き込まれてはっきり言って辟易しているのは俺の方だ。全くいい迷惑だ。俺もアナトーリア、アルフォンソもある意味被害者だよ。だが、一つだけ心当たりがある。それは俺の名付け親だ。もし、彼がこの事を予め想定して俺に『フェルナンド』の名を与えたのなら、彼が一番怪しいだろう」


 「一体、それは誰なんです?」


 「当時の魔塔の主だ。ヨハネスの前のな。それに、アステカ国で聞いたのだが、エイバン家が魔塔の主になる前は代々あの家が魔塔の主を継承していたともな。だから可能性は十分ある」


 「だとしたら、我々だけでは太刀打ちできないでしょうね」


 「そうだな。だが、アナトーリアを守る手段は講じないと、所で頼んでいた物はできたか?」


 「ええ、お蔭で数日魔塔に泊まり込みになりましたがね」


 「済まない。どうしてもアナトーリアが学園に戻るまでに渡したかったんだ」


 「それにしてもよくこんな貴重な魔法結晶石なんて見つけましたね。平民ならこれ一つで一生遊んで暮らして行けますよ」


 「こんなものなら腐る程あるんだ。実は俺はアステカ国で魔法結晶石がとれる鉱山を発見して、その権利を持っているし、侯爵位も持ってる。一代限りだがな」


 「え──っ!本当ですか…ある意味凄いな……」


 レイナードは本気で驚いていた。フェルナンドが冒険者登録していて、憧れの『アイザック・ノーマン』だという事にも驚いたが、他国の爵位と鉱山を持っている事にも驚いていた。


 「まあ、その内この件が片付いたら、アナトーリアを連れてアステカ国に行こうと思っている」


 「ああ、そうなると良いですね。あの国は女性の地位向上に努めている国ですから住み良いでしょうね」


 「そうだ。あの国は女性の魔法使いがいる唯一の国だからな」


 フェルナンドは、アナトーリアが小さい頃、魔法を学びたいと言っていた事を思い出していた。それはフェルナンドとアナトーリアの小さな約束だった。

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