第11話 宝石眼

 「フェル様?大丈夫ですか?」


 乳兄弟のダイルに起こされて、自分が魘されていたことに気付いた。


 「ああ、近頃夢見が悪くてな。時々嫌な夢を見るんだ」


 フェルナンドはこの乳兄弟だけは信じている。幼い頃にあんな目に遭い、周りの人間に対する不信感は募るばかりだった。せめて気のおける者をとコンラット・ベンガリー前公爵が手を尽して、王宮を追い出された乳母とダイルを探し出してくれた。そして、公爵領で共に育った。


 しかし、公爵が亡くなった後は、兄レアンドル国王の命で辺境地カンザスに送られた。その時も一緒についてきてくれたのだ。乳母のマリータは現公爵夫人エレイナ付きの侍女として公爵家で働かせてもらっている。だから、ダイルも一緒に公爵家に行くことにしたのだ。


 生前、コンラット・ベンガリーに「どうして、親身になって世話をしてくれるのか」聞いたことがあった。


 その理由は『宝石眼』と呼ばれる王家に時々現れる瞳を持った所為だと教えられた。その瞳は特別で、等しく『王』になる証だと言われているらしい。『宝石眼』を持った王族が統治した時代は安寧な治世となり、繁栄してきたのだと言われた。決して見殺しにできない存在だとも。神に愛されている印を瞳に宿している証拠。


 フェルナンドは思った。神に愛されているなら、今まで受けた苦しみや悲しみは一体なんだったのだろう?こんな眼など必要ない。この瞳の所為で、父に担ぎ上げられ、異母兄に疎まれ、母を死なせた。


 役に立たない自分が生きている意味は何処にあるんだろう。


 そんな事を毎日、自問自答しながら生きてきた。時々公爵領にヨハネス・エイバンがやって来て、フェルナンドに魔法を教えたのだ。その頃は、ヨハネスがエイバン家の人間だとは名乗らなかった。


 ただ魔塔の魔法使いだとしか知らず、教えを乞うていた。彼を師匠と仰ぎ日々、魔法訓練を重ねる内に、フェルナンドは王族を止めたくなった。もっと自由に生きたくなったのだ。


 そこで、カンザスでは騎士団に紛れて魔獣討伐に明け暮れた。その内、いつのまにかカンザスではフェルナンドを知らぬ者などいない様になった。


 気付いたら、フェルナンドはカンザス地方の貴族から婿候補に狙われていたのである。そんな令嬢の筆頭がイゾルデ・ドル―マン侯爵令嬢だった。


 彼女は世話になっているドル―マン侯爵家の一人娘という事もあり、何でも手に入ると勘違いしていた。王弟であるフェルナンドも侯爵家にいるのだから、何れ自分の夫になると勘違いして、何度も侯爵から説明されても納得しなかった。


 事或る毎に付き纏い、辺境騎士団の詰所や練習場にまで押しかける始末。フェルナンドは遂に嫌気がさして、ダイルと共にカンザスを出て、隣国にこっそり武者修行に出た事もあった。


 勿論、王都に近付かなければフェルナンドは自由だった。フェルナンドは15才で冒険者登録をして21才まで各国を旅してまわったのだ。


 18才の時に隣国カンパチェ皇国で、かつての師匠ヨハネス・エイバンと再会した。彼はどうやら家族でレジーナ皇妃の元に呼ばれていたらしく、城下町であった時に一目でフェルナンドの変装を見破った。


 それからだ、フェルナンドがエイバン侯爵に困った事を相談するようになったのは。まるで自身の父親の様に慕っている。


 彼の二人の息子とは兄弟の様に付き合っている。


 すっかりめが覚めたフェルナンドは早めの朝食を摂る為に、着替えをしていた。


 ああ、久しぶりに会うのだな。突然、訪ねればあの二人にどんな顔をするだろう。


 ほんの少し心が晴れたのを感じながら、フェルナンドは宿の食堂に向かったのだった。

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