第12話 エイバン侯爵家
朝食をすませたフェルナンドは、王都に向けて馬を駆けさせた。王都の主要門で通行手形を見せて19年ぶりに王都に入った。
逃げる様に王都を出たあの頃とは違い、呼び戻される事になろうとは人生は何と皮肉なものなのかと自嘲の笑みを浮かべた。
彼は迷わずある屋敷を目指した。それはエイバン侯爵家。
本来なら王宮に向かえばいいのだが、直ぐに向かってあの異母兄と対峙するのは宜しくない。自分には情報が少ない。かと云ってまだ顔合わせの済んでいないベンガリー公爵家に行くのもおかしな話なのだ。
2日後に迫るアナトーリアとの顔合わせまでに知りたいことが山ほどある。婚約を解消した経緯は辺境地カンザスには公の事しか伝わらない。
詳しい事情などは当然、伏せられている。何の後ろ盾もない地位も不確かな自分に突如降って湧いてきた幸運だと人は思うかもしれないが、元々前公爵コンラットはフェルナンドに王位継承権を放棄させ、アナトーリアの婿にフェルナンドを据える心積もりだった。それにエレイナ・バンガリー現公爵夫人からも「女性は強く頼りになる男性が好ましいものです」と教えられ、それならばと日々努力してきた。
13才までは公爵領で勉学に励み、カンザスでは武芸に励んでいた。そして15才で冒険者となり、数々の冒険でその名を世に知らしめていた。ミドルネームの「アイザック」という名前で登録しており、その名は知らぬ冒険者はいない程だった。
そうしてひと財産も築き上げてきた。冒険者になったのは、その年、アナトーリアがアルフォンソの正式な婚約者として国中に広められたからである。自分の虚無を喪失感を何かに注がなければ生きていけなかったのだ。
アナトーリアに何かあったら手助けできる様にという思いだけがフェルナンドを生かし続けた理由なのだ。でなければ彼は当に自死するか、狂っていたに違いない。
誰にも求められず生きる意味が分からないフェルナンドにとって、アナトーリアは彼が生きていく理由そのもの。
その想いが通じたのか、神が憐れに思って施しをしたのかは分からないが、フェルナンドは誰に妨害されても引くつもりも譲る気もなかった。
エイバン侯爵家は、王都の東の隅にタウンハウスを構えている。そこは平民の居住区の一角なのだが、本人らもその事を気にせず昔からその地に住み続けていた。
フェルナンドが民家の扉に着くと、門番がいない事に気付いた。
何故、門番がいないのだ?こんな所に居を構えているくせに不用心だな……
扉を開こうとしたが、頑丈で開かない。ここで魔法を使えば市民に被害だげるかもしれない。そう思って扉を開ける手立てを探していると、侯爵からもらったペンダントが光出した。扉の真ん中の窪みに向かって細い光の筋がそこを指している。まるでここに入れろと言わんばかりに。
フェルナンドはそこにペンダントを入れると、扉は自動で開いたのだ。屋敷に敷地に入るとまた自動で扉がしまった。
中から人擬きがやって来て
「私が執事をしています。王弟フェルナンド様ですね。中で皆さまがお待ちです。屋敷までご案内します」
そう言って、フェルナンドとダイルを屋敷の中に案内した。中央の道を進みながらダイルがフェルナンドに話し掛けた。
「フェル様。凄いですね。表からではここが侯爵家だなんて思えませんでしたが、中はこうなっていたんですね」
ダイルが興奮するのも無理はない。表は一見普通の民家の扉だったのだが、中に入ると確かに貴族の家なのだ。しかも自動で道が動いている。その道には魔法の結界が付いているようで、時々鳥や虫がはね替えされているのが見えていた。流石、当代一の魔法使いの屋敷らしいとフェルナンドは感心していた。
広い庭園の中央道を抜けると屋敷の玄関まできた。
玄関には人間の使用人の姿はなく
兎に角、フェルナンドの予想を上回る家である事には違いない。
そこに、次男のレイナードが兄嫁のアマーリエを連れてやって来たのである。
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