第4話 セシリア・ガストン

 王都郊外近くの牢獄で、ある少女がぶつぶつと呟いている。


 「なんで、どうしてわたしがこんな所に入れられるの?上手くいったはずよ。わたしはちゃんとゲームの通りに攻略対象者を次々に攻略したはずなのに、どうして隠しキャラのルートが開かないの?どこで失敗したの?」


 わたしの名前はセシリア・ガストン。父は伯爵家の当主で、母は平民の娼婦だった。お金で体を売っていた母は、父に金で囲われた愛人となってわたしが生まれた。


 わたしには前世の記憶がある。前世では日本のごく普通の高校生でスマホのアプリゲーム通称『きみ薔薇』と呼ばれる人気のゲームにはまっていた。何度やっても難関な王弟フェルナンドルートがはまる原因になっていた。彼のルートを開くためには、王太子アルフォンソを攻略して婚約者にならないと開かない。何故なら彼は特殊な生まれで、王位争いに敗北した為、辺境侯爵家にお預けとなっている身だから、王都には住んでいない。彼に会うためには、王都に呼び戻させるイベントが必要なのだ。それが、王太子の新しい婚約者を披露する夜会。


 二人は王宮の『永遠の薔薇』と呼ばれる庭で出会うイベントで、惹かれあって最終的にはアルフォンソを捨ててフェルナンドを選べばいいだけだった。でも一つ気を付けないといけないのは、フェルナンドは他人に心を許さない人間で、性格もツンデレタイプの設定。積極的に落とそうとすればバッドエンドまっしぐらの難攻不落のキャラだった。


 そもそもわたしは、学園に入った頃には前世の記憶なんてなかった。2年に上がる前にふと露店に並んでいる指輪を手にした瞬間に別の記憶が流れ込んできたのだ。だから、わたしは、その指輪がヒロイン・セシリアが常に身に付けていた指輪だと確信した。その場で買って、次の日から常に身に付けていた。だけどまさかその指輪が国の法にふれる禁忌の魔導具だなんて知らなかった。だって、記憶の中のゲームの説明にも出て来なかったから。


 だけど、アルフォンソの側近であるイーサンのイベントに成功した私は有頂天になって、次々と他の攻略対象者を落としていった。そんな中、アルフォンソは思う様に攻略出来なかった。彼を攻略するのに一年を費やして、やっと攻略できたのに、イーサンがあの中庭でわたしに斬りかかって来るなんて思ってもいなかった。


 そして、何よりあの悪役令嬢アナトーリアに庇われるなんて……。


 どうして、勝手に皆動くの?ここはゲームの世界の筈でしょう。わたしだって、目覚めれば自分に還れるはずよ。


 わたしはゲームの中でフェルナンドルートを攻略したかっただけよ。そのついでにイーサンやアルフォンソというおまけを攻略しただけなのに、裁判でわたしは死刑を言い渡された。


 「セシリア・ガストン。お前は多くの未来ある若者を誘惑し、堕落させ破滅させた。そして禁忌の魔法『魅了』を使った罪により、絞首刑となった。一週間後に刑を執行する」


 そう裁判長に言われた。


 もうすぐ執行人がやって来る。


 わたしは怖い、ただゲームをしていただけなのに。どうしてこんなに怖いのだろう。


 本当にここはあの『きみに奉げる100本の薔薇を』の世界なのだろうか。


 もしかしたら、わたしの迷い込んだのはパラレルワールドで、ゲームのキャラではなく本当にのだろうか。


 黒い頭巾の男がわたしを広場に連れて行って、首に縄をかけている。別の頭巾の人間の合図でわたしの足元の板がはずされた。


 苦しい。怖い。痛い。


 もうこれで、この世界とはおさらばだ。きっと目が覚めたらの普通の高校生に戻っているはずよ。そう思いながら、わたしの意識は遠のいて行くのだった。

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